真実
「僕じゃない!僕はやってないんだ!!僕は大神隼人じゃない!」
拘束具で抑えられていた大神さんは訴え続けていた。
「まずはカウンセリングをしましょう。しっかり病気治療して刑役を終えて、自由になるんです。それまで一緒に頑張りましょう。僕も応援しますから。」
そう僕は大神さんに告げた。
「何か困ってることはありませんか。」
「どうして、あんなことをしたのか聞かせてくれませんか。」
そうやって俺らは日々順調に治療を進めていった。
「先生、ちょっとこっちに来てくれませんか。」
僕は大神くんにそう呼ばれた。
「ん〜。どうしたの〜?」
その時突然視界が暗転した。
最後に僕の瞳に映ったのは、大神くんの微笑みだった。
「うわ“ぁぁぁ〜。やめろっ!やめてくれ〜〜〜!!」
1人の職員が泣き叫ぶが、大神の腕は止まらない。
泣き叫ぶ職員の腹に勢いよく刃物が刺さり、ついに吐血する。
「ぐほっ...ケッホっケッホっ...」
職員はもはや喋る気力もない。
それでも大神はまだ職員を切り刻む。
大神は到着した自衛隊に抑えられた。
(ここは...?だれ...?)
朝日野新田...伊吹内都はようやく意識を取り戻した。
目の前には血だらけの職員が寝転がっていた。
すでに彼の意識はなかった。
(どうなっている?)
内都の手にナイフはあるが殺した覚えはない。
しかし殺した感覚だけは植えついている。
内臓が抉れる感覚。
思い出しただけでもゾッとする。
(本当に俺がやったのか?)
警察が貼ったであろう禁止テープの向こう側に伊吹内都がいる。
(僕がもう1人いる?!)
そうこうしてるうちに、警察に許可をもらった伊吹先生がこっち側に入ってくる。
僕の前で止まり、目線を合わせてこう言った。
「ありがとう、伊吹先生。さようなら。」
そう言われた途端、全てを確信した。
あの『伊吹』先生は大神くんだ。
「待って!待ってくれ!!」
そう叫びお願いするが伊吹先生は警察の方へと歩いていってしまう。
周りの人が焦り始めると同時に俺がどんな行動を取るのか観察している。
俺がどんな行動を取ろうと今の状況は変わらない。
「...。」
今は大人しくしている、自衛隊に取り押さえられた彼には瞳に光はない。
そのまま少年院に連れて行かれた。
カウンセリングの先生と警察官がいる部屋で、尋問を受けている。
「俺はやっていません...」
そう言っても耳を傾けてくれる大人は誰1人としていなかった。
その日はそんなに深いことは聞かれずに終わった。
次に目が覚めた時はふかふかなベットの上だった。
いつのまにか朝日野新田に戻っていた。
「夢かぁ。今日も仕事かぁ。」
ダルそうに起き上がり用意をし始める。
一時はどうなるのかと心配していたが夢で良かったと、鏡の前の自分に話しかける。
「行ってきます!」
相変わらず誰からも返事が返ってこない。
「朝日野先生」
担当患者の病室へ行こうと部屋から出ようとした時、医院長に呼び止められた。
「今度入ってくる新規の患者さんなんだけど、君にお願いしてもいいかな?」
断る理由なんていない。
なんなら医院長から頼まれたなんて、成功すれば昇格のチャンスだ。
「わかりました。」
そう言い、医院長が差し出したカルテを受け取る。
患者の名前は_________
大神隼人
きっと、これから起こる事態を暗示している。