第五の町
第五の町の駅は、小高い丘の上にあった。
眼下の町は途方もなく広がり、いくつもの白い塔が建っている。青い空に溶けてしまいそうなほど遠くに、オベリスクのような形の巨塔が霞んでいた。街路樹が植わった細い小道がいくつも張り巡らされており、空き地には色とりどりの花が咲き誇っている。左手側には、赤い屋根のアーケード街が見えた。
冬の日のような青く高い空には、天使がゆったりと行き交っている。
『第五の町へようこそ。みなさま、こちらに進んでください』
駅のホームで、天使が手を振っている。皆穏やかな表情の中年天使だった。ゆったりとしたワンピースのようなものを着ており、西洋の司祭を思わせる。
「行けるかい?」
女性が顔をのぞきこんでくる。
環と女性は汽車から降りた後、ベンチに座っていた。環は話す気力もなく、女性も無理に聞き出そうとはしなかった。自然と、石造りのホームにある黄色いベンチに座っていたのだ。
「すみません。いきなり泣いたりして」
環の涙はおさまっていた。
「いいんだよ。誰にだって泣きたくなるときはあるさ。私も若いころはよく人に隠れて泣いたもんだよ」
皺のない若々しい顔でうなずく。
「若いころって、あの、お若そうに見えますが……」
「何言ってんだい、私は八十七だよ!いくらお世辞でも褒めすぎよ」
「いえ、本当にお若いですって」
「ええ~?」
きょろきょろすると、女性は立ち上がる。鏡を見てから、目を皿のように開いて戻ってきた。
「こりゃすごい。若いころに戻ったみたいだ」
「魂の記憶が、核に収納され、忘れてきている証拠ですよ」
天使が上品な笑みをたたえてやってくる。人気のおばあちゃん先生、といった雰囲気をしていた。
「若いころの記憶は、残りますから。ご自身の容貌も、若いころをイメージされる方が多いですからね。第五の町にさしかかると、若返る方も少なくありません」
「なるほどねえ。最初はそりゃあ寂しかったけど薄れてきたのは、生きてた頃の記憶もぼんやりしてきたからんだねえ」
「間もなく次の汽車が参りますから、混雑を避けたければ、ホームを出られた方がよろしいですよ」
「それじゃ、そろそろ行こうかね。……あなた、お名前は?」
「環といいます」
「私は沖光。気軽に光ちゃんと呼んでちょうだい」
ベンチをおりて、環に手を差し出す。環はその手を頼って立ち上がった。




