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環はあの世を駆けめぐる  作者: 春原沙羅
第五章 ピストリ<銃>

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見える人

 夜も深く、住宅街はひっそりと静まり返っている。人も車もまばらだ。ひしめくように建った戸建ての住宅からは、ぽつぽつと灯が漏れていた。


 聖夜に浮かれた町がまどろんでいるように見え、環の気持ちは沈む。自分だけが、正真正銘この世のものではない孤独。


 あの日を振り返るように歩く。夏生の浮気のことを聞いて、急いで公園に向かった。幼いころから遊び慣れた公園だ。小学生のころまでは、コンクリートでできたタコの形の遊具があった。安全性の問題からか解体され、それを皮切りに遊具が一つずつなくなってしまった。いまやブランコと網に囲まれた砂場しか残っていない。


 寂しくなった公園を見ながら、ベンチに座って夏生を待ったのだ。


 環は公園の前で足を止める。


 十分くらい待って、帰ってしまえばよかったのに。


 あの時の自分には、夏生の浮気が信じられなかったのだ。嘘だと自分で確かめるまで、帰れないと思っていた。


「まだ、分からなかったから」


 仕方ない、と自分に言い聞かせ、歩き出す。


 あんなひどいことを言ったのは、夏生自身ではなかった。ヒネいわく、魔物には、人間自身が思ってもないことを言わせる力はないようだが。


――モデルになりたいなんて、本気で思ってないくせに。のうのうと生きてるだけのお前が、浮気されたぐらいでわめくな


 夏生の本心なのかもしれない。

 でも、もはやそれが本心かそうでないかなど、どうでも良かった。


 ただ、橋から身を投げなければ良かった。


 あの世へ行かなければ、こんなに身の回りの人間を辛く感じることもなかっただろうから。


 身近にいないからこそ、あの世で出会った人たちに心の内を吐露してしまった。ゆえに、気づいてしまったのだ。夏生の身勝手さに。


 そして、直面してしまった。親の視線は自分を通して過去に死んだ子供を見ているということ。環という名前さえ、遥が帰ってくるようにという願いを込められたものだった。


 あの世に行かなければ、なんとなくの違和感で済んでいたのに。


 住宅街が途切れ、道路の幅も狭くなる。人通りがさらに少なくなり、あの日飛び出した橋が見えてきた。


 橋の先には、夏生の家がある。

 今は、嘘の自分と楽しく過ごしているのだろうか。


 ノロノロと歩み、橋の上に至る。向こうからやってくる人影が、街灯のあかりでぼんやり分かる。


 もしかして。環は足を止める。


 目を見開いて待っていると、相手も立ち止まる。鏡合わせになったように、目をまん丸に開いていた。


「もしかして、環さん……?」


 瞠目《どうもく》する彼は、夏生の弟、秋良《あきら》だった。


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