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極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【序章】かくして異世界に来たりけり

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【2】プレゼンテーション

視線で座るよう促され、俺は倒れた椅子を起こして腰を下ろした。

作り笑いを止め、ラディックと向き合う。


「……なんで俺の名前を知ってる? それに、俺のことも」

「“異世界もの”でよくある話でしょう。私の世界における“才能”です」


ラディックは、軽く肩をすくめる。


「といっても、触れた相手の人生をほんの少しだけ覗き見る。それだけの力ですよ」


最初、こいつは俺と握手をしようとした。

だが俺がそれを避けたから、次は指輪を餌にしたわけだ。


俺はジト目で商人を睨みつける。


「……勝手に覗いたことは謝ります。しかし、あなたにとって良い提案になると確信しました」


ラディックは申し訳なさそうな顔で言った。

俺が話し合いのテーブルにつかない場合、強引にでも話が出来るように予防線を張っていたのだろう。


「……分かった。話は聞くが、聞くだけだからな。いいな?」

「ありがとうございます」


決意は変わらない。

俺は必ず元の世界に帰る。

これは決定事項だ。


「あなたの人生はとても物寂しい……」

「あん?」

「おほん、失礼。大変起伏の少ないものでした。」


俺の中で、ラディックへの好感度が少し下がった。


「それには、原因があります。

ーーあなたの世界が、あまりにも“平等”だからです」


ラディックは、静かにそう切り出した。


「才能があるかどうか分からないまま、誰もが何にでも挑戦できる。

 それ自体は、とても優しい仕組みでしょう。

 ですが――だからこそ、多くの人が途中で諦めるか、

 半端な実力のまま、茨の道を歩むことになる」


優しいが、残酷。

その言葉が妙に胸に残る。


「故に、自分に才能があるか分からない人達は、

 傷つかないよう、外れないよう、

 判を押したような人生を歩く者があまりにも多い」


ラディックは、俺を見た。


「余程の成功か、余程の失敗でもなければ、

 人生に起伏を感じることは難しい。

 ――“直線上のP点”は、あなただけではないでしょう」


……なるほど。

多少の暴論はあるが、あながち間違いではないかもしれない。


いつもの俺なら鼻で笑って「はいはい」と適当に聞き流せていただろう。

だが、この時ばかりは、何故だろうか。

胸の奥に確かに引っかかるものがあった。


「では、私の世界はどうか」


ラディックは、迷いなく続ける。


「私の世界では、誰もが自身の“才能”を確認できます。

 そして、それに見合った職業が与えられる」


さらに、と言わんばかりに指を立てた。


「たとえ才能がなくとも、努力が認められれば、

 それは“新たな才能”として授けられるのです」


――才能が分かるから、最初から進む道を誤らない。

――努力すれば、別の道で一流になれる可能性がある。


先程見せられた、ラディックの“才能”が脳裏をよぎる。

あれほどの力が、努力の末に得られるのだとしたら。


……正直、

ほんの少しだけ、心が揺れた。


「どうです?有野さん。

自身の才能を、その目で確かめてみたくはありませんか?」

「いや……でもな?俺みたいなのが行っても、大した才能なんて」

「いいえ。あなたは大変貴重な才能をお持ちです」


随分と俺を買っているみたいだが、

その自信はどこからくるんだ?


「そこまで言うなら、根拠はあるんだろうな?」

「《妖精王の気まぐれ(チェンジリング)》は、同価値の存在を呼び寄せます」

「それはさっき聞いたけど?」

「では、簡単にですが、私の“価値”をお伝えしましょう」


一拍置いて、ラディックは静かに言った。


「私はアーヴァンテール王国の貴族で、男爵位を持っています。資産は大金貨500枚ほど。あなたの世界換算で、およそ5000万円」

「……ん?」


「商人としての利益を含めれば、大金貨800枚ほどでしょうか。あなたの世界換算で、およそ8000万円です」

「……え?」


「私の持つ“才能”は、先程のものを含めて15個ほど。平民の“才能”は成人でだいたい7~8個ですので、破格と言えるでしょう」

「……」


「ついでに妻がひとりと子供が3人おります。幸せな家庭です」

「ひぇ……」


……あまりにも世界が違う人でクラクラした。

地位も名誉も才能もあり、幸せな人生を歩んでいる。

いわゆる勝ち組というやつだ。


「……なんで、そんな人が俺と?」

「では、問います」


ラディックは、真っ直ぐ俺を見た。


「あなたの“価値”とは、何でしょう?」


咄嗟に言葉が出ない。

俺の……“価値”?


「私は、あなたに“何か”があると思っています。あなた自身も気づいていない、この私の人生と釣り合うだけの素晴らしい“才能”が」


ドクン、と胸が僅かに高鳴る。

この順風満帆な人生に釣り合うだけの、俺の“才能”。

異世界に永住する気はないが、ちょっと行ってその才能を確認するだけでも悪くない話ではなかろうか。その才能次第では、直線上のP点は右肩上がりに急上昇も有り得る。


「もし異世界にいらっしゃるのなら、滞在中は私の屋敷をお使いください。使用人達にはお客人が来るよう、伝えておりますので。滞在中は、資産の半分まではご自由に使えるよう手配してあります」

「はん、ぶん?よ、4000万……?」


あまりの好待遇に期待が膨らむ。

だが、同時に疑念も浮かんできた。


「……どうして、そこまでして俺の世界に?」


資産の半分なんて相当な覚悟のはずだ。

俺の疑問に、ラディックは懐かしむように目を伏せた。


「私は、元々あなたの世界の人間でした。死んでこちらの世界に生まれ変わったーー転生者です」


静かに零すその言葉は、先程の異世界の商人ではなく……ただ1人、故郷に思いを馳せる人間特有の物悲しさを感じられた。


「突然でしたからね。別れを告げられなかったんです。……家族に」


「……」


「有野さん」


ラディックは立ち上がり、深々と俺に頭を下げた。


「3日でいいのです。どうか……どうか私に、家族へ別れを伝える機会をくださいませんか」


その言葉は、重かった。

彼の人生はもう元には戻らない。もはや違う世界の人間だ。

だからこそ、本来は叶わぬであろう“過去の人生”と交差する可能性を得た時点で、彼はまさに人生をかけた商談に挑むことを決意したのだろう。


もし俺が彼だったのなら、俺に同じような選択が出来ただろうか?


「頭を上げてください」


俺は、そっと彼の肩に手を置く。

顔を上げたラディックは、先程までの商人らしからぬ、まるで懇願するかのような表情をしていた。


「そういう事情なら、協力しますよ」

「有野さん……」

「ま、3日くらいなら、いい気分転換になりますし。旅行気分で甘えさせてもらいますよ。というか、最初から言ってくれれば良かったのに」

「ハハハ……商人の悪い癖です」


ラディックは、泣きそうな顔で笑った。


「ありがとうございます。有野さん」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それでは、準備の方はよろしいですか?」

「あぁ」


俺は異世界行きのメタリックブルーの指輪を、

ラディックさんは地球行きのピンクの指輪を持つ。


俺だけ好待遇なのも気が引けたので、3日間過ごす為の自宅の鍵や、スマホや、なけなしのお金などをラディックさんに渡した。転生者なので、使い方は大丈夫そうだ。


「それでは、3日後に。ーーあぁ、そうでした」

「ん?」

「その指輪はつけていないと帰還できません。私も帰れなくなりますので、3日間だけはどうか肌身離さずお持ちください。」

「了解。風呂でも寝る時でも、ずっとつけときます」

「恐縮です」


彼は俺に優しく微笑みかけてくれた。


「ーーそれじゃあ、良い旅を」


俺が指輪を中指にはめた瞬間、世界が眩い光に包まれる。


一瞬、立ちくらみのような感覚。

次の瞬間、俺は見知らぬ部屋に立っていた。


――書斎だ。


壁一面の本棚。重厚な書斎机。

時刻は夜らしい。

薄暗いが、大きな窓から差し込む月光のおかげで、部屋の様子はよく分かる。


ふと、机の上に1枚のカードが置かれているのに気づいた。紅色の紙に、金色の縁どり。クリスマスカードみたいな派手さがあるやつだ。

裏返してみると、そこにはこう書かれていた。


『今夜、あなたのもっとも大切な宝を頂きに参上する。

ーー怪盗ユーディア』


「……怪盗?異世界に?」


こっちの世界でも怪盗なんていなかったが、どちらかと言えば現代の世界観の方がしっくりくる気がするけどな。小首を傾げつつ、俺はカードを机に戻し、窓へ向かう。


両開きの大きな窓を開けると、どうやらここは四階ほどの高さらしい。

夜でも街は明るく、人々が行き交っている。

祭りでもやっているのか、この屋敷前の広場が賑わっていた。


異世界と聞いて文明レベルを心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。

中世より少し進んだ時代――遠い異国に来たような感覚だ。


「才能、か」


外を眺めつつ、指輪を撫でる。数日間だけの滞在だが、こんな体験は「竹田くん」だって経験したことがないだろう。ここでの生活は、俺だけの“X軸”としてきっと今後の人生に大きな変化を与えてくれるーーそんな予感がした。


――その時。


視界が、唐突に黒く染まった。


違う。

黒い“何か”が、俺の目の前にいた。


「うわぁっ!?」


それは、男だった。

上下真っ黒の派手な衣装。カラスのように翻るマント。


思わず後ずさる。

待て待て待て、ここは4階だぞ!?


男はマントを大袈裟に一払いすると、まるで小鳥が枝に降りるような優雅さで窓辺に立った。


「やれやれ。予告状を出したというのに、随分簡素な歓迎じゃあないかね?」

「なっ、えっ!?」

「私はこの日を心待ちにしていたのだが……どうやら、私の片想いだったらしい」


次の瞬間、男の姿がかき消える。


「ーーっ!?」


「これが君のもっとも大切な“お宝”か。なんとも妖しく美しい……」


後ろから声。

振り向けば、窓辺に立っていた男が部屋の中央に移動していた。

その手には、メタリックブルーの指輪。

帰還に必要な《妖精王の気まぐれ(チェンジリング)》が、そこにあった。

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