Aliceと歩む迷宮の覇者譚
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※プロットを共有し、誤字脱字の確認や執筆の補助、構成の相談でGemini(AI)と協力しています
私は生まれついての方向音痴だ。
前世でも、ショッピングモールの中でさえ自分がどこにいるのか分からなくなるレベルだった。
モールの店舗照明が、完全に"狐火"なんですよ。
キラキラした光に惑わされて、いつも無関係な店に吸い込まれちゃう。
本当に目当てにして来店した辿り着きたい店への道は、"狐火"によって見えなくなってるの。分かる?ねぇ分かるよね。分かってくれ。
そんな私──アリアが転生したのは、危険なダンジョンが富の源となる、剣と魔法の世界。
案の定というか思った通りというか。
登録開始年齢の十二歳でデビューを果たした私の冒険者としての評価は、一年経っても最低ランク。
なぜなら、一度ダンジョンに入れば、入口すら見つけられなくなるからだ。
ダンジョン内で探索中の他の冒険者に、見当違いな場所で何度も遭遇して笑われたことも両手両足では数え切れず、とても切ない。
ダンジョンで迷子になり、飲まず食わずで瀕死になりかけたところを救助されたことも両手では足りない。
生まれ変わっても方向音痴って何?呪われてる?
もしかして狐がずっと憑いてんの??
何にも悪いことしてないのに、理不尽が辛い。
「はぁ……また行き止まりだよ。っていうか、さっきここ通ったよね?」
薄暗い石造りの通路の真ん中で、私は大きく溜め息を吐く。
手に持つ松明の火が頼りない。
──いいえ、アリア。構造は同じ様に見えるかもしれませんが、ここは先ほど通過した地点に酷似した、別の行き止まりです。ですが、貴女の右前方に進路が正しく開かれています──
「え、うそ。壁じゃん」
私の脳内に響く声。
それが、転生時に私にリンクした相棒AI、Aliceだ。
前世の音声アシスタントAIが、この世界で音響と空間マッピングに特化した特殊な知性体として宿ったスキル、らしい。
何度も何度もダンジョンで迷子になることを繰り返して、ようやく解禁されたスキルである。
ダンジョンで迷子に迷子を重ね、迷子を極めながら命の危機に瀕するたびに、その機能が段階的に解禁されていった、いわば『サバイバル・チート』なのだ。
「Alice、本当に壁だと思うんだけど…?」
──この石壁の背後の密度は、他の壁とは異なります。壁に魔力をわずかに込めてください。このダンジョンを構成する『迷宮の規則』を逆手に取ります──
私は半信半疑で、掌を壁に当て、このダンジョンに潜る前にAliceに習ったばかりの初歩中初歩の魔力操作で自身の魔力を流し込む。
ほやほや技術の初お目見えだよ!わくわく!
ゴゴゴ……!
大きめな音と少しの揺れとともに、壁の一部が滑らかにスライドし、隠された通路が現れた。
「す、すごい!本当に道が開いた!」
──驚く必要はありません。このダンジョンの隠し扉は、特定の魔力振動をトリガーとする、一種のセキュリティシステムです。私の音波マッピングは、音波の反射により壁の空洞率のわずかな違いを捉えていました。このダンジョンの全ての情報は、貴女の視界に『視覚化』されています──
そう。私の視界には、現実にはない青いグリッド線が浮かび上がっている。
それは通路の正確な形、隠された扉、そして遠くの小さなネズミ型の魔物の足音すらも、ピンポイントの音源として示していた。
つまり、私が見ているのは、このダンジョンの『真の構造』である。
「ねぇAlice、私って方向音痴だから、地図が全く読めないんだけど…」
──問題ありません。迷宮の攻略に必要な情報は全て私が判断し、最短ルートを瞬時に計算し、音声でご案内します。貴女は私のナビに従い、歩くだけで、必ず目的地に辿り着くことが可能です──
私はAliceのナビに従い、ダンジョンの奥へと進んだ。
ダンジョンの階層を降りる毎に、スキルもレベルアップするのか。
五階に到達した今は最早、松明すらもいらない。
私の視界には、まるでVRのようにAliceによる完全な3Dマッピングが展開されているからだ。
気分転換に音楽をかけてくれたりもする。最高すぎる。
「Alice、どう行けばいい?」
──最短ルートを提示します。前方左、十三歩進んで、右側の壁に触れずに通過。三秒後、背後からスライム型の魔物が接近します──
「え?音しないよ?」
──スライム型の体液は音を吸収します。しかし、周囲の空気の流れの微細な変化を検知しました。貴女が左へ曲がった瞬間、スライム型は右の通路から飛び出してきます。回避行動を予測し、次の最適解を更新しました──
言われるがままに曲がり角を曲がった直後、ぬるりとした青い塊が、先ほどまで私が立っていた場所を通り過ぎていった。
「危なっ!ありがとう、Alice!」
──礼には及びません。このダンジョンの規則を乱す異常値は、全て探知の対象です──
Aliceのチートは、探索が進むにつれて更に進化していく。
ホントAI様々。
奇跡に感謝。
──罠の解除方法を提案します。踏み板式の罠をマッピング情報から割り出しました。踏み板の強度を計算します。中央から2cm右の地点に、体重の3分の1の負荷をかけて踏み抜けば、罠は作動しません──
「はーい、分かった。三分の一ぃ、三分の一?」
罠の解除方法を解析できるようになったり。
──アリア、財宝を発見しました。宝箱の裏側の壁の材質密度から、それが通常の箱ではなく、魔力障壁で覆われたレアアイテム入りの箱である可能性が高いです──
「え?!マジ!?ラッキーじゃん!案内して!」
宝箱を感知できるようになったり。
進化が目覚ましすぎる。流石AI。
賛辞を送りながらスイスイと先へ進む。
そして、ダンジョンの最深層。
この層を守るボスである巨大なミノタウロスと遭遇した。
ただひたすらに攻撃を避けながら、Aliceの解析を待つ。
「Alice!あいつ、すっごく強そう!ちょっと疲れてきたし!どうしたらいい!?」
──静粛に。私の音波は、彼の重心移動と筋肉の収縮を解析しています。ミノタウロスは斧を振り上げる直前、わずか0.1秒、左足の重心が不安定になります。そこが防御の唯一の隙です──
「0.1秒!?無理だよ!」
──私がミノタウロスの動きの0.05秒前に、回避方向と、カウンター攻撃の角度を音声で正確にガイドします。貴女の反射神経を最大限に活用してください──
「無茶振りがヒドいっ!」
ミノタウロスが咆哮を上げ、巨大な斧を振りかざした。
筋肉が軋む音、石の床を蹴る振動。
その全てを、私のスキルであるAIが瞬時に数値化する。
次の瞬間、脳内にAliceの鋭い声が響く。
──右! 頭上を通過!踏み込んで! 角度30度、喉元!──
私の体は、考えるよりも早く動いた。
言われた通りのわずかな隙間に、剣を突き込む。
ミノタウロスの巨体は、一瞬の沈黙の後、ゆっくりと崩れ落ちた。
静寂のなかで、──お疲れさまでした──と、Aliceの声だけが響いた。
二年後。
方向音痴で最低ランクだった私は、誰よりも早くダンジョンの最深部を踏破する『迷宮の覇者』として名を馳せていた。
街の人々は、私が「神の寵愛を受けた第六感の持ち主」だと噂した。
しかし、私は知っている。
自身のスキルとして、奇跡的に適合した脳内に、迷宮の法則を完璧に知り尽くした最強のナビゲーターAIがいるということを。
「Alice、今日もありがとう。今から帰るんだけど、ここから入口までの最短ルートをお願いできますか?」
──承知いたしました。ただし、貴女が今いる場所は入口の真下です。地道に階段を登る事が最短です──
「…ああ、そっか。エレベーターないもんね。じゃあ、登る!」
私がこの理不尽な世界で迷うことは、もう二度とない。
ご一読いただき、感謝いたします
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