夜が明けたら
それから四日の間は、大忙しだった。
ポイットの声がけで、十人ほどの天使が協力してくれることになった。他にも業務の休憩中に手伝いをしてくれる天使が途切れることなく現れる。環はあの世に来てから神や天使に振り回されっぱなしだと思っていたが、頼もしく明るい天使もたくさんいるのだと知った。
愛莉はチラシを配って、環の考えたコーディネートに合いそうな人のスカウトをしていた。
「ダンスっぽい感じで、上から落ちてくる服をキャッチしてほしいんですけど」
環が、集まったモデルたちにショーの内容を説明する。
「それなら、ダンスっぽいというかダンスにしちゃえば?」
「振り付けなら私に任せてください。フラメンコを五十年ほどたしなんでおりましたの」
老淑女の一声に、モデルたちが感嘆の声を上げる。
「私は趣味でエアロビクスをやってました」
「趣味なら、アイドル好きで振り付け真似したりしてましたよ」
「全部合わせたら面白くなりそうですね!」
「フラメンコのエアロビクス、アイドルダンスのコラボ、面白そうじゃありませんか」
それぞれが生きてきた軌跡が、あの世で交わる。
「環!そっち終わったらちょっと相談があるんだけど。楽器できる人見つけてきたよ」
愛莉が環の肩を叩く。
「環さぁん!頼まれてた服のことなんだけど聞いていいかな」
ポイットが店から手を振る。
「え、そんな、同時には厳しい」
ワタワタする環に、老淑女が微笑む。
「良いですよ。振り付けは私たちで考えておきますから、あなたは行ってくださいな」
「ありがとうございます!よろしくお願いします」
それから、環は練習に設営の指示にコーディネートの決定にと、文字通り寝る間も惜しんで動いた。
夜の間は閑古鳥が鳴いていた服屋も、練習や設営の天使たちでにぎわうと人が集まってくる。
「会場設営なら任せろ!ずっと現場で働いてきたんだ」
「私モデルやってみたいんですけどいいですか……?」
「なんか暇なんで手伝いたいです」
運営を手伝ってくれる人、ファッションショーに参加してくれる人が少しずつ集まり、最終的には天使も合わせて百人ほどの大所帯になっていた。
あっという間に、ファッションショー当日になる。準備のスケジュールは大幅に伸びて、空が白むころ、ようやく全てが完了した。
「みなさん、ありがとうございました。本番もよろしくお願いします」
バラバラと仮眠のために帰っていく人々や天使たちに、環は頭を下げる。
「めちゃ楽しみ!」
「頑張ろうね監督!」
「監督、絶対成功させるぞ」
「素敵な企画ありがとう」
口々に言葉をかけてくれる。環はすっかり「監督」と呼ばれるようになっていた。
辺りが青く明るくなり、星が溶けるように消えていく東雲。肉体がないあの世でも、働き詰めると疲労感がある。それがまるで心地良いとでもいうような、笑顔に満ち溢れた人々。
「もう、既に、やってよかった」
環が思わずつぶやく。
「色んな人に手伝ってもらっちゃったね」
愛莉が、顔をのぞきこむようにして笑う。
「まさか、こんなに集まってくれるとは」
「皆あの世の暇に飽きてきてたのかも」
「……颯さん、見つからなかったね」
愛莉の笑顔がフッと消える。
「……でも、大丈夫。きっと盛り上がるから、来てくれるよ」
空が、赤く染まり始めていた。