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第7話─モレア

冗談じゃない。


仮面舞踏会にまでなんでこんなに物騒な奴らが多いんだ。


ブレディは足早に螺旋階段を駆け下りていた。


一階のホールにいる人達は最上階から出て来る煙を何かの演出と勘違いしているのか、むしろ楽しそうに踊っている。


この螺旋階段の手すりは妙にデコボコしているし何やら棘もある。


ブレディは無用な怪我を避けるため、ギリギリのインコースは攻めなかった。


その影響もあって、何人かとぶつかったが今はそんな事を気にしている場合ではない。


ブレディは走りながら、謝る程度にとどめた。


極めて危険な状況だ。


直接確認した訳では無いが、おそらくあの男は爆発によって命を落としただろう。


表情は見えなかったが、あれほど躊躇なく人を殺す人間をブレディはよく知っている。


明らかに殺しに慣れている。


関わるとろくなことがないタイプの人間だ。


ましてや、今回は正面きってお前を殺すと宣言されたのだ。


こういうのは三十六計逃げるにしかずだろ!


それになんだあの部屋の連中は!


俺の刑事の勘が言っている。


奴らは例外なくヤバい。


俺はあんなのとつるんだ覚えはねぇぞ!


ブレディは階段を駆け降りながら、一階のメインホールの隅から隅まで目を走らせて、彼の部下、サイモンの姿を探す。


いた!


館の一階ホールの西側は、立食するために小さなテーブルがいくつも並んでいる。


そのスペースは少し暗めで、古風なシャンデリアがレトロな雰囲気を醸し出している。


サイモンはまさにそこに居た。


サイモンがいる場所を経由すると、少々遠回りとなってしまうが致し方あるまい。


「失礼」


ホールの脇でダンスを観覧しながら楽しんでいる人々の間を掻き分けながら進んでいく。


「サイモン! おい、サイモン!」 


無駄な注目は避けたいので、(実はもうかなり目立ってしまっているのだが)サイモンのすぐ後ろまで行って、小声で囁く。


「あぁ警部、ずいぶん早かったですね。あれ? 僕は今、付き人フランクではなかったのですか?」


ブレディにそう答えて、彼は今まで話していた女性にブレディが誰であることを説明していたを。


「今はそんな事…俺は警部じゃないぞ! ブレディ伯爵だ!」


「ったく。何度言わせるんだ!いや待て、そんな事より緊急事態だ」


「ど、どうしました?」


焦った顔のブレディにフランクは戸惑いながらも続きを促す。


「ここは危険だ。ずらかるぞ。」


───────────


「付いてこないでください」


ペドロは最上階の部屋から脱出してからずっと、後をつけてきている細身で長身な男、ヤコブに対し、振り返りながら言った。


ここは最上階から一階へ降りる螺旋階段の中腹。


つまり2階だ。


「私はあなたの正体を知っている」


身を潜めていたヤコブは柱の後ろから出てきてそう言った。


全く、この建物は隠れる場所が少すぎますね。


ヤコブ心のなかで建物にケチを付ける。


「…」


沈黙するペドロ


「何かあるのでしょう? 外部と連絡を取る手段が」


「…」


なおも口を開かないペドロにヤコブはその痩せた肩をくすめる。


「恐らく我々はここからでられません」


ヤコブは2階に備え付けられた窓から館の周囲をグルリと囲む人影を一瞥する。


「あなたほどの人物がこの程度のことに不覚をとるとは思えません」


毎年仮面舞踏会では無視できない数の事件が起こっている。


ここまで大規模、殺人などは起こっていなかったものの、いや起こっていないとされているが、これはひょっとすると…


とにかく、仮面舞踏会の日は警察組織も機能しないため何かしらの対策を王宮がしているはずだった。


「メリット」


押し黙っていたペドロがその重い口を開いた。


「お前を連れて行くメリットを話せ。

話せないのなら連れて行かん」


「モレア」


ヤコブがそう呟くと、ペドロは固まった。


もっとも、たった数秒だが。


ペドロは背を向けて言った。


「ついて来い」





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