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MIB3rd contact  作者: 光輝
■1話:夢現
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1-5:純白の花嫁

北条低をあとにしたMIB一行は、証拠品一式を飛行盤に運び入れた。


パンが慣れた手つきで大きな電子レンジを開き、【北条家虐殺事件の計画書】をチンする。

その様子を見ていたパスタは思わず声をかけた。

「えっ電子レンジで温めるのか?」

パンはちらと肩越しにパスタを見た。

「電子レンジではない。これは量子複写装置だ。送信先で解析データを再構成する技術で、まったく同じものを本部で複製できる」

パスタは電子レンジにしか見えない転送装置をまじまじと見た。腕を組み、無精ひげの顎を指でじょりと撫ぜる。

「量子もつれを使った方法でなら、素粒子数個分は送信可能とは知ってたけど……、オリジナルを壊さずに量子的情報を読み取るなんて、量子複製不可能定理はどうなってるんだ? スキャンする時に崩壊しないのか?」

パスタの問いかけに、パンはまばたきひとつ。新米研究員のような目をするパスタに、軽く肩をすくめ返したのだった。


転送装置で本部に送ってすぐ、メインルームのパネル型TVにジャッドが映る。その手にはさきほど送った【北条家虐殺事件の計画書】があった。ジャッドはまるでファミレスのメニューのように計画書を流し、さてと画面に向き直る。


『ご苦労だった。今回の北条家虐殺事件の計画書は【アーロンがイルミナ転覆を企てていた決定的証拠】といえるだろう』


ゴハンがのんびり片手を挙げた。

「あのさー、死亡してるはずの北条ジュリアを見かけたぜ。逃げられちゃったけど」

『そうか。見つけ次第、手厚く保護しろ』

「あれ? あんまビビんないかんじ? 北条ジュリアは2年前に死亡報告あげてるってのに、始末書モンっしょ」


王手をきめたかのようなゴハンの目に、ジャッドはどうということなく返した。

『逃走した北条ジュリアが、アーロンの情報を握っている可能性は高い。逃走経路の地下水路は〔スパ・ルトラ〕に繋がっている。【北条ジュリアから情報を得るため〔スパ・ルトラ〕へ向かえ】』


有無を言わさぬ指示に、ゴハンとパンは敬礼した。パスタも見様見真似で敬礼ひとつ。

映像はぷつと消え、TVコマーシャルが流れはじめる。


『世界の子どもに愛のワクチンを。子どもたちの未来を繋ぐ、イルミナ・コーポレーション』

軽快なCMでは、子ども達とセリオンマスコット〔モーリアン〕の着ぐるみが踊っている。

それ以外は、沈黙だった。なんとも妙な空気に、パスタは言葉が出なかった。ゴハンとパンは、神妙に腕を組んだまま思案に沈んでいる。


先に動いたのはゴハンだった。眉毛をかいて小さなため息ひとつ、重い腰を上げる。

「……『見つけ次第、手厚く保護しろ』ねえ。 あのクソ眼鏡、一体どういうつもりなんだか」

クソ眼鏡という名称に、パンの視線がチリと動いた。

「上官殿を悪く言うな。最近のお前の発言は目に余る」


戸惑うパスタを挟んで、ゴハンとパンの間でチリと空気が張り詰める。ゴハンは小ばかに肩をすくめ、片眉をさげてみせた。

「俺はお前と違って、頭を撫でられたい犬ころじゃねーわけ。ウルフスタンド(狼の群れの先頭3匹)は御免だぜ」


パンは応えず、デスクに地図を広げた。パスタがそそと地図をのぞく。

「これより潜入先〔スパ・ルトラ〕の座標を特定する」

パンが言って、〔スパ・ルトラ〕のページを開いた。山間部の真ん中にぽつんとある建造物の横に〔スパ・ルトラ〕の文字がある。


「〔スパ・ルトラ〕か。懐かしいな、ガキの頃行ったことがある」とパスタ。

パンの視線がちらと上がる。

「どんな施設だ」


「レストランや宿泊施設もある 温泉大浴場だよ。平たく言や、でっかい屋内型温水プールかな。でも俺が社長なら、あんな辺鄙でド田舎の山間部には建てないね」


ふと、ワンダフルTVの特番が流れる。ピアノ演奏とともに、イルミナの会長マラークの結婚祝いの報道が流れた。

「もう見飽きたぜ、この報道」とゴハン。パスタとパンの視線がそれとなくパネル型TVに向く。


TVに映るは、真っ白な神殿だった。黒髪のハンサムと、花嫁姿の金髪の女の子が映っている。

パスタは思わず立ち上がった。

テレマ研究施設で出会った、ひとときも忘れたことがなかったあの女の子が、幸せそうに手を振っている。

「……あの子、結婚したのか? イルミナ生命工学研究所のマラーク会長と……?」


ゴハンが軽く頷きまま、手元のデバイスに座標を打ち込む。

「あー、元々そういう運命だったんだよ、あの子は」


そのとたん、パスタは心臓を槍で貫かれたかのような痛みを感じた。波のような胸騒ぎに鳥肌が立つ。

頭の芯にミミズが無数に動くような感覚に、言葉が出なかった。奈落へ落ちたかのような気持ちの正体すらわからない。

純白の花嫁姿のあの子は、幸せそうに民衆に手を振っている。

(エレナ!)

パスタの心が、誰かの名前を叫んだ。湧き上がるようなドス黒い気持ちに、意識が塗りつぶされていく。


パンはふいと視線を外し、静かに目を伏せた。いつかの夜空の下、無垢な横顔を思い出す。

〔ずっとずっと一緒にいて〕、そう切に訴えたエレナの涙は、抜けない杭のようにパンの胸を穿つ。

TVのエレナはマラーク会長と愛の口づけを交わし、幸せそうな笑顔で民衆に手を振っている。


こうなる運命だとはわかっていた。だからこそ、鳥かごの天使のようなエレナに本物の空を見せたかった。勇気を出し、あの小さな手を取っていたら、未来は変わっていたかもしれないと。

こんな気持ちは、パンにとって初めてだった。


パンが断つようにTVを切る。しんと静まり返った沈黙がやかましかった。

パンの横顔に、ゴハンがちょっと考えて、ふと呟く。

「それにしても、あのエレナちゃんが人妻だなんてね。男を知らないウブなお子ちゃまだったのにさ~」

だんまりを決めるパンに、ゴハンが背もたれをしならせ、頭の後ろで手を組んだ。

「お前いい加減ふっきれろよ。中学生じゃねーんだから」


パンは応えない。ついと視線をそらしてふと、パスタの様子にはたとした。

パスタは顔面蒼白まま、何も映らないTVを凝視している。その目は薬物でもキメたかのようにぶるぶると震えていて、あきらかに常軌を逸していた。

「……おいパスタ、どうし──」

突如糸が切れたように倒れたパスタを、パンはとっさに受け止めた。驚きまま、ゴハンと見合う。


パンは手早く、ペンライトでパスタの瞳孔を確認した。右目は海色の瞳だ。しかし左目は真っ黒で、輝きのない濁った瞳は死人を思わせた。

パンが一瞬言葉を失って、戸惑いに呟く。

「こいつ、半分ヒトじゃない」


ゴハンもかがんでのぞきこみ、パスタの目に片眉を下げた。

「あ、こりゃマーフォークの目だな。なにこいつ、半分マーフォー……」

ゴハンの言葉尻が消える。その目は、パスタのレンズにあった。

レンズはドラム洗濯機のように、くるくる虹色に煌めいていた。異様な様子に、ゴハンは本能的に眉を顰める。

「……パン。ロレンツォ・パッツィーニのデータを洗え」

「了解」


パソコンをうつパン横目、ゴハンはやるかたなくうなだれた。

「ったく、めんどくせーなあ」



 ──2話へ続く


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