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極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【1】師弟契約

怪盗の後に続き、林を抜け、商店街らしき裏道を進み、市街地へ出た。


夜とはいえ、表通りにはまだ人の気配がある。

だが、さすがは犯罪者。

ここまで来るまで誰一人として、すれ違っていない。


「……ふむ、もう良いだろう」


怪盗のお墨付きをもらい、俺は目立つ衛兵の服を路地裏で脱ぎ捨て、リクルートスーツに着替えた。

やっぱり、こっちの方が落ち着く。


俺は近くの木箱の上に腰を下ろす。

疲労と空腹で、正直ヘロヘロだ。


ユーディアもまた、限界だったらしい。

淑女の前で無理に格好をつけていた反動か、

へなへなとしゃがみ込む。顔色はひどく悪い。


「……そういえば、名前を聞いていなかったな」

「有野だ。有野恭也」

「ふむ……アルノー君でいいかね?」


よくはないが、言いづらいのも分かる。

俺は渋々頷いた。


「で? お前は?」

「? ユーディアだが?」

「は?それお前の本名なのか?」

「そうだとも」


どこの世界に本名で怪盗やる奴がいるんだ。


正直、俺がこうなった原因の一端はコイツである。

だが、魔力欠乏ギリギリの状態でも俺を置いて逃げなかった。

その点だけは評価できる。


「なぁ、ユーディア。アジトとかないのか?」


逃げ切ったとはいえ、ここは屋外。

出来ればどこかで体を休めたい。


「ない」


ユーディアはきっぱりと言い切った。


「この国に来たのは、つい先日でね」

「いやだってお前、領主邸に予告状出してたよな?」


普通、準備してからやるもんじゃないのか?


「じゃあ何か?アジトとか物資とか用意せずに領主邸を襲ったってことか?」

「その通り」

「見切り発車かよ!?」


後先全く考えてないじゃんか!

コイツほんとに怪盗か!?


「はぁ……とりあえず、助けてくれたことには感謝してる」

「当然だ。手間をかけさせおって」

「それでさ……そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」


俺を助ける理由だ。


足手まといを連れて領主邸から逃げるなんて、

相当な理由がないと難しい。


ユーディアは、じっと俺の顔を見つめる。


「……アルノー君は、私の顔が“見えて”いるのだね?」

「? あぁ……見えてるけど……」


赤髪に、マゼンダの瞳。

この世界は派手な外見が多いが、こいつは別格だ。


その奇妙な問いに、俺は引っ掛かりを覚えた。


確か、怪盗ユーディアは、“人に覚えられにくい”技能……《無名讃歌》を持っているはずだ。

実際、指輪を取られた時は一切顔を覚えてなかった。


「やはり……私とアルノー君の間に、【師弟契約】が結ばれているようだ」

「師弟契約?」

「師匠と弟子の関係となるものだ。

この契約をするということは、血よりも濃い絆で結ばれる事を意味する」


だいぶ重い。

俺はイタリアンマフィアのファミリーに入った気分になってきた。


「恐らくその契約により、アルノー君は私の技能の“対象外”となっているようだ。

今は、私が“師”、アルノー君が“弟子”となっている。

本来ならば、長期間の準備と修練が必要な、極めて神聖な儀式魔術を行うのだが……」


つまり、俺は本来の手順をすっ飛ばして、いつの間にか“怪盗の弟子”になってしまったらしい。

そのお陰で、今は顔をハッキリ見れるということか。


「……なんで俺と?」

「私が知りたい」

「まさか、俺が弟子になったからって理由だけで助けにきたのか?」

「いや……ふむ、どこから話したものか」


ユーディアは自身と俺を交互に指さす。


「アルノー君、君も感じないかね?

私との間にある、【契約回廊】を」

「この……お前との間にある、気配か?」


先程までバチバチ感じてた気配。

それが今や、煙でできたロープで繋がっているような、何とも形容しがたい感覚になっていた。

ユーディアはゆっくりと頷く。


「それが、“師”と“弟子”の繋がりであり、これの維持には魔力がいる。

それを“師”が常に供給し続けねばならない。

だが……私は、魔力量が常人よりもかなり少ない。

維持に必要な魔力量は、私の総魔力の約5割超だ」

「半分以上ってことか!?」


それは確かに大変だ。

片手で顔を覆った怪盗は絞り出すような声で呟く。


「つまり……」

「つまり?」

「ーーこのままでは、怪盗が出来ない……」


情けない声で、そう言った。


怪盗が、怪盗を出来ない。


そうか……


それは、

なんというか……


「人に迷惑かけないなら、いいことじゃん」

「良くない!!」


ガバッと顔を上げ、俺を睨む。


「怪盗とは私の生きがいであり、魂であり、我が人生だ!

それが出来ないのだぞ!?これは大きな社会的損失だ!!」

「いやむしろ、社会的にプラスじゃないか?」

「ッハーンッ!これだから美学の“び”の字も知らん小僧は!」


ユーディアはムキになりつつ、指を突きつける。


「このような者に、我が美学を伝授するなど言語道断!

弟子など、こちらからお断りなのだよ!」

「俺だって悪党になるつもりはない。

そんなに嫌なら、さっさと契約を解除しろよ」


一転、ユーディアの顔が曇る。


「……出来ん」

「は?」

「師弟契約は師に不利な契約だ。

それでも結ぶのは弟子への深い信頼と、

流派を受け継いで欲しいという強い願いゆえだ。

……その為、この契約は弟子が師を超えぬ限り、解除が出来ない」

「俺が?お前を?いやいや、無理だろ!」


そもそも生まれてからこのかた、

悪事など働いたことは(覚えている限り)一度もない。

俺には悪党になるつもりはないのだ。


「師を超えやすいように【契約回廊】は師の魔力で継続させ、力を削いだ状態を維持することになる。万全の私を越えろとは言わん。だが、それでも超えるには数年はかかるがな」


そんなにこの世界に居るつもりはない。


「なら、俺を放置しておけばよかったじゃないか」


無実の罪だが、俺は死刑宣告をされたのだ。

自分で言うのもなんだが、放っておけば弟子の俺が死んで契約が切れたんじゃなかろうか。


「……言っただろう。これは、師に不利な契約だと」

「まさか……」

「弟子一人守れぬ者に、師の資格はない。

弟子が死んだ場合でも……【師弟契約】は続行される」


つまり、俺が死ねばユーディアは

一生、大半の魔力を無くしたまま過ごすことになる。

怪盗業を廃業せざるを得なくなるわけだ。


ユーディアが決死の覚悟で

俺を助けに来てくれた理由が分かった。


「ともかく、私もこの契約については詳しくはない。

調べる必要がある。

……アルノー君、悪いがしばらく私と共に行動してもらうぞ」

「あぁ、望むところだ」


むしろ、そう言い出してくれて心底安心した。

頼れる人が居ない異世界で、

俺の身を案じてくれる人が一人でも居てくれるだけで十分だ。


他にも指輪の事とか話したかったが、

既に空が白んできていた。

ーーもう、夜が明けるのか。


「さて、夜も遅い。今日はここで寝たまえ」

「え、ここで!?」

「当たり前だ。宿に泊まれるような金など、私には無い」

「怪盗なのに!?」

「私は金の為に盗むのではないと言っただろう?

盗んだものは全て返している」


つまりは、ただの愉快犯ということだ。

話を聞くに、コイツは収入0円のホームレスと変わりない。

だが、現代人の俺はそんなにたくましくない。

最低限の生活水準のためにも、資金は欲しい。


「怪盗服とか高そうだったろ?あれ売ろうぜ」

「仕事着を売れと!?」

「どうせお前、他の奴にも見えないんだろ?

服がない方が魔力節約出来るんなら、

マント一枚あれば十分じゃん」

「また私を変質者にする気か!小僧!」

「師匠なら、弟子の身を案じてくれよ!

俺だって金なくてこれからの生活に困ってんだぞ!

いいのか!?俺が病気になって死んでも!?」

「貴様!少しは自活をしようと言う気にはならんのか!?」


日本での豊かな暮らしに慣れている俺では、突然異世界での自活なんて不可能である。

それどころか、このまま不衛生な環境に身を置いただけでコロッと死ぬかもしれない。


「ないね!というか、明日食う飯代も無いんだよ!

いーじゃん、服なんてまた買えばいいんだからさ!」


財布やスマホなど、売り飛ばせそうな地球のアイテムは全て偽ラディックに渡してしまったのだ。

今はユーディアに金をどうにか工面してもらうしかない。


「……いいだろう」


一拍押し黙ったユーディアが、ゆらりと立ち上がる。


「金の用意はしてやる。

ひとまず、今夜はここで眠れ。明日から忙しくなる」

「え、マジ?」

「その代わり、私が戻ってくるまでここから動くな。

それくらいは猿のアルノー君にでも分かるかね?」

「誰が猿だ!!」


ウギィー!と声を上げる俺を無視して、ユーディアは背を向けて去っていった。


あぁ言ってた割には、意外とすんなり折れてくれたな。


1人になった俺は疲れていたこともあり、

ひとまずユーディアの言う通りに寝る事にした。


硬い木箱の上で横になり、落ちてた木箱の蓋を布団代わりに体の上に載せる。

固くて、寒くて、背中が痛い。

こんなところで本当に寝れるだろうか。


しかし、空腹と疲労で疲れ切っていた俺は、

以外にもすぐ眠りについた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーザワザワとした活気のある声に、俺は目を覚ます。

狭い路地から見上げた青空を見て、無事朝を迎えたことが分かった。


なんの声だ……?


モゾモゾと体の向きを変え、路地の先にある、

表通りの方へ視線を向ける。


と、同時に、その光景に目を奪われた。


ーー異世界の朝市だ。


簡易的な出店がずらりと並び、見たこともない食品や革製品、武器、よく分からない魔法道具みたいなものまで多種多様なものが売られていた。

屋台も出ているのか、肉や野菜の焼けるいい香りが空腹を刺激する。


そして何より、様々な人種が往来を歩いていた。


あれはエルフ!?

あっちはケモ耳!!

あそこの小さい人は、ドワーフか、ホビット!


よく分からない人種も、謎の動物も居る。

まさに夢のようなファンタジー世界。

夢だとよかったかもだが、夢じゃなかったのだ。


ここまで不幸続きな俺は、心がときめいた。

心機一転、ここは異世界の空気を楽しんで、

少しは俺の心のHPを回復させるのはどうだろうか?


なんと、日本全国の男共が夢に見る、

生エルフや生ケモ耳がいるのだ!


そうと決まれば、俺の行動は早かった。

布団替わりの板を払いのけ、いざ、表通りへーー


……ん?なんか、体が軽いような?


ふと、目の前には、母親に手を引かれる幼女。


幼女は何故か、

ーー俺の体を見ていた。


「ねー、ままー」


幼女は母を引っ張る。


「あのひと、さむくないのー?」


…………は?


「きゃぁぁああ!!!」


母親が叫び、幼女の目を塞ぐ。

その声に周りの人が集まってきた。


そこで、ようやく気がついた。


ーー俺は、往来に全裸で立っていた。

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