表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/33

【6】職業訓練所

「ーー君が寝ている間に、この街を色々散策してきた」


綺麗になったアジトで残飯と野草をぶち込んだ尊厳崩壊スープを啜っていると、ユーディアが切り出した。


「職業訓練所と公衆浴場を見つけたぞ」

「浴場って、風呂!?」


ここに来て数日。

いい加減風呂に入りたかったが、無理だろうと諦めかけていた。

冷たい水浴びで我慢しようとしていた俺にとって、その言葉はまさにーー天啓だった。


「あ、でも、身分札が無いと入れないんじゃ……」

「公衆浴場は不要だ。都市全体の清潔感を保つ為、国の政策で身分問わず解放されているらしい」

「マジかよ!行こうぜ!」


俺は思わず立ち上がるが、ユーディアが「座れ」と促す。渋々俺は座り直してスープを啜った。

パンが欲しい。


「職業訓練所の方には食いつかんのか?」

「公衆浴場という言葉が神の啓示に聞こえて……」

「まだ自我の崩壊が続いているのか……?」

「ちゃうわい!」


ドン引くユーディアに俺は箸でツッコんだ。

食べ終わった器と箸を置いて、改めて聞く。


「職業訓練所って、なんなんだ?」

「希望の職業が神より授けられるように、技能の獲得を目指す施設だ。戦闘訓練や、算術、商人などの講義を受けられる。ミレアスは大きな都市だからな。あると思っていたのだ」

「じゃあ、俺の目標としていた“他の技能の獲得”に大きく前進するじゃんか!」

「だから食いつくと思ったのだよ」

「大手柄だ!よくやったぞユーディア!」


バンバンと背中を叩けば、「やめんか!馬鹿者!」と手を払われた。


「そう簡単に上手く行くとは思えんがな」

「俺は伸び代の塊なんだよ」


俺は自分の目標を一度振り返る。


①他の技能を獲得し【師匠契約】を破棄する

②自由になったユーディアに指輪を取り返して貰う

③偽ラディック許さん


まずは①だ。

何としてでも技能を手に入れる。


それに、せっかく異世界に来たんだ。

俺は、魔法を使ってみたい。


「前向きなのは結構だ。その熱が冷めぬうちに行くぞ」

「あぁ!」


この時点で、風呂の存在など頭から完全に消え去っていた。


今思えば――なぜユーディアが最初に職業訓練所へ向かおうとしたのか。

考えれば、ある程度の予想はついたはずなのだ。


だがその時の俺は、

“魔法を使えるかもしれない”

その期待だけで、胸がいっぱいだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


職業訓練所は、想像以上に大きな施設だった。

数階建ての建物と、コロッセウムのような円形闘技場が並んでいる。

例えるなら――ファンタジー感強めの市役所だ。


「受付はあちらだ」

「お前は行かねぇの?」

「私には新たな技能は不要だからな。念のため近くには居る。せいぜい頑張れ」


そう言い残すと、ユーディアはすぅ……と空気に溶けるように姿を消した。

師弟を繋ぐ【契約回廊】のおかげでどこにいるのかは分かるが、目では追えない。


ユーディアの事は無視して、早速受付へ向かう。

受付は窓口がずらりと並び、やたらと賑わっていた。

よく見ると、親に連れられて7,8歳くらいの子供も居るようだ。


「ようこそ、職業訓練所ミレアス支部へ。ご要件をお伺いします」

「えーと……受講を希望したいんですが」


そう言うと、受付嬢は一瞬だけ俺を見て「ん?」と首を傾げた。

俺もつられて「ん?」と首を傾げる。


「こちらが現在受講可能な講義一覧です。ご希望はございますか?」


……今の間、なんだ?


気を取り直して一覧を見る。


剣士、拳闘士、弓使い、神官。

――そして、魔法使い。


おお!

魔法は使いたい。でも、剣士も捨てがたい。

神官は回復できそうだし……おっ!今日は無いけど、別日では錬金術なんてのもあるのか!ロマンあるなぁ!


「いや〜、悩むなぁ……」

「それでしたら、これから全体説明会と、各職を短期間受講できる簡易講義がございます。参加されますか?」

「あ、はい!お願いします!」

「では受講料、銀貨二枚になります」


……金、取るのか。


当たり前のことではあるが、何せ俺の全財産の半分だ。

銀貨を握りしめながら、ふと気づく。


――ユーディアの奴、これを分かってて消えたな?


教会でのお布施の記憶が脳裏をよぎりつつ、俺は観念して銀貨を差し出した。


「こちらが本日の教科書です。会場は右手奥の講堂になります」


テキストを受け取り、講堂へ入る。


……そして、固まった。


席に座っているのは、ほぼ全員――7,8歳の子供だ。


「せんせー?」

「せんせーきた?」

「ちげーよ、まだ時間じゃねーもん!」


ざわつく講堂。

俺だけ明らかに浮いている。


……まさか。


背後に向かって、声を落とす。


「……おい、ユーディア。なんで子供しかいないんだ」

「当たり前だろう。将来に備えて技能を学ぶ場だ。基本は子供向けだぞ」

「それって――小学校じゃねぇか!!」


だから受付嬢が首を傾げたのか。

大人が来る場所じゃない、と。


……コイツ、絶対分かってて連れてきたな。


俺は一番後ろ、壁際の席にそっと腰を下ろす。

すると、子供たちの視線が一斉にこちらに向いた。


ごめんな。

お兄さんも、自分が君たちの立場なら

「なんだあの人」って思うよ。


正直、俺自身もそう思ってる。


俺が席に着くのと同時に、ローブを着た年配の男性が講堂に入ってきた。

どうやら講義の先生らしい。


「みなさん、こんにちは」

「「「こんにちはー!」」」

「元気がいいですね。では早速ですが、職業訓練所について説明をしましょう。お配りした教科書、1ページを開いてください」


ページを捲る。


……ほとんど、ひらがなだ。


完全に子供向けである。


「……なぁ」


俺は、隣にいる“気配だけ”のユーディアに小声で聞いた。


「この文字、他の子供たち読めてるよな?」

「当たり前だろう」


即答だった。


「教会の時、お前、文字が読めないって言ってたからさ。この国、識字率低いのかと思ってたんだが……」


その瞬間、ユーディアの視線がフイッと逸れる気配がした。


「……公用語は分からん、と言っただろう」

「じゃあ怪盗の予告状は?」

「…………」

「『今夜、あなたのもっとも大切な宝を頂きに参上する』って、書いてたじゃん」


一拍の沈黙。


「……あの文言は、使い勝手がいいのだ」

「……待て。もしかして、全部同じ文章使ってんのか!?」


怪盗の予告状が盗る物を指定していない抽象的な感じなの、そういう理由なのか!?


「ダッセェ!文字くらい子供に混じって練習しろよ!姿消せるんだから無料で勉強し放題だろ!」

「金を払わず施設を利用するのは犯罪だぞ」

「お前が言うな“白札”めっ!必要経費くらい払え!」

「もったいないではないか!」


「こらそこ!静かにしなさい」


先生の一喝で、俺達は即座に口を閉じる。

周囲から、


「ひとりでしゃべってた……」

「やべー大人だ……」


というヒソヒソ声が聞こえた。


やめろ。

君達には見えないだろうが、ここには不審なお兄さんがもう一人いるんだよ。


「せんせー!」


一人の子供が手を挙げる。


「おとなの人が、うしろにいるのはなんでですかー?」


純粋な質問に、俺は心を抉られる。

しかし、先生はにこやかに答えた。


「技能を獲得できる年齢は、いくつまででしょうか?」

「18さいまでー!」

「その通り」


……え?


「この訓練所では、皆さんが18歳になるまでの約10年間で、《基幹技能》の獲得を目指します」


――詰んだ。


俺の目標、技能獲得って……もはや不可能じゃねぇか!


「じゃあ、あのお兄さん意味ないじゃん!」


指さすなコラ!


「確かに18歳以上の方は珍しいですね。本来はすでに職業同定を終えて働いている年齢ですから」


無職の胸に、グサリと刺さる。


「ですが――18歳を超えても技能を授かれる方もいます。貴族など、“技能適性”の高い方ですね」


その言葉に、少しだけ希望が見えた。

俺に“技能適性”があれば、まだワンチャンある、と。


「つまり、後ろのお兄さんは“技能適性”が非常に高いのです。働かずにこちらにいるということはーーきっと、驚くほど多くの技能を持っているのでしょう」


あ、コラ!やめろ先生!

ハードルを上げるな!


「みなさんも見習って、頑張りましょうね」

「はーい!」


尊敬の視線が突き刺さる。


前の席の子が、振り返って囁いた。


「おにーさん、技能いくつもってるの?」

「あ、いや……そんな……」


周囲の耳が一斉に立つ。


「……20くらい?」

「わぁ〜!」


……俺は、無い見栄を張ってしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


全体説明会は、そんなに難しくなかった。

《基本技能》や《基幹技能》の簡単な説明、教会での職業同定の方法、この後の講義の進め方などの大まかな案内だった。

子供達が飽きないように、絵本方式で教科書にまとめられていて分かりやすい。


これから行う簡易講義では、実際に様々な分野の講義を体験し、正式にどの講義を取るのか決めるそうだ。


講義は毎日行っており、毎日通ってもいいし、親の仕事の手伝いの合間に来てもいい。

時間も朝から夕方までなら、好きな時間に来て、好きな時間に帰ってもいいらしい。


ただし、取った講義の1週間の合計参加時間が10時間以下の場合、講義から除籍される。


ーーまさかのフレックス制である。


「それでは、まずは剣士の講義から行きましょう」


先生と共にコロッセウムに向かうことになり、席を立つ。


「なぁなぁ、兄ちゃん!身分札見せてくれよ!」

「え、えぇ……?」


移動の途中、一人の子供がやってきた。


ーーやばい、俺が白札だとバレたら通報されるかもしれない。


「技能20個もあるんだろ!」


きゅっ、と口を結ぶ。


口は災いの元である。

先程、見栄を張って自分で蒔いた種が、早速成長し、俺の首をぎゅうぎゅう締めてくる。


子供は、ゴソゴソと服の中から首にかけられたネックレスを手繰り寄せる。その先には白いプレートが付いていた。


「ほら!俺の身分札見てもいいから!」


――これが身分札か。初めて見るな。

プレートには教会で見たような文字が書かれていた。


《名前:エド》

《基本技能:俊足/棒使い/持久力増強》


……俺より多くない?

そのやり取りを聞いていたのか、引率の先生が割って入ってきた。


「こらこら。身分札を見せろと頼むのは失礼ですよ。それは犯罪者に対して行う確認です」


引率の先生が口走った『犯罪者』という単語に心が抉られる。

既に俺は2回、身分札の有無を確認されているのだ。


子供……エドは、「ちぇー!」と口をすぼませ、俺から離れていった。


「なぁにが技能20個だ。子供相手に見栄を張りおって」


隣から鼻で笑う声。


俺は感覚だけで、隣の何も無い空間にいる隣人の足を踏みつけた。


誰も居ないはずの空間から、「いっだ!?」という確かな悲鳴が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ