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極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【序章】かくして異世界に来たりけり

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【1】異世界商人

扉を開けた先は、どこまでも広がる真っ暗な空間だった。

壁も床も天井も、すべてが黒一色で、境目すら分からない。


そんな場所に、俺は立っていた。


「……は?」


振り返る。

さっきまで触れていたはずのドアは、跡形もなく消えている。

ドアノブの冷たい感触だけが、やけに生々しく手に残っていた。


光源は無い。

それなのに、なぜか自分の身体ははっきりと見える。


就活の最終面接のために、昨夜アイロンまでかけたリクルートスーツ。

現実感の塊みたいな格好が、この異様な空間では逆に浮いていた。


「なん、なんだよ……ここ……」


周囲を見回して、息を呑む。


俺の背後。

いつの間にか、男が一人、木製の机に座っていた。


こちらをまっすぐ見つめてくる、異国風の顔立ちの男だ。

歳は二十代後半……くらい、だと思う。


ただ、服装が妙だった。

ゲームに出てくる商人そのもののような、現代日本ではまず見かけない衣装。

若いのか老けているのか、どうにも判別がつかない。


(……面接官、じゃないよな)


当たり前だ。

こんな場所、面接会場なわけがない。


むしろ、俺の頭のどこかは、もう理解してしまっていた。

現代科学がどうこう以前に、こんな非現実的な空間が存在するはずがない。


つまり――


(異世界召喚、ってやつか)


男は机の上で指を組み、柔らかく微笑んだ。

その手が、わずかに震えているのに気がつく。


――もし、この空間を用意できるような上位存在がいたとして、そんなの神のような存在が俺ごときに緊張で手を震わせるだろうか?

いや、まずしない。


目の前の男はまるで――

これから人生最大の商談に臨む、商人のようだった。


「初めまして。私、ラディック商会の取りまとめをしております。

ラディック・アランドールと申します」


男――ラディックは立ち上がり、自然な動作で握手を求めてきた。

その笑みには、歴戦の商人の風格が滲んでいる。


俺も反射的に、笑みを深めた。

そして、ここ最近で一番聞き慣れた言葉を口にする。


「この度はご縁がなかったということで……」


「……へ?」


「ラディックさんの、今後のご活躍をお祈りしております」


軽く会釈する。

就活で何度も叩き込まれた、お祈りメールの定型文だった。


――――――――――――――――――――


ここで簡単に、俺――有野恭也(ありの きょうや)について触れておこう。


俺の人生を一言で表すなら、“直線上のP点”だ。


大きな努力も、特別な挑戦も、なんにもない。

ただ流されるまま、ゲームとネットなどの娯楽に時間を溶かし、友人関係や部活といったイベントはほぼスキップ。


波風の立たないまま、小中高と進み、大学を卒業する。等速で直線上を動くP点のように。


このまま適当な会社に入り、適当に生きていく――

本気で、そう思っていた。


ところが、そのP点は、ある日を境に突然急降下する事になる。

俺の人生にとって初めての挫折。

ーー就職活動。

人生における“Y軸”の登場である。

“Y軸”は俺に、“X軸”について聞いてきた。


Y軸『あなたがこれまで、もっとも頑張ってきたことは何ですか?』


A,ないです。


そう、無いのだ。

P点は一定の速度で進んできただけだ。


だがそんな主張が通るほど、就活は甘くなかった。


書類選考で落ち、一次面接で落ち、53社全戦全敗。気づけばエントリーシートの山に埋もれて天井を見上げる日々。あんまりである。

俺というP点は、気づけばマイナス領域まで落ちていた。


そこで俺は考えた。


誇れるような“X軸”が無いなら、用意すればいい。


しかし残念ながら、俺は嘘が得意じゃない。

半端な嘘は、必ずボロが出る。


では、どうするか?


俺は、“X´軸(他人の人生)”を完コピすることを思いついた。


大学の同級生に、「竹田くん」という有名人がいる。

品行方正、成績優秀、留学経験もあり、フットボールサークルではチームを大会優勝に導いた。ついでに可愛い彼女持ち。


絵に描いたような優等生だ。


俺は彼を観察し、分析し、思考回路から立ち振る舞いまで徹底的に自身に叩き込んだ。

人生で一番頑張ったことは何かと聞かれたら、「竹田くんを完コピしたこと」だ。事情を知らなければ、相当ヤバい奴に聞こえるだろう。俺だってそう思う。


だが効果はあった。


小さな広告会社の二次面接を突破し、俺は最終面接まで辿り着いた。


そして、その最終面接の日。


意気揚々と扉を開けた先で、俺は――


――暗闇に立っていた。


――――――――――――――――――――


「……へ?」


俺の言葉に、ラディックは固まった。

差し出された手を無視して、俺は完璧な“竹田くんスマイル”を向ける。


どうやら、コイツは神のような上位存在じゃない。

断ったところで、天罰は下らなさそうだ。


しかし、異世界召喚……

確かに心惹かれる言葉だ。


だが、俺は日本の生活に満足しているんだ。

インターネット、アニメ、漫画、映画、ゲーム。

異世界の文明レベル次第では、全部失われる。


俺はロマンより、QOL(あんしん)を取った。


「また機会がありましたら、よろしくお願いいたします」


背を向けて歩き出す。

扉は無い。闇だけが広がっている。


さて、どうやって帰るか――と思った瞬間。


「私との話が終わらない限り、ここからは出られませんよ」


振り向くと、商人は微笑んでいた。

いや、少しだけ引きつっている。


「私だって出たいのです。ですから一度、お互いの為にも今後について話しませんか?」

「異世界召喚なら無理ですよ」


こういう手合いは主導権を握られると面倒なので、先手を打つ。

だが、相手はあっさり頷いた。


「ええ。これはそういうものではありません」


商人は、商品を紹介するかのように手を広げる。


「――異世界“交換”に、ご興味はありませんか?」


――――――――――――――――――――


聞き慣れない言葉に、ほんの少しだけ興味を持ってしまった俺は、気づけばラディックと商談用のテーブルを挟んで向かい合っていた。


完全に、向こうのペースだ。


「つまり……ラディックさんの言う【異世界交換】ってのは、数日間だけお互いの世界に行って、その後は元に戻る。そういう話ですか?」

「ええ。交換留学のようなものだと考えていただければ」


なんだそれ。

そんな都合のいい話があるわけが――。


「ご不安はもっともです。ですので、まずは仕組みをご説明しましょう」


ラディックは懐から、小さな皮袋を取り出した。

中から現れたのは、二つの指輪。


一つはメタリックブルー。

もう一つは、メタリックピンク。

表面には、意味の分からない紋様が刻まれている。


「これは《妖精王の気まぐれ(チェンジリング)》と呼ばれる品です。異界の住人を一人、この亜空間へ呼び出す力を持っています」

「……それで、たまたま俺が当たったと?」

「正確には、使用者と同等の“存在価値”を持つ方、ですね」


「はぁ……?」


それってつまり、目の前の商人は俺と同レベルってことか。

だとしたら相当な無能か、よほどヤバい奴だ。


「“存在価値”とは、能力や善悪などではありません。世界に影響を及ぼしうる可能性……のようなものだそうです」

「……“だそうです”?」

「妖精王の基準ですから。人と同じ価値観を持っているとは限りません」


妖精王か。

もう完全にファンタジーだ。


「青い指輪は、私の世界へ。ピンクは、あなたの世界へ繋がっています。違う色の指輪をはめることで、相手の世界へ移動できるのです。」

「それで、帰りは?」

「どちらかが“帰りたい”と願った瞬間、元の世界に戻れます」

「じゃあ、俺がこのピンクを取れば?」

「あなたは元の世界へ。指輪も消え、この話はなかったことになります」


話が早い。


俺がピンクの指輪へ手を伸ばすと、ラディックはやんわりと指輪を手で隠した。


「……何ですか、ちょっと」


手をどかそうとして、反射的にラディックの手を掴む。

その瞬間、彼は目を細め、低い声で呟いた。


()()()()()()()()なんて――虚しくないんですか?」


息が詰まる。


思わず手を離し、立ち上がった拍子に椅子が派手な音を立てて倒れた。


――こいつ、今、なんて言った?


「“()()()()P()()”。面白い考え方ですね」


先程までの柔らかな笑みは消え、ラディックはどこか愉快そうに微笑んでいた。


「平々凡々な人生。羨ましい限りです――()()()()さん」


名前を呼ばれた瞬間、背筋が冷える。


ラディックは、再び指輪を見せるように手を広げた。


「これは“商談”です」


一拍置いて、彼は言う。


「しかも――あなたに、かなり有利な、ね」

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