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【 ローファン連作短編集 】

開拓農民出の宣教師ですけど『宣託の姫巫女』になります

作者: 塩谷 文庫歌
掲載日:2025/11/22

得体のしれぬ遺物の恩恵を享受して暮らす人類。

太古の遺物欠片(オーパーツ)と、奇妙な共生関係にある魔物。


そのために必要とされてきた、遺物の回収業者。

探索者(ハンター)には、職業組合に登録する義務があった。

加入によって得られる恩恵は――


太古の兵器(アーティファクト)の使用許可と『()()()()()()()()()()()()

つまり、過酷な地域で活動するための命綱、()()()()()

 宣教師として寒村に派遣された私は、幼いころから実家の手伝いで培った開墾のノウハウと、持ち前のド根性を武器に、泥にまみれ、額に汗して、アッという間に畑作の一大拠点を築き上げ、信者を獲得しまくった。


 人や物資の移動もままならない峠越え、雪に閉ざされ長すぎる冬、数多の困難を自給自足で補うという根性論を実現するためのキャッチフレーズ。



「 目指せ! 延べ床面積・王国城~っ!! 」

  「 「 「 おおぉお~! 」 」 」



 生涯の目標『宣託の姫巫女』になるために必要な実績という個人的な事情から、冗談半分で、型破りな巨大教会を作ると周囲を鼓舞していたけれど。


 数年後、『げげ~っ! ド田舎とは思えねぇ!』と、周辺国でも評判になるほど立派な教会が建ったのは、私の大望を知っていた信者達が土地開発の礼をしたいと後先考えずに寄進して、押し上げてくれたお陰だった。


 あの教会は、開拓の悲願が成就したシンボルとなった。





 ともあれ……。



 中央に呼び戻されて、姫巫女の試練に臨む資格を得た。

 歴史的建造物『宣託の塔』の威容。

 その傍らに、ちんまり建った教会。



「中央教会。こんな小さくて、みみっちい建物でしたか」



 はじめて勇者様の御声、『思し召し』を聞いた日から。

 たったの4年後だった。


 同時に挑むのは、3名。

 試練の内容は単純明快。



「魔王の根城へ行き、()()()()奪い取ってこい」



 魔王討伐へ向かう人々の、水先案内人の資格。

 その資質を『実力で示せ』ということだろう。


 続いて、苦難に挑む3名に、原典遺物(オリジナル)のアーティファクト、『三恩寵』と呼ばれる特級武具の貸与について説明があった。



 帰還を祝福した、儀礼用長大剣。

 勇者復活に使用された、聖骸布。

 そして、ちょっと厚めの、書籍。 ← 私はコレ



「えっ。 ……本?」

「なにか問題でも?」

「いっ……いいえ。過分な恩寵を賜り、痛み入ります」



 無茶苦茶だ。


 これで魔物を折伏し、単身、魔王城へ到達して帰還?

 こんなに小さな書物で魔物を倒せと言われましても。

 どれも特級武具、しかし、これは明確な差別だった。


 それも当然といえば当然。


 良家のお嬢さん方を押し退けるために、中央が無視できない実績を積み上げて、のし上がってきただけの田舎娘。これといった後ろ盾も無いので、宣託の姫巫女に抜擢しても協会側にメリットは無い。


 古本を見詰め、考え込む。


挿絵(By みてみん)


『これを使って魔物が跳梁跋扈する森を抜け、魔王城で盗みを働けと? しかも、指定されたのは3勢力のうち当世最強と言われる魔王。これは出来レースだった。自殺行為を命じられた私は、引き立て役ですらない――』



 今朝方、見上げた宣託の塔。ちんけに見えた中央教会。帰路の階段で足を止めて振り返る。一条の夕陽を縦に引く高閣は美しい。その足元で、権威主義に染まった教会が墨色の影に隠れているのが皮肉に見えた。


 無造作に『 福 音 書(マニュアル) 』を革鞄へ突っ込んだ

 等しく門戸は開いている。

 誰でもいい、私にしない。


 受け止めるしかなかった。



「私は。 ……()()()、ですか」

「疲れた顔してるね~」

「命まで取られる神様を信仰してたなんて」

「捨てる神あれば疲労感あり、ってやつ?」



 目の前の少女が、ニッコリ微笑んだ。



「貴女は……?」

「今はまだ、新米トレジャーハンター」

「遺物回収の探索者、ハンターですか」

「試練に挑むんなら支度金で雇ってよ」



 2人には、大規模で組織的な私兵が同行するだろう。

 新米ハンターが1人。

 絶望的な、戦力差だ。



「出発前から心が折れそうです」

「探索者は『宣託の姫巫女』を信じて進むんだ」



 新米ハンターは、訳知り顔でニカッと笑った。



「姫巫女は軍隊を指揮する立場? いいや、違う。断じて違うね! 魔境にあってハンターは弱い。なにも持たず、さ迷い、なにかを求めて探索する脆弱な存在だ。この先にある、間違いなく進んでいると信じて歩み続けるには、立ち上がる力が、踏み出す勇気が、奮い立つ言葉が必要。そのためには、たったひとつ信じられる、力強く耳朶を打つ、声があればいい」


「 声 」


「君が勇者の声、『思し召し』を信じたように」



 そうだ……。

 はじめて聞いた、勇者様の御声を思い返した。



 『 こんな世界で迷子になったら大変だよ? 』



 どこまでも優しい響きだった。これから道に迷うであろうハンター達の行く末を案じているのだと思った。だから宣教師になった。世界の水先案内を司る御役目、『宣託の姫巫女』を目指す、それが第1歩だった。


 4年、いろんなことがあった。

 良いことも悪いこともあった。

 色々ありすぎて、忘れていた。


 まだ2歩目。

 ここは、目的地ではなかった。



「目指すと語る君を信じて、荒地に鍬を振るった皆が、君をこの地へ連れて来た。今度も同じ。()()()()()()()は、()()()()()()()()()()


「誰かを導いた、その先にある」





 目が醒めた ――――



 試練の意図を取り違えていた。

 魔王を討伐するわけじゃない。


 試練の内容は、「魔王の根城から()()()奪い取れ」。

 道案内できる実力と、魔王城へ到達した証拠を示す。



「導きの声、『宣託の姫巫女』としての実力を証明するなら。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが手っ取り早いと、私は思う」


「 は い っ !!! 」





 ―――― 翌日。


 少ない支度金で買い求めたロバにまたがり、あてにならない地図を頼りに進む。照りつける荒野を、先の見えない陰森を、凍り付く銀嶺を、目も眩む断崖絶壁を。ロバが食む魔界の雑草を食べ、食べられそうな魔物まで口にして路銀を節約する。そんな旅路が、それから2週間続いた。



 定めた目標は、効率的な往路と復路の、ナビゲート。

 駆け出しハンターを魔王城に連れていって無事帰還。


 無用な戦闘を避けるため、いくつかの難所を通った。

 それでも行程は順調、すでに7割以上踏破している。



「先に焚火番をする、休んでくれ」



 心強い味方にも恵まれた。

 愛らしい少女が、圧倒的な技量で魔物を倒した。

 相当な手練れの探索者で、才能に恵まれている。



988(クパパ)さんって、珍しいお名前ですね」

「テストプレイヤーだから」

「てすと、ぷれいやぁ……職業ですか?」

「当たらずとも、遠からず」

「では、先に休みます……」



 焚火の灯りに目を凝らし、遺物を識別していく。

 ギルドに報告、オーパーツの回収依頼。

 リズミカルに黙々とこなす、単純作業。


 新米トレジャーハンターなのに、旅慣れている。

 今までの蓄積が活きているだけ、と笑っていた。


 だから、安心して眠れる。



  ぃ ぉぃ!」


「む、んむ~?」

「お、おい、起きろって!」

「うぅ~んムニャムニャもう食べらりないりょ?」

「そんな定型文で返答してる場合じゃないから!」



 焚火に浮かび上がる巨体。

 まさしく竜そのものの姿。



 パシ パリパリッ バシィイイ!!!



 道中、2mほどの小型の竜を2頭仕留めていた。ひとまわり大柄。そのうえ時折黄金色の稲光が迸り、漆黒の空を紫に染める。強烈な閃光で網膜が焼け、一時的に目が眩む。


 全身を放電が覆うたび、破裂音に似た音がバチバチ響く。



 バシイイ!!!



「マズイ、初めて見る種類」

「蓄積が活きないケース?」

「そういうこと」

「撤退します?」



 ここまでの道中、初めて見る相手との戦闘は避けていた。

 空を飛んで追いかけられたら、朝まで逃げることになる。

 手早く荷物をまとめていく。


 クパパさんは「雷撃、麻痺。どっちだ?」と独り言ちた。



「やる」

「え?」



 飛竜を、巨大で狂暴な飛竜を、単独で、初見で倒す?!

 見るからに、新米ハンターのかなう相手じゃない……。


 止めるべき。



 止めるべきだが……気付いていた。



「正式な依頼ではありません。準備不足です」

「キャンプを襲われた。強制転移は使えない」

「その条件でも勝てる」

「本気を出せば勝てる」

「勝算は、どの程度?」



 クパパさんは新米探索者じゃない。

 この少女の姿は、駆け出しハンターと印象付けるため。

 私を『宣託の姫巫女』にするために再登録した探索者。



「10割か100%。 ……初見殺しの大技がなければ」



 外見そのままの場数では、無い!!



 付箋だらけの『 福 音 書(マニュアル) 』を手繰る。

 この子は飛竜のぉ、え~と、これ?



「大半の部分が未記載ですが、今回の遭遇で開示された情報があります。正式名称不明。通称は紫電金線。弱点部位は頭と翼。戦闘時、麻痺に注意」

「異名持ち。雷撃と麻痺……両方とは」

「麻痺の治療薬が、2本。使用後は、一目散に逃げます」

「それでいい」



 見慣れないアーティファクトを引っ張り出した。



「それは、カタナ?」

「東亞國で拾った、原典遺物(オリジナル)の浪漫武器。銘は鎌鼬(かまいたち)

原典遺物(オリジナル)?!」

「わかりにくい説明かもしれないけど。ある程度、データを引き継げるのが特徴。BWV988の蒐集していた強力なアーティファクトから、いくつか持ち越せた。今から少しの間、新米ハンターではなくなってしまう」

「強力な兵器だから……ですか」

「タスクフォーカス……集中力? 鎌鼬は無関係、趣味」



 腰紐の左側に突っ込みながら、ぶらぶら歩いていく。

 これから強敵に立ち向かう、そんな雰囲気ではない。

 飛竜まで、あと何歩か、という距離で……



 キィヤァアアアアアアァア!!



 クパパさん目掛けて、裂帛の気合いと共に雷撃を放った飛竜が大きく身を捩り、ドォン! と轟音を立てて横倒しになった。

 そのまま一気に距離を詰めて何度も攻撃、翼を広げて羽ばたいたが、ズタズタに切り裂かれたボロ雑巾、いくら振っても空へ戻ることは叶わなかった。


 ズドッ!!!!


 不意の一撃が、少女を頭上から襲った。

 爆発的に立ち昇る土煙が、視界を遮る。

 その中から。

 回復薬を飲みながら悠々と歩いてきた。



「タフだな」



 瓶を放り投げて、一旦納刀。

 姿勢を低くして、疾風の如く加速した。

 そのまま踊るように斬りつけていくッ!



 ……ッチン。



「終了」

「え?」





「だから。終了。もう終わった」

「死んで……えぇ―――っ?!」

「攻撃したら死ぬ」

「ひぃ―――!!」



 怒涛の猛攻、圧倒的だった。



「その細腕で、あんなに早く」

「東亞の剣は木鞘を抜いて振る。木鞘は軽いだろ?」

「理屈ではそうでしょうけど」


「電気を飛ばしてきた。当れば痛そうだから、次の攻撃を待って飛竜ごと斬った。鎌鼬はアーティファクトとしては迷刀、なにも顕現しないけど……抜刀して振ると刃が発生する。およそ防ぎようのない切れ味の、目に見えない風の刃が」



 サクリサクリと解体し、オーパーツを取り出した。

 クパパさんは「発電器官?」と呟いて首を傾げた。

 今まで目にしたどれとも違う奇妙な形をしている。


 探索者の、本能なのだろう。

 見知らぬ魔物から入手したオーパーツ。

 クパパさんの瞳はギラギラ輝いている。



「勝ったけど、誘惑に負けた」

「怪我が無くてなによりです」

「一発喰らった。あの体勢から反撃か……さすが異名持ち」



 強い、なんてもんじゃない。

 研ぎ澄まされた、反射神経。

 流れるように振るう太刀筋。

 この方には魅力的すぎて、我慢できない獲物だったのか。


 これほどの実力者ならば、未踏破の領域にも踏み込める。

 単独行での探索も容易で、新たな魔物とも遭遇するはず。


 しかし。

 ギルドに解析依頼を出し終えて、「寝る」と横になった。



「クパパさん」

「どうした?」



 私を『宣託の姫巫女』にするために、今はそれをしない。



「ありがとうございます」





 ―――― 数日後。



 謁見の間にしては、おどろおどろしい空間。

 私とクパパさんは魔王と対峙していた……。



「吾輩の首級(クビ)でも獲りにきたのか?」

「 「 いえいえ、滅相も無い 」 」

「そっ、そうか……簡潔に説明せよ」



 傍近くにいた者に、封筒を渡した。



「閣下に推薦して頂きたく参上いたしました」

「推薦……吾輩が、人間を」

「是非に」

「どこに誰を推挙しろと?」



 出てきたのは白紙、2枚目も無地。

 それで終わり。

 魔王は「礼紙ではないのか」と首を傾げた。



「探索者の導き手『宣託の姫巫女』に、私、オッフェンバールングが相応しいと。魔王閣下に一筆したためて頂きたいのです。皆が皆、御命を狙うとは限りません。目指すと言うなら案内します」

 転移装置を起動し、手続きを指定していく。


 よく採掘されるため、安価に流通している。

 ただし、少人数しか同時に転移できない。

 そして、片道切符という重大な欠陥がある。


 遠征では脱落者を街へ送り届けるのに使う。

 これを多用するのは、探索者くらいだろう。

 結果はどうあれ、私達は最速で帰還できる。


「準備、できました」


 私は私が求めているものを、まだ知らない。

 誰かを導いた、その先にある。不安は無い。

 魔王の推薦状を握り締め、『宣託の塔』を昇る3歩目を踏み出した ――――

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物語を構成する人間が交錯して紡がれていく、重厚長大な世界観、いいですね。かなわんなぁ
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