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極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【9】弟子の教えと師の教え

俺は、掃除を終えたアジトにある低いテーブルの上に立っていた。


そのまま、大きく跳ぶ。


「――《落下猶予》ッ!」


ずわっと、身体の内側から魔力が吸い取られる感覚。

次の瞬間――俺は宙に浮いていた。


「見ろよ、ユーディア! 俺、飛んでる!」

「それを飛んでいるとは言わん。“落ちていないだけ”だ」


すぐに地面へと着地した俺を一瞥し、ユーディアは残飯スープをかき混ぜながら鼻で笑った。




夕方ーーアジトに帰宅後。

俺とユーディアは簡易なシャツに着替えていた。

俺の全財産とユーディアの持っていた金で、2人分の着替えを上下一式買ったのだ。


ユーディアもいつもの気障ったらしい怪盗装束を脱ぎ、普通の服を着ている。

服が変わっただけで、怪盗から一気に「近所のお兄さん」へとジョブチェンジしていた。


夕食の準備をするユーディアの横で、手持ち無沙汰な俺は、もうひとつの技能――《落下猶予》を試していた。


どの程度使うと魔力欠乏になるか全く分からないので、恐る恐る2~3回ほど使ってみて分かったことがある。


この技能を説明するならば、『海外のコメディアニメの落下シーン』に尽きる。

画面のキャラが、地面が続いていないことに気が付かず、空中をそのまま歩き……地面が無いことに気がついた瞬間、ピュン!と落ちるヤツだ。


技能を使用する時は、『落下する前』でないと発動出来ない。落下中は使えなかった。


そして、滞空時間は2~3秒。

“宙返り”や、“2段ジャンプ”なども出来ない。

コメディアニメよろしく、空中で足をシャカシャカさせて終わりだ。


また、自身に対して連続使用も不可。一度使えば、地面に足が着くまで再使用は出来なかった。


総評ーー


「なんなんだ、このクソ技能……」


まさか、《偽相盗用》より使えないクソ技能だとは思わなかった。

その名の通り、落下までの“猶予”が与えられるだけ。

まさに誰が使うねん!的な技能だ。


「技能にも、使い勝手や質というものがあるからな」

「……俺のこれは?」

「粗悪品質」

「クソォ……」


コトリ、と音を立てて、ユーディアが残飯スープをテーブルに置いた。


最初は抵抗があったが、今日捨てられた野菜の切れ端などを使っていると知ってからは、案外普通に食べられている。

……味は、相変わらずだが。


飲食街から漂ってくる肉の香りをおかずに、俺は「いただきます」とスープを啜った。


「そういや、ユーディアってどうやって金を稼いでいるんだ?」


ふと、気になって聞いてみた。

盗んだものは返す主義。

それなら収入ゼロで完全自給自足かと思っていたが、身なりは綺麗だし、公衆浴場の料金も払う。

技能を使って無断利用するような真似もしない。


最低限の収入がなければ、とっくに浮浪者みたいになっているはずだ。


「時々、薬草や山菜を採って、商人に売っている」


山菜売りのようなことをしてるのか、この怪盗……


「ほんと、お前って質素な暮らししてるよな。金とか、豪遊に興味がないのか?」

「フッ……そのような俗物的な娯楽で、この怪盗ユーディアの心は満たせまいーー」

「“白札”だからロクな職に就けないとか、文字が読めないから仕事がほとんど無いとか?」

「………………………」


無言でスープをもきゅもきゅしている。

ちょっとはポーカーフェイスを頑張れよ怪盗。


「何で怪盗なんかやってんだよ」

「“怪盗行為”ほど、美しいものはないからだ」

「人に迷惑かけておちょくるだけのくせに」

「ッハーン!相変わらず美学というものを分かっておらんな!それが楽しいのだよ!」


――要するに、趣味である。


俺が師弟契約を結んだことは、ある意味では社会貢献になっている気がしてきた。

俺は、いつもより具材の少ないスープをグイッと飲み干す。


「ともかく、今後のためにも文字の読み書きは必須だ。さっさと始めるぞ」

「まだ私が食べているだろう」

「ほぼ汁じゃんか!飲め飲め!」


無理やりユーディアにスープを飲ませ、俺は今日貰った簡易講義の教科書を取り出した。

子供向けらしく、ひらがな多めの本だ。


「とりあえず、この本を読めるようになるのが目標な。ちなみに今、どの程度読める?」

「ふむ……」


ユーディアは本をぱらぱらと捲り、いくつかの文字を指差した。


「これは『今』、『を』、『宝』、『あ』、『た』、『夜』、『も』、『る』、『大』、『き』、『頂』、『す』、『の』……」


……偏りがひどい。


俺は一瞬考えてから、察した。


――今夜、あなたのもっとも大切な宝を頂きに参上する。


「お前、予告状の文字だけは読めるのかよ!」

「当然だろう。これだけは覚えた」


いや、もう少し頑張れなかったのか。

……とはいえ、ゼロから教えるよりはマシか。


俺はユーディアを外へ連れ出し、枝で土の地面にひらがなの五十音を書いた。


「まずは書き取りだ。俺が読み上げるから、見ながら書け。反復練習あるのみ」

「こんなにあるのか……」

「これが終わったら次はカタカナ、その次は漢字な」

「なぜ公用語は三種類も文字を使うのだ……」

「俺も知りたい」


確か、日本語の習得難易度は世界トップクラスだったはずだ。覚えるのは大変だろうが、それでもやってもらわねば。


「ほら!書け!まずは“あいうえお”からだぞ!」

「……えぇい、分かっておる!やれば良いのだろう!」


俺はユーディアが地面にしゃがみこみ、俺が書いた文字を見ながら枝を動かす。


「あ……い……う……え……お……か……き……」

「そこちがう。“き”の下の膨らみは、左側に膨らむんだよ」

「左右の違いなど大したことでは……」

「あるんだよ!はい、やり直し!」


俺は足で文字を全て消す。


「コラ!間違ってない文字まで消しているぞ!」

「間違わないように集中しろってことだよ!変な覚え方をすると、妙な癖になるからな」


物事を覚える時、ファーストタッチは大切だ。

例えば箸や鉛筆の持ち方も、最初の覚え方がおかしいと、ずっと後まで尾を引きずる。

基礎の基礎ほど、しっかり固めないといけない。

その為ならば、俺は鬼軍曹にでもなる。

決して昼の憂さ晴らしではない。


「はぁ〜い!初めからァ~!!」

「ぐぬぬ……!」

「ざぁ〜んねぇ~ん!やり直しィ~!」

「ぐむむ……!」


しゃがみこみ文字を書くユーディアを見下ろしつつ、間違うたびに容赦なく文字を消す。


……うーん、楽しいねッ!


ちょいちょい俺を見下してくるユーディアだが、今は俺が指導する立場だ。


自慢にはならないが、俺は器がとても小さい男である。


やられたら必ずやり返す。

出来れば倍返しでやり返す。


……いや、違うな。


ユーディアにはこの世界のことを色々教えてもらったりと、感謝はしている。

これは、その恩を返しているに過ぎない。


ーーそう、いい事をすると気持ちが良い。


「下衆めぇ……」


地面を見つめつつギリィ……と歯を食いしばるユーディア。

ふはは苦しめ。

俺の地獄の講義中に惰眠を貪った報いを、今ここで受けるといい。


その後、日がとっぷり暮れ、地面が見えなくなるまで――

俺とユーディアは、文字の指導を続けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜。

ユーディアは地面に倒れ伏していた。


普段使わない頭を酷使したせいだろうか。

目は虚ろで、今にも頭から煙が上がりそうだ。


一方の俺はツヤツヤである。

徳を積んだ気分だ。


「いやぁ、勉強っていいね。視野が広がる!」


さて、このまま気分良く寝るか――と、アジトに入ろうとしたその時。


ガシッ。


俺の肩を、ユーディアが掴んできた。

疲れ切っているせいか、動きが完全にゾンビだ。


「……待ちたまえ。私の特訓が、まだあるだろう」

「……今日は、やめにしない?俺、ベレー先生の講義で――」

「言ったはずだ。文字の練習の後は、怪盗技能の特訓だと。怪盗に、二言はない」


恨みの積もった目で睨まれる。

逃がす気は一切ないらしい。


――文字の指導と怪盗の訓練、

順番を間違えたかもしれない。


「来い。行くぞ」


ユーディアは怪盗のマントだけをバサリと羽織り、カツカツと歩き出す。

仕方なく、俺も後に続いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


市街地から外れた、比較的人の少ない商業区域。

建物がひしめき合う、その隙間の暗い路地。


俺とユーディアは、そこに立っていた。


「で?ここで何をやるんだ?」

「衛兵ごっこだ」


ユーディアは、俺を指さす。


「アルノー君が“衛兵”役、私は“怪盗”役。

 君が私を捕まえる。単純だろう?」


つまり――鬼ごっこである。


「いや待て。技能を使われたら、絶対に捕まえられないだろ」

「ハッ。弟子ごときに技能など使わん。――私を誰だと思っている」


妙な自信だ。体力へなちょこのくせに。


「盗賊系統の《忍足》や《気配遮断》を覚えない限り、君が私を捕まえるのは不可能だ。これは、そういう特訓なのだよ」

「……へぇ。技能は使わないんだな?」

「もちろん」

「なら余裕だ。持久戦なら、体力へなちょこのお前に負けるわけがない」


その言葉に、ユーディアは不敵に笑った。


「納得したなら始めるぞ。――開始」

「どりゃぁあ!!」


俺は飛びついた。


――が。


「甘いな」


ユーディアは軽く後ろへステップし、あっさり回避する。


「ほら、私はここだ。捕まえてみるがいい」


そう言って背を向け、狭い路地を猛スピードで駆け出した。


――速い! シンプルに足が速い!!


そういえば領主邸で逃げた時も、いつの間にか並走してきていた。

あれは技能じゃない。純粋な脚力だ。


黒いマントが角を曲がる。


「待てぇ!」


俺も追いかけ――


ガッシャーン!!


「うわっ!?」


路地に積まれていた木箱が倒れ込み、俺は避けきれず後頭部を壁に強打した。


「いってぇ……」

「ハハハハハ!どうした小僧!先程までの意気込みは!」


ユーディアはさらに距離を取る。

散乱した木箱、板、ゴミ袋――そんな中を、滑るように駆けていく。


そこで、ふと思い出した。

教会へ行く前、やたら街を歩き回っていたこと。

逃走経路確保だと言っていたが……きっと、これだ。


地形、障害物、曲がり角。

どこで相手が躓くか、どう動けば嫌がるか。

それを全て把握している。


――怪盗としての経験が、彼を動かしていた。


「くそ……地の利を生かしやがって……」

「どうした?もう終わりか?」


わざわざ戻ってきて、俺の顔を覗き込む。


「せっかく稽古をつけてやっているのに、戦意喪失か?体力へなちょこの私に負けていては、君はそれ以下だな?」


……完全に調子に乗っている。


正直、足はもう限界だ。

帰って寝たい。


だが――


「ハンデをやろう。君から半径五メートル以上、離れないでやろう。これなら知能猿以下の君でも、捕まえられるかもしれんな?」

「この……煽りやがって……!!」


――ここまで言われて、逃げるわけがない。


俺は怒りを力に変え、追い続けた。


転び、ぶつかり、木箱をかき分ける。

ギリギリ届かない距離を、ユーディアは完璧に保ち続ける。


――結局。


俺は、完膚なきまでに負けた。


「はぁ……はぁ……」


膝に手を置き、肩で息を整える俺の横で、ユーディアは少し息を切らしている程度だ。


「明日からも続ける。場所はランダムだ。存分に私を楽しませてくれ」

「くっそ……悔しい……!」

「ハハハハハ!今日はいい夢が見られそうだ!」


胸を張るユーディアを見上げ、俺は笑いかける。


「……なぁ。明日から訓練を先にして、最後に文字の練習にしない?」

「断る」


即答だった。


「私は寝る。倒した木箱は直しておけ」

「はぁ!? お前も倒しただろ!」

「負けた者の責務だ。頑張りたまえ」


ユーディアは意気揚々とアジトへ戻っていった。


ヘトヘトの俺は木箱を片付け、戻るなり泥のように眠った。

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