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環はあの世を駆けめぐる  作者: 春日野霞
序章 ペリデレオ<首飾り>
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旅立ち

「武器を集めに行きます」

 環はまっすぐなまなざしで言った。


「わかったわ。神たちに連絡しておくわね。あなたをあの世に連れてきてしまったのはこちらのミスだから、サポートはちゃんとしていくつもりよ」

「ミスって。そんな軽い話じゃないでしょ」

「あらごめんなさい。ミステイクと言った方が良かったかしら」

「同じよ。失態とか失敗とか、再発防止に努めますとか」

「今の子は厳しいわねェ」


 少しも悪びれる様子はない。


「ちなみになんですけど、神様は戦ってくれないですか」

「あの世の神は、この世の神に干渉できないのよ。だから、人間に戦ってもらわなきゃいけない」

「そうですか……」

「これを」


 ユスティラの後ろから天使が進み出てきて、お盆にのせた宝石の首飾りを環に差し出す。


「ペリデレオというものよ。私と通信もできるわ。困ったら、私の名前を三回呼んでちょうだい」


 コインほどの大きさの宝石は、ユスティラの瞳のような色をしていた。底が見えないほど深い澄んだ泉のようで、吸い込まれてしまいそうだ。

しかし、環にとってひとつ難点があった。


「デザインダサいです」


 おおぶりの石の周りに、ごてごてとダイアモンドのような石があしらわれている。金色のチェーンは鎖が大きく、成金趣味に見えた。


「あら、ちょっと古かったかしら」

「おばあちゃんの家にあるみたいな感じです」

「この世は流行の移り変わりが早すぎるわァ。ようやっとアップデートできたと思ったらもう変わってるんだもの……。ちょっと我慢してくれない?」

「こんなダサいの身に着けたくないです」

「ファッションにうるさいタイプ?」

「うるさいつもりはないけど、こだわりはあります。アパレルで働いてて」

「……ダウンにスウェットをお召しですけども?」


 宝石を持ってきた天使が首をかしげる。


「これは、しょうがないの。部屋着だから」

「しかし、あなたは屋外で死んだのですよね」

「たしかに」


 自分が部屋着のまま家を出ることは、まず有り得ない。よっぽど急ぎの用があったのか。

 死んだ瞬間のこと同様、思い出せなかった。


「どうしたの?急に深刻な顔して」


 ユスティラが首をかしげる。


「私、なんで死んだか……いや死んでないですけど、なんでああなったか覚えてないんですよ」

「そういう人はたまにいるわよォ。あの世で記憶が整理されて、だんだん思い出すの。でも思い出せたからといって、幸福そうではない人ばかりだけども」


 ユスティラが暗い声で言った。


「で、このダサいのはどうにかならないんですか」

「しつこいわねェ。どの辺がダサいの?」

「この、周りのダイアモンドいらないんです。あとチェーンが太すぎる」

「あらそうなのね」


 ユスティラが杖を振る。先端から光が出て、首飾りを包み込んだ。


「これでどうかしら」

 光が消えると、宝石から直接チェーンが生えたような首飾りになっていた。


「いやシンプルすぎて小学生の工作みたいになってます」

「注文が多いわねェ。ここは宝石店じゃないのよ」

「もうちょっと、ちょっと変えてくれるだけでいいんです」

 環は宝石を手に取り、ユスティラに近づく。


「チェーンが細すぎるんでもう少し太くして、それで……」

「図々しい人間だこと」


 結局六回ほどやりとりを繰り返して、ようやく環の納得いくデザインが完成した。

「いい!かわいい!」

 環は目を輝かせた。


 落ち着いた金色のチェーンに、同じ素材で宝石に縁取りが加わった。繊細な草木のような模様で、品が良い。


「つけてもいいですか」

「どうぞ」


 首飾り改めネックレスを首から下げる。鎖骨の下で、青い宝石が揺れた。


「長さもいい感じです」

「そりャよかったわァ」


 疲れたようにため息をつくユスティラに、環はハッとする。つい要求をしすぎてしまった。


「調子乗りました。すみません」

「えェ、調子に乗られたわァ。でもまあそもそもこちらの手違いだし、これくらいいいわよ」


 環は夢中になると、なりふり構わずふるまってしまうところがあった。友達と遊んで帰宅した後に反省会をしてしまうので改めようと毎度思うのだが、なかなか変われない。

 ただ、許してもらえたようで良かった。環は内心胸をなでおろす。


「じゃ、汽車に乗っていってらっしゃい。第一の階層の神は『タヒトゥス』というわ。神殿にいるから、まずは訪ねて事情を話しなさい。天使がうろうろしてるから、言えば案内してくれるわよ」


 ユスティラが一気に説明する。「連絡ちょうだいねェ」と手を振ると、すうっと消えた。同時に、大理石の部屋も消える。


「こちらです」


 残った天使たちが、環を汽車へ案内する。


 どんな旅になるのだろうか。現実味がなく、まるで想像がつかない。環は『神や天使が助けてくれるし、どうにかなるか』と、気楽に構えていた。

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