変わり者
資料をもらい、無骨な天使にボートを渡された環は、海の真ん中にいた。
ペラペラと資料の束をめくってはみるが、環には内容がさっぱり分からない。
「どうしよ……」
環は青空を見上げた。ボートを漕ぐ人々が楽しそうに見える。
困ったときは人に聞くしかない。環は再びユスティラに泣きついた。
「……って言われたんですけど、なんて答えたらいいんでしょうか」
ことの顛末を説明する。
『ほらねェ、一癖あるでしョ』
ユスティラが愉快そうに笑う。
『ナルディラは、七つの階層の神の中で一番賢いのよ。ナルディラに分かんないことは私にも分からないわァ』
「じゃあ人間が答えを出すのは土台無理じゃないですか」
『そんなことないわよォ。その人にとって思いもよらない発想が助けになることってあるでしョ』
「私バカなんです。勉強が少しもできなかったんです。資料もちょっと読んでみたんですけど、漢字が多すぎてワケわかんなくて」
『あらァ。私にはおバカちゃんには見えなかったけどねェ。思い込みなんじゃないの?』
「そんなことないですう」
『それなら、ちょうどよさそうな人に助けを求めるしかないわね。まずは資料を読んでみないと話にならないのだし』
「どうやって」
『ボートでぼおっとしている人間とか、本を読んでる人間とか』
「間に合わなければ発狂するのに、そんなことする人います?」
『いるわよォ。探してみなさい。それじャ』
そんなわけない。絶望的な気分でボートを漕ぎ始める。ゴールが見えないなか、発狂するかもしれないという事実だけがはっきりしているのだ。皆当たり前に必死だ。遠くを見れば小島で休んでいる者はいるが、ボートで本を読んでいるのんきな人間は……
「おったわ」
トンネルで見た蛍光黄緑Tシャツの青年が、体育座りで文庫本を開いていた。明るい所で見ると、色白が目立つ。一度も染めたことのなさそうな短髪が、さらさら風になびいていた。