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環はあの世を駆けめぐる  作者: 春日野霞
第一章 パノプリア<鎧>
8/63

モラハラ

「なあ、まだか?」


 生き生きとコーディネートを考える環に、晴山が退屈そうな目を向ける。


「晴山さんも着替えればいいのに」

 黒いワイシャツにジーパンという、この町には少々暑苦しい格好をしていた。


「俺はいいよ。服装考えるのあんま好きじゃないし」

「選んであげようか?」

「いいのか?」

 晴山の目が輝く。

「もちろん」


 メンズコーナーに行く。シンプルな装いが良いだろうが、白いシャツだと味気ない。かといって青いシャツだと、自分とカップル感が出てしまう。

 服を選んでいた環は、視線を感じて顔を上げた。店の隅で、二人の天使がひそひそ話している。


「やっぱ出ようぜ」

 晴山が環の手を引っ張った。

「あの世に万引きとかないだろ」

 と、晴山が怒っている。


「……天使たちに、万引きを疑われたんじゃないかってこと?」

「そうだ」

 環は首を傾げた。


「万引きがないんなら、疑われることもないでしょ。別のことを話してたんじゃ……」

「俺は万引きだと思ったんだよっ!」

 と大声を出す。環は首をひっこめた。

「別んとこ行こうぜ」


 手をつかんだまま、晴山はスタスタ歩いていく。環は呆然としていた。コイツ、けっこうなモラハラ野郎なんじゃないか。


 振り払ったとして、殴られたら嫌だ。あと少し無難に過ごそう。怒らせないようにして、神殿に向かわなければならないと切迫感を全面に出して別れよう。


 開けた道に出る。道の脇には、マゼンタ色の花が咲き誇っていた。花の影で、猫が昼寝をしている。のんきなことだ。こっちはモラハラ男につかまっているというのに。


 お店の青いひさしの下に、短い行列ができていた。

「ここか」

「何屋さん?」

「ジェラート屋」


 店の中を見ると、三十種類ほどのジェラートがズラッと並んでいた。列の最後につくと、晴山は恵の好きな味について語り始めた。環の頭には全く入ってこないが、笑顔を作って相槌を打っておく。

 案外早くに順番が来た。


「いちごとバニラ。以上で」

 晴山が勝手に注文を済ませる。

「私レモンが食べたいんだけど」

「いやいいだろ。いちごで」


 もうなんでもいいやとジェラートを受け取る。食べようとしたところで「ちょっと待て」と止められる。


「こっち行こうぜ」


 ジェラート屋の横の狭い路地に入ってく。白壁さえも影で暗くなり、薄闇が二人を包む。


 環は、晴山の高い背中を見上げた。もう怒っているようには見えないが、話しかけにくい雰囲気を満載にしている。


 壁が途切れて、視界が開ける。袋小路の先は、下にある建物の屋根の上だった。崖の上のようで少し怖いが、海だけの視界が青で満たされ環は高揚する。


「いいだろ?」

 と晴山が得意気に笑う。

「あ、ねえ、海をバックにジェラート並べてさ、写真撮ろうよ」

 ポケットに手を入れる。

「そうじゃん。あの世だからスマホとかないのか」

 自嘲気味に肩をすくめてみせる。


「スマホ?」


 晴山が眉をひそめる。


「なんだそれ」


 環は目を丸くした。2.5次元俳優はまだしも、スマホを知らないはずがない。


「何言ってんの、スマートフォンだよ。もしかして、すごく昔の人とか?」


 自分で言って、ハッと口をおさえた。

 一緒に汽車に乗ってきたのに、そんなことあり得るだろうか。


 思えば、彼の発言にはひっかかるものが多い。パスタをスパゲッティと言い、イタリアンをイタ飯という。絶対おかしいというわけではないが、年代が明らかに古い。おまけに、町について妙に詳しいような気がする。美しい町の様子に感嘆することもければ、店の場所も分かって進んでいるような感じがしていた。


 晴山が、鬼のような形相に変貌している。


「お前も、俺を疑ってんのか」

「疑ってるとか、そういうわけじゃ」

「疑ってるだろ!」


 晴山が環の顔をぶん殴った。

お読みいただきありがとうございます!

みなさんは何味のジェラートが好きですか?

私は環と同じレモン味です。やっぱりさっぱりしたいので!

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