表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
環はあの世を駆けめぐる  作者: 春日野霞
序章 ペリデレオ<首飾り>
2/63

あの世

 あの世は、思ったよりもガヤガヤしていた。


 めぐるは、人波に従って歩いていた。皆思い思いの服を着ている。死んだときの服装なのか、環もダウンにスウェット姿だった。


 空は夏の夕暮れのような薄紅色。地面は雲でできていて、フカフカしていた。しばらく歩くと、向かう先に汽車が見えてくる。博物館でしか見ないような、古めかしいいでたちをしていた。


 汽車の前に人だかりができている。駅員姿の天使に、たくさんの人が群がっていた。


「わしゃ天国にいけるんですか?」

「天国も地獄もございません。あの世はあの世オンリーでやらせてもらってます」

「じゃあ私の息子を殺した奴も、地獄に落ちてないってことなんですかっ」

「心中お察ししますが左様でございます」

「天国へ行くために神を信じてきたんですが⁉」

「ええそうおっしゃる方は多いですがこれが現実なんです」

「死んだのに現実なんですか?」

「まだ受け入れられないでしょうが現実なんですよ」

「なんで、なんで私が死ななくちゃいけないんですか!」

「とにかく!」


 駅員の天使が、羽ばたいて人々を蹴散らす。興奮のサインなのか、天使の輪っかが高速回転していた。


「汽車に乗ってください!中で説明がありますから!」

「私飛行機がいいんですけど」

「ええいそんなものあの世にはない!」

「でも汽車はあるんだなあ」


 環は思わず呟く。


「現代人に合わせてあの世も変わっているんですよ。そしたら今度は電車がいいだの新幹線だのリニアだのってこっちは何するにも時間がかかるっていうのに……」


 駅員が環を二度見する。


「あ、え、え……?」


 胸ポケットから小冊子を出し、慌ててめくる。


「こ、これだ」


 震える手で笛をつかみ、七回鳴らした。


「と、とらえろーっ!」


 死者たちの目が、環に集まる。

 空から、白い衣をまとった五人の天使たちが環に集まる。


「な、私何もしてないんですけど!」

「お前はまだ死んでいない」

「ここは死者以外が来ていい場所ではない」


 両脇から環をつかむ天使が言う。


「即刻、この世に帰ってもらう」

「いやこういうのって、三途の川の前で死んだじいちゃんとかが『お前は、死ぬにはまだ早い』とか言ってくれるやつじゃないの。なんでこんな義務的なのよ」

「やかましい!とにかくお前はこの世行きだっ!」

「ちょーッと待ちなさァい」


 空が震えるような、大きな声が響いた。

 薄紅色の空に、ぬうっと巨大な女の顔が現れる。天使たちがその場に平服する。突然腕を離された環はしりもちをついた。


「あなた、夜見よみめぐるさんねェ」

「私の個人情報が、大公開されちゃってるんですけど……」

「それもそうねェ」


 女の顔が光に消える。まぶしさに閉じた目を開くと、女が人間のサイズとなって立っていた。


 女は純白の衣をまとい、白い杖を手にしていた。深い青の髪に、夜空のような瞳。全てを見透かされているようで、彼女が神だとさとる。


「私はあの世の門の神。ユスティラと言うわ。よろしく」


 絹の袖を優雅に揺らし、手を差し出す。ギリシャの神のような彼女に見とれていた環は、慌てて握手をした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ