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環はあの世を駆けめぐる  作者: 春日野霞
第ニ章 ソピア<知恵>
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第二の町

 トンネルから出られたのは、それから二時間後のことだった。太陽の光にさらされ、環は目を細める。手にもっていたランタンが、宙に溶けるように消えた。


 環はぐっと伸びをする。どこを見ても、水平線。水色の空を映す海に、無数のボートの影。水面みなもから顔を出した建物が、ぽつぽつと見える。水没した都市にいるようだった。


 トンネルの中では落ち込んでいた人々も、清々しい景色にひとまず息をついている。ランタンと入れ替わるように木製のボートが用意され、死者たちは自分のボートに乗って漕ぎ出していく。


 七日という長さを思うとキツそうだが、真っ暗なトンネルの中を歩くよりは楽しいかもしれない。広大な廃墟のような景観も、趣を感じて良い。


 環は自分のボートを探すが、いつまで経っても現れなかった。死んでない者には用意されないのかもしれない。

 神の居場所はどこだろう。見回すが、前は海で後ろはトンネル。神殿らしいものは見当たらない。それどころか、天使もいなかった。


 困り果てた環は、ユスティラのことを思い出す。彼女に尋ねればいいのだ。


「ユスティラ様ユスティラ様ユスティラ様」

 ペリデレオに呼びかける。ほどなくして、青い宝石がほのかに光った。


『はァい、お元気?』


 のんきな声が聞こえてくる。

「だいぶ困ってます」

『どうしたの?』

「第二の町にいるんですけど、神殿がどこか分からなくて。天使もいないですし。私用のボートもなくて」

『あァ、そうなの。そこの町の神に連絡しておくわよォ。ちょっと待っていなさい』

「お願いします」

 宝石に向かって頭を下げる。


『そういえば、あなた大変な目にあったそうね』

「あの世で死ぬんじゃないかと思いました」

『パノプリアを手に入れたのなら、ひとまず安心よォ。二度と殴られることはないはずだわ。それじゃあ』

「ちょっと、待ってください」

 慌てて止める。ひとつ気になることがあった。


「この町の神様って、怖いんですか?」

『ナルディラのこと?怖くはないけど、一癖あるわよ。とってもマイペース』

 あんたが言うか、と心の中でつっこむ。

『じゃあねェ』

 と一方的に通話を切られる。


 座って海を眺めていると、天使がやってくる。「天使」のイメージに合わない、筋骨隆々とした男だった。半裸の体にまとった白い衣が、風呂上がりのタオルに見える。


「こちらにどうぞ」


 と、浮かぶ雲を示す。ラメがちりばめられており、無骨な天使の持ち物にしてはあまりにもファンシーだった。


「あ、ありがとうございます」


 環は、笑いをこらえて雲に乗る。雲からは金色の紐がのびており、天使が握っていた。


 天使の羽ばたきと共に、雲が浮かび上がる。

 第二の町には、海と廃墟のような建物しかなかった。進む先に見渡せないほど大きな滝があり、その上に神殿がある。インドの世界遺産に似ている、と環は思ったが、名前を思い出せない。


「神殿、綺麗ですね」


 天使の広い背中に声をかけるが、振り向きさえしなかった。

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