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第13話─神隠し

ペドロの手のひらの上に乗っているくろいる黒い生き物を見つめて、焦ったようにヤコブが言う。


「し、しかし、龍はどんなに小さい個体でも人の丈程はあるはずですよ。幼獣でもこんな…」


「幼獣ではないわ、れっきとした成獣よ」


心なしかこの生き物を前にしてペドロの口調が柔らかくなっている気がする。


確かによく見るとその体躯は漆黒で刺々しく、まさにヤコブが知る成獣のそれだった。


「詳しいこと話せないから、聞かないでちょうだい」


そう言いながら、ペドロは先程の紙を小さな龍の首にくくりつける。


「いっておいで」


そう言って、ペドロは龍を窓の外に放した。


小さな龍は意外にも建物に沿うように飛んでいく。


この時、ヤコブは無意識に龍を目で追っていたため、偶然にも目にした。


避難経路を。


─────────


ブレディは戸惑うフランクの腕を強引に引っ張り、館の出入り口である大きな扉のところへ行った。


ちなみに、時間がないのでブレディは走りながらフランクに大まかに最上階での事を話した。


大きな重厚感のある扉で、何やら彫刻まで施してある。


しかし、その両脇は大きなガラスが貼ってあり外の様子を伺うことができた。


扉の前には2名の兵士と思われる人物が立っていた。


ブレディは一つ咳払いをして息を整えてから言った。


「すまないが、忘れ物をしたことが発覚しましてな、取りに帰らせてもらいたいのだが」


兵士の男は困ったように言った。


「大変申し訳ございません。夜明けまではお通しできない決まりになっておりまして… 何かお困りであればこちらでご用意させていただきますが、いかがしましょう」


丁寧な返答にブレディも言い返すことができない。


「あ、いやそれは特別なものでだな」


「でしたら、最上階に館の主人がおりますので、聞いてみてはいかがでしょうか? 私どもは一兵卒に過ぎませんので対応いたしかねます」


口調こそ丁寧なもののその身体が扉を塞ぐ様は絶対に通さないという意思を感じる。


館の主人だとっ?


行くわきゃねーだろ


「行かせてもらうよ」


そう言って強引に突破しようとするブレディをフランクが止めた。


「見てください。 門の外には大量の警備兵がいるのが見えますよね。仮にここを突破したとしても完全に逃げ切るのは難しいでしょう。 加えて彼らは主人と仲間の可能性があります。真実は話せない。仲間でなかったとしても本気にはされない。 ここは一旦引きましょう」


フランクの正論にブレディも頷かざるを得ない。


「それに、僕少しお手洗いに立ってもいいでしょうか? 少し飲みすぎたようで」


フランクの顔は少し赤みがかかっている。


「すぐ出てこいよ」


ブレディは渋々フランクをトイレにいかせた。


ブレディはフランクが出てくるのをトイレの外で待っていた。


しかし、それからフランクが出てくることは無かった。




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