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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【10】エドとユノ

朝起きると、全身がガタガタだった。

動くのが超しんどい。


「おはよう。やっと起きたかね?」


ユーディアが机に肘をついて、俺を呆れた顔で見てきた。先に起きて食事を終えていたらしく、テーブルには俺の器だけが置いてある。


「おはよ……今どのくらいだ?」

「昼前くらいだ。寝すぎだぞ。講義は今日も行くのだろう?」

「……今日は無理。せめて筋肉痛が治るまで待ってくれ」

「嘆かわしい……あれほど講義期間を大切にしようと言っていたではないか」

「うっ……返す言葉もありません……」

「ーーだが、講義に行かないのなら時間はあるな?」


ユーディアはそう言うと、俺の前に怪盗服やマントなどの一式を置く。


「……なにこれ」

「君の服もまだ洗っていないだろう。ついでに私の服も洗っておくように」

「はぁ?なんで俺が……」

「弟子が師の世話を焼くのは当たり前だろう。あと、講義に行かないのであれば、せめて私の役に立てと言っている。私は出てくるから、あまりうろちょろするなよ」


そう言って、ユーディアは何かを投げてよこした。


受け取ってみると、瓶だった。

表面に《洗剤》と書かれている。しかも二本。


「緑が洗濯用洗剤、ピンクがおしゃれ着洗剤だ」

「何!?おしゃれ着洗剤って!?」

「型崩れしにくい、ちょっといい洗剤だ。私の怪盗服は必ずそちらで洗うように」


俺の返事待たず、ユーディアは出ていってしまった。


「……弟子じゃねぇっての」


ちぇっ。せっかちなヤツめ。なぁにがおしゃれ着洗剤だ。

ギチギチの体を起こし、俺はテーブルにあるスープを飲み干した。……具材が少ない。

そろそろ、スープ以外のものも食べたいものだ。


俺とユーディアの服をまとめて持ち、水路へ向かう。

自分の服も洗いたかったので、洗剤があるのは正直ありがたい。


「……で、洗濯ってどうやるんだ?」



洗濯機はもちろんのこと、タライや洗濯板などもない。


周囲を見渡すと、水路のそばに洗濯をしそうな女性がいた。

服を詰めたタライを持ち、水路に近づいていく。


丁度いい。参考にさせてもらおう。


そう思って見ていると、女性は水路に手をかざした。

すると、水がぞぞぞっと宙に浮き、大きな水球になる。


その中に服と洗剤を入れ、再び手をかざすと、水球が高速回転を始めた。


しばらくして、水球がペッと服を吐き出す。

出てきた服は、すでに乾いていた。


女性は水球を近くの穴に流し、服を抱えて去っていった。


……全然参考にならねぇ。


水路の近くを見ると、汚水用の排水穴が設けられていた。

なるほど、生活用水と排水は分けているのか。


俺が水路で直接顔を洗ったのは、どうやらマナー違反だったらしい。

次からは気をつけよう。


ともあれ洗濯だ。


俺は近くの路地をうろつき、使われていないボロボロの桶を見つけた。

桶で水をたっぷり汲み、まずは俺の服の泥を落とす。

排水を捨て、またすすぐ。筋肉痛の身体には結構な重労働だ。

あらかた汚れが落ちたら、ユーディアの怪盗服一式と俺の服を水を張った桶にドボンする。


「……ま、全部おしゃれ着洗剤でいいか」


いい洗剤らしいし、汚れがより落ちるだろう。

どの程度入れればいいのか分からなかったので、ボトルの中身を全部ドボドボと入れてみた。


「おー、すげー泡立ち」


軽く混ぜただけでぶくぶくと泡立ち、洗剤の香りが広がる。しかし、怪盗服や俺のコートは布の量が多い。ユーディアに至っては、黒い皮の手袋や靴下、下着まで全部渡してきている。これを手で洗うのはしんどい。


「ま、いっか。洗えればいいだろうし」


靴を脱ぎ、桶の中へ足を突っ込む。


ふみふみ。

ふみふみ。


泡立ってるし、たぶん大丈夫だろう。

水を捨てて、もう一度ふみふみ。


……あれ?


泡が全然減らない。

水を替えても、まだ泡立つ。


「……もういいか」


洗剤が少し残っているくらいの方がなんか綺麗な気がするし、筋肉痛持ちにはキツイ仕事だ。

俺は早々に切り上げて、びしょ濡れの服を持ってアジトへ戻った。干す場所が無いので、屋根の上に広げて並べる。

今日は快晴だ。そのうち乾くだろう。


洗濯おわり。


「あいたたた……」


腕や足が悲鳴を上げる。

筋肉痛なので激しい運動はしたくはないが、何もしないでいるのもなんだかなぁ。

そういえば街に出る時はいつもユーディアと一緒だったが、今ヤツの気配はかなり遠い。


「……せっかくだし、街をぶらついてみようか」


素っ裸で路頭に立っていた時に見た、異世界雰囲気を満喫するタイミングがなかなかなかったのだ。いい機会かもしれない。よし、明日から本気出そう。


ユーディアの「うろちょろするな」という言葉をスルーし、俺は適当な布を顔に巻いて隠すと、往来の多い表通りに向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


出店通りは、まだ朝市の活気を残していた。

あちこちで物の売り買いが行われ、とにかく人が多い。


そして何よりーー


(ーー獣人だ!!)


異世界ならではの種族!頭からケモ耳が生えている!すげぇ!

耳だけだと犬なのか猫なのか判別は出来ないが、後ろから生えた尻尾とセットでなんとか判別できる。


(……けど、意外とエルフは居ないな……)


生エルフを拝みに来たようなものだったのに、全然いない。珍しい種族なんだろうか。


と、その時。


「あ!20個の兄ちゃんだ!」


背後から声をかけられ、振り返る。


そこにいたのは、職業訓練所で身分札を見せてきた少年――エドだった。


「お前、エドか?」

「そうだよ!」


エドは小さな体に不釣り合いな、大きな籠を背負っている。

中には食材がぎっしり詰まっていた。


俺が名前を覚えていたのが嬉しかったのか、ニカッと笑う。


「兄ちゃんも仕事?」

「……そ、そうだよ〜」


俺は嘘に嘘を重ねた。

子供相手に見栄を貼り続ける、虚しい大人である。


「なぁなぁ兄ちゃん、ホントに技能20個もってんの?」

「えっ」

「だって、《体力系統》も《魔法系統》もからっきしじゃん!」

「それは……」

「みんなさ、『嘘ついてる』って言うんだよ。でも、大人が子供に嘘つくなんて、普通ないだろ?」


ある。めちゃくちゃある。

というか今まさに二回目だ。


俺が言葉に詰まっていると、エドの後ろから、さらに小さな女の子が駆け寄ってきた。こちらも、背丈ほどもある大きな荷物を背負っている。


「にいに、まってよ〜」

「ユノ、遅いぞ」


その子に、俺は見覚えがあった。

ーー俺の前の席で、技能の数を聞いてきた女の子である。

まさかの兄妹だったのか。


「あ!20個のおにーちゃん!こんにちは!」

「こ、こんにちは……」

「なぁ、ユノもそう思うだろ?」


話を聞いていないユノはこてん、と首を傾げる。


「なんのはなし?」

「この兄ちゃんが技能たくさん持ってるって、嘘じゃないかって話。みんな言ってたじゃん」


ユノは俺を見上げる。


「ウソじゃないよ。おにーちゃんが自分でいったもん」

「うっ……」

「それに、『ウソつきはドロボーのはじまり』なんだよ」


あまりにも純粋な瞳で見上げてくるユノ。

……お兄さんはね、“ドロボー”どころか“見習い怪盗”なんだよ、とは口が裂けても言えなかった。


「なぁなぁ、ホントに技能がたくさんあるなら、どんな技能?見せてくれよ!」


エドが俺に迫る。

なんと言い逃れするべきかと考えているとーー


ドンッ!


「きゃあ!」


往来の多い道で立ち話をしていたせいか、ユノの荷物が通行人にぶつかり、前のめりに倒れそうになる。


背丈ほどあるでかい荷物を背負っているのだ。

顔面からいったら、怪我をしてしまう。


「危ないっ!!」


咄嗟に手を伸ばすが届かない。

せめて、荷物だけでもーー!


その時、俺の中の魔力が、ごっそりと削れた。


「……わっ」


ユノの体が、倒れそうな姿勢のまま止まっていた。

明らかに、重力を無視している。


その隙に駆け寄り、荷物を支える。

ずしり、と腕に伝わる重さ。

こっ、こんなものを細腕の子が背負っていたのか……。


異世界の人間のたくましさと自身の非力さを痛感しながら、なんとかユノを立て直した。


「ユノ!大丈夫か!?」

「う、うん」


エドが駆け寄るが、ユノは怪我ひとつしていない。


「もしかして、今の……兄ちゃんが?」

「あ、あぁ……うん……」


間違いない……《落下猶予》の効果だ。


自分にしか使えないと思っていたが、どうやら“落下”と判定されれば、他人にも効くらしい。どこまでが“落下”となるか分からないが、転倒は“落下”と判定されたようだ。


「おにーちゃん、ありがとっ!」


ユノが満面の笑みを浮かべる。

とにかく怪我がなくてよかった。


「兄ちゃんすげぇ!今のなんの技能!?宙に浮くなんて!」

「いやいや、なんて事ない……そう、“魔法”だよ」


嘘では無い。俺にとっては魔法のようなものだ。


「でもでも!宙に浮く魔法って、風魔法くらいしかないだろ!?でも風が無かったじゃん!」

「えっ、まぁ、風魔法じゃないから……」

「スッゲー!」


なんだかめちゃくちゃ食いつかれた。


「もしかして、無属性で“宙に浮く”魔法!?そんなの、《定理技能》じゃん!」


おっと、また知らない単語が出てきたぞ。

これ以上嘘を重ねると善良な俺の良心が痛むので、素直に聞いてみた。


「エド、《定理技能》って?」

「えっ?知らねーの?」

「俺は外国……この大陸の外から来たんだ。だから詳しくなくて……」

「この大陸以外って、魔族領しかないけど……」


おいおい待て!知らん単語が追加されたし、え、何、大陸ここだけ!?魔族とか何それ!?


「そっ……それ以外にも、小さな島国があるんだ。珍しがられるのが嫌だからさ、みんなには内緒な?」

「分かった!だから兄ちゃん変なんだな!」


納得してくれたエド。なんとか誤魔化せて良かった。


「あっ」


エドがユノを見る。


「やっべ、荷運びの途中だった」

「にいに、おしゃべりすきだもんね」


ユノに笑われて「へへへ」と頭をかいたエドは、好奇心に満ちた目で俺の方をチラリと見る。……まぁ、どうせ暇だし、付き合うか。


「俺も一緒に行くよ。せっかくだし、ユノちゃんの荷物、ちょっとだけ持つからさ」

「いいの?」

「あぁ。これも何かの縁ってことで」

「ありがとっ、おにーちゃん!」


うんうん。子供の笑顔は俺も嬉しくなるな。

俺はユノちゃんの背負っている荷物の包みを2つほど小脇に抱える。

ーーお、重い。


「じゃ、行こうぜ!歩きながらでも話すよ!」


人混みを縫って歩きながら、俺はエドとユノについて行くことになった。

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