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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【87】ギルドマスターからの呼び出し

それから、数日が過ぎた。


今日は、怪盗服と装飾加工したステッキを受け取る日だ。それぞれを受け取り、代金を支払ってアジトへ戻ってきた。

総額は大金貨60枚。日本円にしておよそ600万円だが、手持ちはまだ十分にあるため、痛くも痒くもない出費だ。


「フフフ……素晴らしい……」


アジトに戻るなりピカピカの怪盗服へ着替えたユーディアは、さっそくご満悦の様子だ。

無駄にマントをバサァ!と翻し、これ見よがしにポーズを決めている。


「見たまえ!私の、私による、私の為のデザインだ!フハハハ!」


職人に眉をひそめられるほど細かく指示を出し、宝石や金糸で装飾を施した、夢とこだわりを詰め込んだ一級品だ。革の手袋や漆黒のマントも新調し、それぞれ5着セットで仕立ててもらっている。


……そんなに要るかなぁ。


「なぁ、アルノー。あたしの勘違いなら悪いけど……ユディって、あんなキャラだったっけ?」


レンガでアジトを補強しているリナが、小声でこそこそと聞いてくる。確かに、最初に見せていた優雅な振る舞いはなりを潜め、今では頭アッパラパーな様子だ。


「リナの感性は正しいぞ。ちょっとユディは病気でな。……頭の」

「頭の……そりゃ可哀想に……」

「誰が頭の病気だと?」


どうやら聞こえていたらしい。

俺はにっこりと笑い、声を張る。


「いやぁ!よく似合ってるぞ!かっけぇ〜!ヒューヒュー!」

「適当に褒めおって」


ムスッとしたユーディアは、レンガを積んでいるユノのもとへ歩み寄る。


「ユノ嬢。どうだね?この優美な私の衣装は!」

「わー!きらきら、キレイ!おほしさまのおようふくみたい!」

「フハハハ、そうだろうそうだろう」


……お分かりいただけただろうか?

あれが、子供に忖度した感想を求めるダメな大人の典型である。


「けどさ、あんな派手な服、何に使うんだい?日常的に着るものじゃないだろう?」


ーーいや、それが日常的に着るものなんだよなぁ……。


ユーディアが着れば、どんな派手な服でも不思議とぼやけて見えるらしく、周囲に強く印象を残さない。

だが、着ていない残りの4着は普通に目立つため、リナたちにはしっかり怪しまれている。


「ソダネー、舞踏会ニデモ、着テイクンジャネー?」

「まーた、はぐらかしたね?何に使うんだい?気になるじゃないか。ねぇ、教えてよ」

「しつこい女の子は嫌われるぞー。あと、今晩のデザート無しにするぞー」

「デザートを盾にする男も嫌われるって、知らないのかい?」

「それはお前だけだろ、食いしん坊め」


そう言うと「いじわる!」と言いながらリナは作業に戻る。


リナたちには、今は作業の礼として三食を振る舞っている。時々リナも料理を作ってくれるので、俺も異国情緒あふれる食事を堪能中だ。


それに、育ち盛りのエドとユノはよく食べる。金貨を渡すよりも、食事を用意する方がよほど喜んでくれるのだ。そのおかげか、三人とも毎日せっせと働いてくれていた。

その成果もあって、アジトはあと少しで、レンガ造りの立派な家へと生まれ変わろうとしている。


「……で?あんたも大層なもんをこしらえたね」


リナが、俺の手の中にある杖を指さす。


もともとシンプルだったスピアは、装飾加工によって太めの指揮棒のような見た目へと変わっていた。

持ち手には細やかな彫金が施され、鈍色だった表面は白銀に輝いている。


さらに持ち手の先端には、ユーディアが選んだ“デスデーモンモンキー”なる猿の意匠があしらわれていた。


最初はこの猿デザインに、内心かなりの不服を覚えたものだが――

完成品を見ると、過剰な主張は抑えられ、むしろ品のある仕上がりになっている。


……悔しいが、ちょっとかっこいい。


手前の小さな穴には、ユーディアから贈られた“劣化版《無名讃歌》”が込められた紫色の宝石がはめ込まれている。


ちなみにユーディアの杖は色違いだ。

全体は黒を基調に、木製に見えるような装飾が施されている。手元には、黄金のカラスが羽ばたくような意匠。

俺と違って杖のように扱うためか、グリップ部分はすべて金で装飾されていた。


埋め込まれた魔石も、ユーディアの魔力と同じ、珍しいマゼンダ色だ。


「それ何?串焼き用の串じゃないよね?」


きらきらと輝く宝石を覗き込むリナに、俺は杖をコートの下へ隠すように収めると、おどけて返す。


「そうそう。串焼き用の串だよ。これで焼く肉は極上なんだぜ?」

「絶対ウソ!あたしでも分かるよ!それ武器なんだろ?何の武器なんだい?初めて見るね?槍にしては短いし――」


食い下がるリナの言葉を、俺は途中で遮る。


「はいはい。今日中に西側のレンガを積み終わったら、あとでプリン買ってきてやるから」

「本当かい!?約束だよ!」


下手に追及されるのはまずいので、食べ物の話で強引に話題を逸らす。

リナはこの手の話にめっぽう弱い。食い気をちらつかせれば、だいたいなんとかなる。



その時。



「アルノー兄ちゃん!ユディ兄ちゃん!」


アジト周辺の建物の屋根の上から声が飛んできた。見上げると、エドがこちらに身を乗り出している。

レンガの追加を買いに行っていたはずだが、その手は空のままだ。


「エド?どうした?」

「大変だ!大変だよ、兄ちゃん達!」


エドは叫ぶと同時に、大きく手を振って俺たちを呼び寄せる。


「ギルドマスターからの強制招集だよ!兄ちゃん達2人を名指しだ!冒険者全員が探し回ってる!急いで来てくれ!」


俺とユーディアは顔を見合わせた。


……おそらく、ダンジョン深層の件だろう。

だが、“冒険者全員が探している”というのは、どういうことだ?


「ギルドマスターから!?あんた達、何やらかしたんだい!?」


リナが目を見開いて叫ぶ。その反応の大きさに、事の重大さを感じるが――正直、まだ実感が追いつかない。


「そんなにヤバいのか?」

「ヤバいってもんじゃないよ!」


リナは慌てた様子で、手に持っていたレンガを取り落とした。鈍い音を立てて地面に転がる。


「ギルドマスターってのはね、領主や騎士団、教皇みたいな特権階級が持ってる“処罰執行権”を持つ、唯一の平民なんだよ!」

「何それ?」

「個人の裁量で、ある程度なら好きに“犯罪数値”を加点できるのさ!」


……犯罪数値を、個人の裁量で?


それは、想像以上に重い権限だ。

リナは青ざめた顔のまま、言葉を重ねる。


「名指しでの呼び出しなんて、ほとんど黒が確定したようなもんだよ!あんた達、本当に何したんだい!?犯罪数値の加点どころか、最悪――ギルドの除籍、騎士団への引き渡し……いや、もしかするとミレアスにいられなくなるかもしれない!」


除籍、逮捕、そして追放――。


そこまで聞いて、ようやく現実味を帯びた危機感が胸に広がる。


黒が確定している、ということは……

俺たちが“怪盗”であることまで、知られている可能性もある。


だが……せっかくミレアスに戻ってきて、仲間ができて、アジトもここまで整えたんだ。

今さら、この生活を手放すなんて考えられない。


それに、ここを離れれば――

またユーディアが“忘れられる”。


それだけは、絶対に避けなければならない。


『まずい状況になれば、《無名讃歌》で注意を逸らすことは可能だ。しかし……提出した書類などが残っていれば、効果は限定的だろう。最悪、ミレアスからの逃亡も視野に入る』


【契約回廊】を通して、ユーディアの声が静かに響く。声は落ち着いていたが、不安な気持ちが【契約回廊】越しに伝わってきた。


『分かってる。だから――シナリオは決めてきただろ?』


今回の呼び出しは、ダンジョン深層についての事情聴取の可能性が高い。

だが、もし怪盗について問われた場合に備えて、受け答えはあらかじめ詰めてある。


大丈夫。

怪盗は、“騙す”のが得意なのだ。

堂々としていればいい。


俺の意思が伝わったのか、ユーディアはわずかに強ばった表情のまま、静かに頷いた。


「兄ちゃん達、オレが案内するよ」

「分かった。頼む、エド」


……俺たちの勝利条件は、二つ。


――今後も日常生活を送れるようにすること。

――怪盗であるとバレないこと。


この二つさえ守れれば、あとはどうにでもなる。


俺たちはエドの後を追い、ギルドマスターからの呼び出しに応じるため、その場を後にした。








冒険者ギルドへ足を踏み入れると、大勢の冒険者たちがいた。2階はおろか、1階までもが人で埋め尽くされ、まるですし詰め状態だ。


だが――


俺たちの姿を見た瞬間、ざわり、と空気が揺れた。


まるで海が割れるように、人の波が左右へと分かれていく。

無言のまま、俺たちのために道ができた。


「……こっち」


エドが小声で促す。

その背を追い、2階の一番奥へ。

突き当たりの扉を開けると、そこは従業員用の通路らしく、細長い廊下が奥へと伸びていた。


そして、その入口には……俺たちの受付をしてくれた、あの新人受付嬢が直立不動で立っていた。


「オレ、ここから先は行けないんだ。兄ちゃん達、頑張れよ」

「あぁ、ありがとうな」


通路へ足を踏み入れた瞬間、背後で扉が静かに閉まる。

受付嬢はカチコチのまま、ぎこちなく頭を下げた。


「こっ、この度はっ!招集にお応えいただきっ、まこちょに……はぅっ!」


見事なまでの噛みっぷりである。

彼女は慌てて俺たちに背を向けると、「こ、こっちでしゅ!」と舌を噛みそうな勢いで言い直し、そのままぎこちない足取りで歩き出した。


……俺たちより緊張してないか、この人。

その様子に、張り詰めていた空気がわずかに緩む。


「あの、すみません。なんか迷惑かけちゃって……」

「はひぃ!?い、いえ、違うんですぅ……」


受付嬢は肩をすくめ、しょぼくれた表情を浮かべる。


「ダンジョンで死亡扱いになった人が戻ってきた例って、ほとんどなくってぇ……その場合の調書とか、経緯の確認とか、色々やらなきゃいけないらしいんですけど……わ、私、知らなくってぇ……」


語尾がどんどん小さくなる。

どうやら、重要な手続きをすっ飛ばしてしまい、こってり絞られたらしい。

目の端が赤いあたり、さっきまで泣いていたのだろう。


「あ、ここですぅ……」


半泣きのまま立ち止まった先には、重厚な扉。

受付嬢は小さく深呼吸すると、震える手でノックをする。


コンコン――


「入りたまえ」


低く、よく通る声が、扉の向こうから響いた。


「し、失礼いたします……えと、例の冒険者の方々を、お連れいたしましたぁ……」


扉を開けてもらい、中へ足を踏み入れると、

そこには、


「ご苦労じゃった……」


足腰がぷるぷると震える、あの清掃員らしきおじいさんが立っていた。


……ま、まさか!この今にも倒れそうな老人が、実はとんでもない実力を隠し持つギルドマスター……ッ!?


「お、おじいちゃん!?なんでここにいるの!」


受付嬢が驚きの声を上げる。


……え?おじいちゃん?


「みーちゃんが……泣かされたと聞いてのぉ……心配で来たんじゃ……」

「だ、大丈夫!泣いてないよ!」


受付嬢は慌てて老人の手を引く。


「ほら、ここは関係者以外立ち入り禁止だから!外に出よ!」


そのやり取りに、思わず肩の力が抜けかけた――その時。


「――おほん」


低く、わざとらしい咳払いが部屋の奥から響いた。

視線を向けると、重厚な机の向こう。

大きな椅子に腰掛けていた男が、ゆっくりとこちらを見据えている。


「ミュリエラ君。おじいさんを下がらせてくれ。君もそのまま通常業務に戻っていい」


静かな声なのに、逆らえない圧があった。


「は、はひっ!ありがとうごじゃいましゅ!」


ミュリエラと呼ばれた受付嬢は、老人を連れてそそくさと部屋を後にする。


…孫を心配しただけのただの清掃員かーい。


背後で扉が閉まる。


そして――椅子に座っていた男がゆっくりと立ち上がる。窓を背にした逆光の中、その輪郭が大きく浮かび上がった。


「会うのは初めてだな」


低く、腹に響く声。


「ギルドマスターのドラクスだ」


――こっちが本物か。


がっしりとした体格の、40代後半の大柄の男性だ。

白髪の混じった茶髪に、鋭く細められた目。

そして何より……有無を言わせぬような、迫力があった。威圧感のようなものが全身にのしかかり、胃の中が小さく痛む。

ただ彼が立っているだけで、空気が張り詰めて息がしづらい。ゆっくりと、ドラクスは近くのソファに腰掛ける。


鋭い視線と目が合った瞬間、心臓がドキリと強く跳ねた。


「は、初めまして。Gランク冒険者のアルノーです。で、こっちが俺の友人のユディです」

「お初にお目にかかる。紹介に預かったユディだ。以後、お見知り置きを」


ドラクスは無言でこちらを見つめたまま、わずかに顎を引く。


――座れ、ということか。


俺たちは促されるまま、ドラクスとは反対のソファへ腰を下ろした。


すると、ガチャリ、と誰も触れていないはずの扉が、ひとりでに音を立てて開く。


「すみません、ドラクスさん。遅れてしまい……」

「構いません、ローレン様。本日はよろしくお願いいたします」


そこから出てきたのは……この間、顔を合わせたばかりのローレン先生だった。


「ろ、ローレン先生!?」

「すみません。アルノーさん達の話をドラクスさんにお話ししたところ、直接会って話を聞きたいとか言い出しまして。こんなに大ごとにするなんてホント迷惑ですよねぇ」

「おっほん!……どうぞ、ご着席を」


ローレン先生にも座るように促す。

彼の隣の席に着いたローレン先生は、チラリとドラクスさんを横目で見た。


「ドラクスさん、まさかとは思いますが……“蒼”まで呼び出してはいませんよね?」

「……呼び出したくはない」


いまいちなんの事か分からない会話だが、歯切れ悪く言ったドラクスの言葉にローレン先生は「あぁ……」と納得したように頷いた。俺たちが首を傾げていると、ローレン先生の武器である大きな杖を持ち上げた。


「では、失礼しますね」


杖を掲げると、そこから放たれた魔力の層が静かにこの部屋を完全に包み込んだ。途端に、周囲の雑音や街の喧騒がピタリと止む。


『結界だ。それも、物理特化……私たちを完全に閉じ込めたようだ』

『それって……』

『あぁ。場合によっては……荒事も厭わない、ということだ』


つまりーー俺たちを危険視している、ということに他ならない。

身を縮こませていると、ドラクスはゆっくりと腕を組んでソファにもたれかかった。


「今回ローレン様をお呼びしたのは他でもない。遮音が可能な物理結界の他に、《神官系統技能》である《疑義看破》を使用してもらう為だ」


ローレン先生も今までとは違い、少し緊張感を持った顔をして俺たちを見ていた。何時でも魔法を発動できるように杖に魔力を漲らせている。


「これ以降、お前たちが嘘をついた場合、こちらには手に取るように分かる。嘘偽りのないよう、答えること。ギルドマスターとしての命令だ」


ドラクスは射抜くような目で俺たちを見ると、確信を持ったような声で続けた。






「ーーお前たちは、怪盗ユーディアと怪盗アルバートだな?」





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