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MIB3rd contact  作者: 光輝
■1話:夢現
2/10

1-2:飛行盤

MIB一行を乗せた飛行盤が風をきる。

メインルームでは流れる絶景を背に、ツンツン茶髪頭ことゴハンと、白髪ハンサムことパンが書類に目を通していた。


デスクに足をのせたゴハンが、書類を軽くひらつかせる。

「あーあ、可愛い女の子だったらテンションあがんのにさ。ヒゲまみれの浮浪者とか罰ゲームかよ」


それにパンは鼻息一つ、ゴハンの足先を軽くペン先で叩いた。足を下ろせのそれだ。

「いずれにせよ、アーロンを生け捕りにするまでのチームだ。円滑に任務を遂行できるよう、仲良くやるしかない」

「わかった上でめんどくせーっつってんだよ」

足を降ろしたゴハンは大きなあくびひとつ、書類にサインを流す。パンはやれやれと書類をまとめたのだった。


洗面所でさっぱりしたロレンツォは、ハサミを探していた。ヒゲや髪をばっさりやろうと思ったが、カミソリどころかハサミすらない。あるのは綿棒と歯ブラシ、それと避妊具だけだった。

避妊具を1つ手に取る。きっとあのイケメン達の御用達なのだろう、自分とは無縁のサイズにウエスタンポリスのように目を細めた。

「……へー、イボつき立体リングXXLね」

ぼそりと呟き、親の仇のように開封する。根本部分をライオンのように噛み切ってヘアゴムにし、肩につくほど長ったらしい髪をひとつ束ねたのだった。


壁窓から見える景色はかなりの絶景だった。こんな状況でなければ、爽快な空の旅を楽しんでいただろう。

さてと支給された衣装袋を開く。MIBとして支給されたスーツは、黒いジレベストタイプだった。緑のタイを締め、しゃんと背を伸ばし鏡を見る。やんわり光る胸元のレンズに、ロレンツォは肩を落として溜息一つ。


挿絵(By みてみん)


MIBの目的は、自分を殺した男【アヴァロン・ジェーンの捕獲】。

殺人犯の逮捕なんて警察の仕事だろうが、とつぶさに思う。軍事組織が動くほどの人物が、なぜ自分を狙ったのか? 最後の記憶を思い出そうとしても、霧の中にいるかのようだった。

「アヴァロン……アーロンだっけ、とにかくアーロンを捕まえることができたら家に帰れるんだ。わけわかんないけど、とっとと済ませよう」


メインルームのドアを開けると、ツンツン茶髪頭と白髪ハンサムが書類を見流していた。

ソファに腰かける2人は真剣そのもので、ロレンツォをチラリとも見ない。手持無沙汰のロレンツォに、白髪ハンサムがふと声を投げる。

「本部に口を忘れたか」


ロレンツォはその言い方にちょっと面食らって、両手を軽く広げて見せた。

「2人の名前を教えてくれないか? 名前を呼べないのは不便だ。俺はロレンツォ・パッツィーニ。よろしく」

差し伸べられた握手に、白髪ハンサムはやや力を込めて握手を返した。手の大きさもさることながら、なんと力の強いこと!

「パン、だ」


ロレンツォはパンの力に思わず声をあげて手をひっこめ、今度はツンツン茶髪頭に向き直った。

握手をさしのべる前に、ツンツン茶髪頭はチラリともこちらを見ず「ゴハン」とだけ言い放つ。なんとも生意気なガキンチョだ。

仕切りなおすように、ロレンツォはさてと小さな咳払いひとつ。

「よろしく、パンくんとゴハンくん。言っちゃなんだが、覚えやすくてユニークな名前だな」


それにツンツン茶髪頭ことゴハンが呆れに舌打ちを返した。

「本名なわけないだろ。お前もたいがいだぞ」

言って、出張証明書をロレンツォの足元に投げた。拾い上げたロレンツォが、自分のコードネームに目を丸くする。

「俺のコードネーム、パスタ!?」


ゴハン、パン、そしてパスタ。そりゃ覚えやすいコードネームだけどよ、と喉元まで出かける。

確かにパスタは大好物だ。ことトマトパスタにおいては毎日だって飽きないだろう。

そう思ったとたんなぜかふと、湧き上がるようにあの女の子が頭に浮かんだ。テレマ研究施設で会った、可愛い金髪の女の子のことだ。思い出しただけで、くすぶるような淡い温かみが胸をうつ。

「……そういや、一緒にいた子は今日はいないのか? 防護服を着た、長い金髪の女の子」


ゴハンとパンが、チラとロレンツォことパスタを見る。妙な間があった。

「それが何だ」とパン。

なんだか問い詰められているような空気に、パスタはちょっとまごつきつつ軽く返す。

「いや、別に何ってわけじゃないけど……。その」

言いかけ、思い出す。可愛かったなあと。そんな気持ちを悟られぬよう、パスタは軽く続けた。

「謝っておきたくてさ。言い訳じゃないけど、あの日は連日徹夜でどうかしてたから」


その時だった。ゴハンがわざとらしいため息ひとつ。

「16歳のバージンにならともかく、イモくさい浮浪者に言われても全然嬉しくない」

確かに小綺麗とはいえないパスタは、眉の間を微かに曇らせた。

「俺の名前は浮浪者じゃなくてロレンツォだ……。言っておくが、テレマ研究施設でのこと俺は忘れてないからな」


ゴハンの視線がチラと上がった。やおら立ち上がり、パスタの肩を軽く突き飛ばす。足先を踏まれていたことに気付くも遅し、パスタはあっという間に尻もちをついた。

「わっ……何するんだ!」

とたん、大きな背が間を隔てる。「ゴハン、喧嘩はよせ。P(内申点)が減る」

パンはそう言いもって、大きな手でパスタをぐいと立たせた。エスコートのようなその立ち振る舞いに、パスタは思わずどきりとする。


ゴハンは悪びれもなく椅子に腰を落とし、デスクにどんと足を乗せた。そのまま悠々と足を組む。

「顔も悪けりゃ態度も悪い、爪楊枝みたいなヒョロガリのくせに一丁前な口きくからだ。お前は俺たちに同行して【アーロンの捕獲】をしなきゃいけないわけ。三下風情が口出す権利あると思うなよ」


パスタは服をはらいつつ、フンと鼻息ひとつ。やけに突っかかってくるゴハンの様子は、嫌悪というより拒絶に近い。

(どうしてこのガキはこんなにあけすけに態度に出せるんだ? 今まで注意してくれる仲間がいなかったのか?)

ゴハンの目はどこか、親友ジャンの過去を彷彿とさせた。虐待児だったジャンも、最初は暴言や暴力をふるう奴だったのだ。

そうすることでしか自分を守れなかったのだろう、と親父が言っていた過去を思い出す。一度でもそう感じてしまうと苛立ちはたちまち萎れ、一言物申す気にはなれなかった。


口を紡ぐパスタに、パンが静かに言い添える。

「言葉に気をつけろ。ゴハンの階級は俺たちより上だ」

「本当に? パンくんの方が上じゃないのか? ゴハンくんはどう見ても未成年だ」

疑いかかるパスタに、パンは面倒くさげに目を眇めた。

「この界隈でお喋りは嫌われる。一人前になるまでは背を見て学べ」


飛行盤が静かに空を飛ぶ。

爽やかな青空とうってかわって飛行盤の雰囲気は最悪だった。無言の空気は針の筵のようだ。

とてもじゃないが、いいチームにはなれそうにはなかった。


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