過去
「ねぇ、先生。先生があの日見た夢、僕覚えてるんだよ。僕も同じ夢を見ていた。こんなところで本人に会えるなんてね。」
「先生は僕のこと、助けてくれる?」
「...まあ、できることなら助けてあげたいな。逆恨みされたくないし、あの時みたいに俺がその立場になりたくないからさ。」
「...そっか。先生、僕は家族を殺したんだ。それは紛れもなく事実だ。でもね、でも…」
言葉をきった大神の頬には涙が伝った。
「これで辛いことから解放されたことも事実なんだ。僕は人殺しになったけど、後悔はしていない。」
反省をするために警察に捕まったはずだ。
なのに後悔していないって...。
「どういうことだ?」
そう問いかけると大神は躊躇いながらもすべてを話し始めた。
どうやら、大神は学校でも家でも居場所がなかったらしい。
学校ではいじめられ、家では虐待され。
大神の腕や体に残っていた傷は痛々しかった。
最初は気持ち悪がられて、無視されて、しばらく経ってから自分のものが無くなり始めた。
家ではお父さんが失業し、家が切り詰め両親が大喧嘩。
お金も居場所も無くなった。
自分の部屋に篭る毎日で。
両親に殴られないために、学校だけはなんとしても行かなくてはならない。
そう思い詰める毎日で。
家でも学校でも価値がないと言われ、人生に疲れ切っていた。
ある日自分の部屋にこもっていたら、腹を立てた母が包丁を持って襲いかかってきたらしい。
それでしばらく抵抗していたら意識がなくなり、気づいたら両親もろとも殺してしまっていた。
解離性同一性障害...。
ショックなことがあると一時的に記憶がなくなるが思い出せることが多い。
「これで警察に捕まって、大嫌いな学校から抜け出せるって思えたんだ。途中まではうまくいっていたのに。幸せだったのに。」
大神くんは思い出せなかったんだ。