第4話─the beginning
ドレスのポケットに一通の手紙が入っていたのに気づいたのはずいぶん後だった。
目的の人物はどこを探しても見当たらず、やはり今作戦は失敗に終わったと言っても過言ではなさそうだった。
仮面をしているから一見わからないが、特定の歩き方と手の傷跡で判別できるはずだった。
もっとも、手袋をはめている人も多くいるので全員が白と言い切れるわけではないが。
腰のあたりから紙のつぶれる音がしたのは、落ち込んで手すりの欄干にみをまげたときだった。
そうして発見した手紙には、最上階のホールへ来るようにと書かれていた。
なんでも、クリスを最高級のゲームに招待するのだとか。
しかし一体何処で手紙なんか入れられたのかしら…
この館に来るまでは間違いなく空だった。
頭の中に少し前まで一緒に踊っていたキザな男の姿が浮かび上がる。
アイツだ! アイツに違いないわ!
名前は確か、アンドレーだったかしら。
レディの服に怪しげなものを忍び込ませるなんて、本当にどうかしてるわ!
しかし、ちょうど任務も進みそうもなく暇をしているところだ。
行ってやろうじゃないの!
────────
その部屋の扉の前には屈強な兵士が二人、そして白のタキシードに身を包んだ中年の男が一人立っていた。
「ようこそ、お越しいただきました」
「どうぞ、お入りください」
そういったのは二人の兵士だった。
その屈強な体付きからは到底想像できそうもない丁寧な仕草と言葉遣いに人は見かけによらないとはこの事だと再認識した。
っていうか、そーゆーのってそっちの白いのがするもんなんじゃないの?
静かに心のなかでツッコミながら、私は促されるままに部屋の中へと入っていった。
まず目についたのは大きな円形テーブルだった。
椅子は全部で12席あって、そのうちの9席には既に人が座っていた。
次に目についたのはアンドレーだ。
予想通り、呑気にニコニコと私を見てきていて、アンドレーの隣の席は空いていたが、他の空席へと足を進めた。
あからさまに悲しそうな顔をしているけど、無視よ!無視!!
私が座ろうとすると左隣の人が椅子を引いてくれた。
まぁ、気が利くわね。
その席には見覚えのある紳士が座っていた。
「ウェイソン!」
「やあ、イェーネまた会ったね」
「なんだ、知り合いなのか? ん?
お前、エマじゃなかったのか?」
紳士と下郎じゃ態度も違うのなんてあったりまえよ!
配慮が足りないのよ、配慮が!
出直してきなさい!
「彼女は─」
ウェイソンがアンドレーに事情を説明しようとして口をつぐんだ。
いや、ウェイソンだけではないこの場にいた10人全員が息を呑んだ。
この部屋には出入り口は一つしかない。
そしてそこからこの部屋に入ってきたのはここにいた10人だけだ。
確かに10人だけのはずだが、いつの間にかそこには11人目の人間が座っていた。
いつからだ─
私は眼がよく利く方だ。
部隊でも3本の指に入る。
私は無意識に太ももに装備したナイフに手をかけていた。
周囲の人間が驚きの声を漏らす中、その人間(男か、女かはわからない確かなのは金の刺繍入りの仮面をシているということだけだ)はテーブルの中央にある手紙を手繰り寄せ、
躊躇なく丁寧に開き始めた。
「ちょっ」
あまりに突然でシーザーは止めることが出来ない。
この点、彼はまだ未熟と言える。
その人間は手紙の中身を読み始めた。
「はじめまして、私の名前はリオテー」
「この館の主人だ」
「まずは親愛なる諸君に仮面舞踏会への参加を決断していただいたこと、感謝する」
「この国の王となる資質を持ち合わせた君たち11人が全員ここへ集まってくれた事は非常に素晴らしいことだ。ありがとう」
「しかし私は断言しよう」
「君たちは王になれない」
「君たちは王にふさわしくない」
「君たちには表舞台から消えてもらうことにした」
「しかしながら、仮面舞踏会への参加のお礼も兼ねて私からささやかなプレゼントを用意した」
「ゲームだ」
───私を見つけられなかったら死ぬ
私を見つけたらその人が王だ──