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極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【14】お疲れ様、リアル衛兵ごっこ

遠くから衛兵達の何やら叫ぶ声を聞きつつ、我々は建物の屋根を疾走していた。


「ふはははは!成功だ!」

「さっさと技能を切らんか!馬鹿者!」


師匠にパシンッ!と頭を叩かれ、私ーー俺は、《偽相盗用》を解除した。


「うっ……おえぇ……」


途端にドッと疲弊感が全身を襲う。

頭の中で自我が混ざり合い、吐きそうになった。


だがーーまだ体は動く。

ユーディアに叩かれ、すぐに技能を切ったおかげだ。


「助かった……サンキュー、ユーディア」

「全く……世話が焼ける……」

「でも、何とか逃げられてよかっただろ?」


ーーあの時。

俺は事前にシャツを脱ぎ、マントを羽織ってワザと衛兵に見つかるように角を曲がった。


そして《落下猶予》でマントと服が立っているように見せかけ、《偽相盗用》でユーディアの技能をコピー。

彼と共に《天蓋疾走》で壁を駆け上がって逃げた。


衛兵達は落ちている服に視線が行くだろう。

上を見上げて探す者は少ないはず。


ーー夢中な時ほど、視野は狭まるからだ。


「へっくしゅ!」


その代わり、俺は今……上半身裸で走っていた。

さすがにちょっと寒い。


「……そろそろいいだろう。アルノー君、そこの階段から下に降りて、裏路地へ」


ユーディアのお墨付きを貰い、

言われた通りに下り、裏路地に入る。


ーーようやく、一息つけた。


「っだぁ〜……つ、疲れた……」


しゃがみこみ、脱力する。

体がまだ緊張しているのか、カタカタ震えていた。

いや、シンプルに寒いのもある。


俺が腕をさすっていると、

腕を組んだユーディアが「それで?」と俺を見下ろす。その瞳には、若干の怒りと、うっすら軽蔑の色が現れていた。


「アジトにいるはずの君は、何故、衛兵に追われていた?」

「いや、その……ひったくり犯を捕まえようとして……」


俺は、簡単に経緯を説明した。

エドとユノのこと。

聖母ニーナ様のこと。

ひったくり犯がエド達の姉だったこと。


全てを話した後、俺は財布を取り出した。

ずっしりと重い。

好奇心に負けて、開けてみる。


ーー小金貨や大金貨が、じゃらりと見えた。

ゴクリ、と生唾を飲み込む。


「で?」


ユーディアは腕組みをしたまま、俺に問いかける。

まだ不機嫌のようだ。


俺がひったくった訳じゃないのに、まるで俺が盗ったかのような視線である。


「これからどうする?その金貨をいくらかネコババするのか?」

「する訳ないだろ」


俺、そんなに信用ないのか?

……まぁ、俺と出会ってそんなに日が経ってないしな。俺の善良さをまだよく分かっていないのだろう。


財布をしっかりと締め、俺はユーディアを見上げた。


「なぁ、ちょっと案内してくれないか?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



まだ道を覚えていない俺は、ユーディアの案内で【せせらぎ亭】の近くに戻ってきていた。


「兄ちゃん!」

「おにーちゃん!」


近くにあったベンチから、エドとユノが心配した顔で駆け寄ってくる。


「……兄ちゃんもひったくり犯に服をひったくられたのか?」

「違っ……んんっ、そうだよ」

「さむそう……お洋服、とりかえせるといいね」


ソウダネ。トリカエセタラ、イイノニネ。


「あれ?うしろのひと、だぁれ?」


ユノが俺の後ろにいるユーディアに気がつく。

すると、ユーディアは芝居がかった様子で片膝をつき、ユノの手を取った。


「初めまして、可愛らしい春の蕾よ。私の名はユーディ……」


馬鹿馬鹿馬鹿!

俺は咄嗟にユーディアの口を手でバシン!と覆った。

強く叩いたせいか、後ろにひっくり返り悶絶している。

ごめんて。


「この不審者ーーあ、いや、お兄さんは、ユディっていうんだ」

「ふーん」


ユノは既に興味を失った様子だ。

ドンマイ、ユディ。


「エド、ユノ。被害者の婆さんはどこに行ったか分かるか?」

「【せせらぎ亭】の中だよ。サンドイッチ潰れちゃったから、作り直してもらってんだ」

「そっか、サンキュ」


エドの頭をぽすぽすしてやる。

ふと、エドとユノの手元を見ると、サンドイッチの包みがまだ握られていた。


「……先に食べなかったのか?」

「一緒に食べよって約束したじゃん!」


きっと腹を空かせていたはずだ。

なのに、待っててくれたのか。


えぇ子達や……。


「エド、ユノ。もうちょっと待っててな。婆さんにちょっと野暮用があってさ」

「分かった!」

「うん!」


ふと、背後に気配。


「この私に偽名なぞ……」

「バッカ!お前!ホントにアホなのか!?いいから黙ってろって!」


時々、コイツ頭ポンチかって思う。

いや、怪盗時は確かにポンチっぽい思考をしているけど。


【せせらぎ亭】の入口へ向かう途中、ユーディアはチラリとエド達を見た。


「あの子たちは、職業訓練所の?」

「そーだよ。エドとユノな。さっき偶然会ったんだ。一緒に飯食う約束だったんだが、俺がひったくり捕まえに行ったからさ。帰ってくるまでずっと待っててくれたみたいだ」

「いい子達だな。しかし、姉はひったくりの犯人だったのだろう?」


盗人紛いなことをしたエド達の姉に、ユーディアはあまりいい印象を持ってないらしい。


「怪盗も盗むってとこは同じもんだろ」

「全然違うわ!私利私欲で盗むのは、怪盗の美学に反する!」

「美学とか知らねぇよ。俺達と同じで、今日食う飯すら危うかったんだ。許してやれって」


ぐむむ……となるユーディアを放って【せせらぎ亭】の中に入る。

厨房近くのカウンターに老婆が一人腰掛けていた。

上品な身なりで、ゆるやかな感じの婆さんだ。

さっきの倒れてた人である。

上半身裸の男が入ってきたせいか、目を丸くして俺を見ている。


「お婆さん。さっき盗られたのって、この財布?」

「あらあら……それよ。もしかして貴方、取り返してくださったの?」

「まぁね」


上半身裸なの、突っ込まれなかった……。

いや、触れちゃダメだと思ったのか……。


財布を渡すと、老婆は中身を確認する。


「……ちゃんと全額あるわ。本当にありがとうねぇ。こういうのは、中身が少なくなって帰ってくるものだと思っていたから、とても驚いたわ」

「そんなドロボーみたいな真似、しませんって」


俺はドロボーではなく、見習い怪盗だ。

盗ったものは、ちゃんと返す。


すると、老婆は少しバツが悪い顔をして、俺の事をチラリと見る。


「ごめんなさい。最初、そんな格好で入ってくるものだから、少し盗られたかもと身構えてしまったの」

「あ、あはは……」

「それで……その、貴方?その格好……寒くないのかしら……?」

「寒いっすよ。あーそのー、ひったくり犯と揉めた時に、盗られちゃって……」

「あらあらあら……」


老婆は上品に頬に手を当てて首を傾げると、財布を開く。

そして……小金貨を1枚、取り出した。


「これ。良かったら、服の足しにしてちょうだい」

「え゛っ!?いやいやいや、貰えませんって!」

「財布を取り戻してくれたお礼と、疑ってしまったお詫びよ。どうぞ」


ーー正直、喉から手が出るほど欲しいッ!


けど、俺はただ財布を取り返しただけでは無い。


ひったくり犯になりきって、大勢の衛兵達に迷惑をかけてしまった。悪いやつが残念な目に合うのは構わないが、彼らは真面目に全力で自分の仕事をしただけだ。


その、喉に引っかかる小骨のような小さな罪悪感が、目の前の金貨に手を伸ばさせない。


俺はぎゅむっと血が出そうなほど唇を噛み締めると、

ふわっ……と爽やかな笑顔を見せた。


あらゆる人間を絆す、人たらしの笑顔。


ーー秘技ッ!“竹田くんスマイル”ッ!


「俺は、当然のことをしたまでです。お気持ちだけで、十分感謝は伝わりましたから。ありがとうございます、お婆さん」


隣にいるユーディアが「は?」と珍獣を見るような視線を向ける。

なんだテメェ……言いたいことあるなら言えよなぁ……。


「あら、そう?でもねぇ……」


老婆はどうしようかしら?と上品に首を傾げる。

頼む!俺の良心が残っているうちに諦めてくれ!


俺の中の天使と悪魔が声を揃えて「「貰っちまえ!」」と叫ぶ。せめて対立してくれ、俺の良心。


「クラリスさん、お待たせしてすみません。下ごしらえしてた食材がちょうど無くなって、お時間がかかってしまいました」


ニーナさんがサンドイッチの包みを持って現れる。

ついでに俺の姿を見て驚く。


「あら……先程の。どうしたの?その格好」

「この子ね、私の財布をひったくり犯から取り返してくれたのよ。その時に、服が盗られてしまったのですって」

「あら〜」


ニーナさんは「そうだわ」と言うと、パタパタを厨房に駆けていき、1枚のシャツを持ってきた。

偶然にも、俺の置いてきた服と同じやつだ。


「これ、うちの旦那用に買ったのだけれど、サイズを間違えてね?切って雑巾にでもしようと思ってたの。どうせなら使って」

「え!?良いんですか!?ありがとうございます!」


なんていい人だ……聖母ニーナ様……。

俺は心の中で手を合わせ、さっそく貰った服を着た。


「あら、ニーナさんの服は受け取って、私のお礼は受け取ってくれないのかしら?」


妬いちゃうわ、と茶目っ気たっぷりに老婆ーークラリスさんは微笑んだ。

ぐむむ……どうしても俺にお礼がしたいらしい。


少し悩んでから、俺はクラリスさんに“竹田くんスマイル”で笑いかけた。


「なら……クラリスさんの奢りで、サンドイッチを3つください」

「まぁ、それだけ?」

「外にエドとユノっていう子がいるんですけど、俺が帰ってくるまでサンドイッチをお預けにさせちゃって、冷めちゃったんです。暖かいの食わせてやりたいんで」

「あらあら……優しいのね」


クラリスさんは「お願いできるかしら?」とニーナさんに頼む。

ついでに、俺もニーナさんに尋ねたいことがあった。


「あの、ニーナさん。ひったくり犯が踏みつけたサンドイッチって……」

「あぁ、あれ?さすがに土まみれだったから、捨ててーー」

「あのっ!それ、貰えませんかッ!!」


食い気味に俺が言ったせいか、ニーナさんが目をぱちくりさせる。


「それなら、新しいの作るけれど……」

「だって、あんなに美味いのに勿体ないじゃないっすか!」


残飯を漁る俺にとって、多少土が付いた程度なら全然セーフだ。むしろどのゴミ袋に捨てられるか分からなくなるなら、ここで確保しておきたい。


俺の勢いに押され、ニーナさんは土まみれのぺちゃんこサンドイッチを持ってきてくれた。


「ホントに面白い子ね。そういえば、名前は?」

「アルノーです」

「アルノー君ね。覚えておくわ」


よし、絶対来よう。目指せ常連客。


「アルノー君」


クラリスさんが、穏やかな笑みを浮かべる。


「改めて、本当にありがとう。私ね、商業街で【エヴァレット旧蔵店】というお店で、古物商をしているの。古臭いものだらけでつまらないかもしれないけれど、良かったら今度うちに遊びに来て」

「はい、必ず行きます」


予期せぬ知り合いが増えた。

古物商……何があるんだろうか?

行くのが楽しみである。


「お待たせ〜」

「ありがとうございます!」


ニーナさんから出来たてのサンドイッチを3つ受け取る。

熱々で、いい匂いだ。


「それじゃあ、ご馳走様です!クラリスさん!」

「いえいえ。また会いましょう、アルノー君」


「またサンドイッチ、食べに来てね」

「はい!今度はちゃんと料理も頼むんで!」


俺は2人に手を振り、店を出た。


ーーその後ろを、“気配”だけのユーディアが、静かについてきていた。

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