表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MIB3rd contact  作者: 光輝
■1話:夢現
1/10

1:夢現

挿絵(By みてみん)

[chapter:■1話:夢現]


かすかな意識の中、「ああ、死ぬんだな」という確信だけが、はっきりと冷たく広がっていく。

夢のない眠りのなか、ふと声がした。


『……彼女はもう、───から出ることはできない。泣こうが喚こうが、嘆こうが狂おうがな』

その言葉に俺は呻いた。応えるように、無感情な声が落ちる。

『───の笑顔は二度と戻らない。君はそれでいいのか? ……』


妙な胸騒ぎに、俺は空を掴むように手を伸ばした。


もがくこの手を掴んだのは、とても可愛くて、綺麗な女の子だった。


挿絵(By みてみん)


寄せては返す、穏やかな波音がきこえる。波が足元を洗い、砂がゆっくりと流れていく。

膝枕で隔てられた空。俺の頭を抱き包んだ女の子の、絹のような髪が頬を撫でる。

金細工のような睫毛に押され、温かい涙が頬に落ちた。


この女の子は、どうして泣いているんだろう?


俺は指先で女の子の涙をぬぐう。その手に頬ずりした女の子は、今にも壊れそうな儚い笑顔を見せた。


……そうだ、俺は君を憶えている。初めて会った時からずっと、ずっと忘れられなかったんだ。


       ★


「ご苦労。席につけ」

荘厳な執務室で、俺はいぶかし気に声の主を見た。魔王のようにゆったりと足を組むその男は、着こなされた軍服に黒髪が映える、鋭い刀のような色男だ。

一方、旅行鞄を抱えた俺は、ヒゲも髪も伸び放題。白いバスローブを着ていなければ浮浪者そのものだ。

「ロレンツォ・パッツィーニ。貴様はとんでもないものを盗んだ。その後始末をつけてもらうぞ」


冗談じゃない! 一体全体どうして、こんなことになっちまったんだ?


──時は30分ほど前に遡る。

UFOの搭乗口から蹴落とされたロレンツォは、あんぐりと滑走路を見渡した。

ずらりと駐機したUFO群、列をなして走る屈強な軍人たち。巨悪を体現したような漆黒の管制塔が太陽を遮る。

針金まみれの金網フェンスの向こうは、どこまでも広がる茶色い荒野だけ。映画でいうなら、屈強な悪の軍事組織そのものだ。


「ここが本部……」

とたんケツを蹴られ、ヒィと振り返る。ツンツン茶髪頭の少年が、じろりとロレンツォを見下ろした。

「ボーッと突っ立ってんじゃねぇよ、とっとと歩け」

少年の悪態に、ロレンツォは眉根を寄せ口先をとがらせる。

「だっ誰がマヌケだ。ガキのくせに……」


ふとこめかみに向けられた銃口に、ロレンツォは思わず息をのむ。銃口を上げた褐色白髪ハンサム男が、流れるように銃を納めた。

「発言は許可していない。ケツ穴を増やされたくなければ黙って続け」

今にもケツ穴を増やしそうな声にブルッたロレンツォは、少女のように鞄を抱え、おっかなびっくりについていくしかできなかった。


本部の内部は、だだっ広いという点を覗けば、なんてことない普通の学校だった。

校舎玄関の購買前でダベる生徒たち、大きな校舎に広い中庭、やけに幅のある渡り廊下。自販機スペースまである。行き交う軍人たちをのぞけば、どことなく懐かしさを感じるデザインだ。

一方、ガラス窓に反射するロレンツォは、オートロックで締め出しをくらった間抜けな旅行客のようだった。よれたバスローブが肩から落ち、片方脱げたスリッパがマヌケなリズムを奏でる。


やがて奥まった廊下の先は、校長室のような荘厳なドアがあった。白髪ハンサムが静かに告げる。

「上官殿に失礼のないように」


──そうして、今に至る。


「ご苦労。席につけ」

上官殿にそう促され、ロレンツォはおっかなびっくり腰かけた。たいそう立派な革張りの椅子がひやりとケツを冷やす。

案内されたのは、いかにも重役でございの執務室だった。手掘りの彫刻が施されたマホガニー製のインテリアは、職人に磨き上げられたパイプのように滑らかだ。仰々しい雰囲気に、ロレンツォは警察署で目覚めた酔っ払いのように、困惑した目で上官殿を見た。

「ど、どうも……。あの……ええと」

「ジャッドだ」

プレジデントデスクに肘をつく上官殿ことジャッドは、斬るように一言。風貌はマフィアのそれだ。

ロレンツォはアホみたいに頷いた。

「ああどうも、ジャッドさん。俺は……」

「ロレンツォ・パッツィーニ。貴様はとんでもないものを盗んだ。その後始末をつけてもらうぞ」


ロレンツォは自分がどういう状況なのかさっぱり掴めなかった。困惑に首をふって、弁明のように両手を見せる。

「ジャッドさん、俺はずっと寝てたんだ。記憶も丸1年ないし、なにも盗んでない。何かの手違いなんだよ、頼むから家に帰してくれ」

「断るというのなら、我々は責任をもって君を処分せねばならない。それこそ骨の欠片一つ残さずにな」


その言葉にロレンツォ思わず立ち上がった。

「そんな! 冗談じゃない。そ、そんなの横暴だ!」

情けなくひっくりかえった声に、ジャッドは鼻で溜息ひとつ。

少し間があった。責め立てるかのように、柱時計がぼうんと時を刻む。後ろで待機するツンツン茶髪頭と白髪ハンサムの視線が背に刺さった。


先に動いたのはジャッドだった。

「俺も鬼ではない。好きな方を選ばせてやる。今ここで死ぬか、後始末をつけるか。好きな方を選べ」

重々しい音と共に、黒光りする銃がデスクに置かれる。

ロレンツォは銃を見て、ジャッドを見た。銃は素人目にも本物だとわかる。そしてジャッドの目は脅しのそれではなく、マジの目だ。その目に睨まれたら、凄腕の殺し屋すら小便を漏らすだろう。

デスクに置かれた銃は静かに出番を待っている。これで今 死ぬか、後始末とやらをするか……。


有無を言わさぬ雰囲気に、ロレンツォは萎むように椅子につく。気まずげに背を丸め、ピアノのように指先をあわせた。

「……えーと、ちなみに、その後始末って?」と。


ジャッドの口角がやや上がる。

「貴様は今日からMIBの一員として、とある事件を洗ってもらう」


その言葉に声を上げたのは、後ろで待機していたMIBこと、ツンツン茶髪頭の少年だった。

「おいおい上官殿、正気かよ? ド素人丸出しのボケの子守りをしろっての?」

「この男はレンズが使える。それだけで十分だ」

ジャッドはそう言って、絡むツンツン茶髪頭かまわず、白髪ハンサムをちらと見た。

「ステファン、期待しているぞ」

「イエス・サー」

間髪いれず、ツンツン茶髪頭が白髪ハンサムのケツを叩く。「イエッサーじゃねえよバカ野郎」


背後の2人を親指で指し、ロレンツォはジャッドに肩をすくめてみせた。

「いいチームとは思えない。俺はテレマ研究施設で、あのツンツン頭の少年に煮え湯を飲まされたんだ。せめて他の奴にしてくれないか?」

ジャッドはかまわず、後ろの2人に手振りで着席を促した。訴え虚しく、ロレンツォを挟んで3人並ぶ。ロレンツォはげんなりと、口の中で「最悪だ」と呟いた。


さてと揃ったところで、ロレンツォはツンツン茶髪頭を見た。ちらと目が合い、舌打ちひとつ無視される。なんとも生意気なクソガキだ。

反対側の白髪ハンサムを見る。白髪ハンサムは改めて見ると、まるで生きた芸術品としかいいようのない端正な美丈夫だ。香水だろうか、淡く香るムスクが無骨な空間に華を添えている。ビー玉のように綺麗な碧眼が、チラとだけロレンツォを見た。見て、顎で〔前を見ろ〕と物を言う。そのなんとも色気のある仕草に、ロレンツォは目を白黒させつつ従った。


「では、これより作戦会議を始める」

ジャッドの指がひとつ鳴った。どういう仕掛けか3人の椅子がアトラクションのように動き、開いた床から現れた円卓を囲む。同時、空中パネルに画像がいくつか展開された。


パネルには、耳にかかる程のブロンドの髪が整えられた、穏やかそうな眼鏡の男が映っている。MIBの目が一瞬鋭くなったことに、ロレンツォは気付かない。

ペンライトの赤い点が蠅のように、眼鏡の男を囲った。

「貴様らの任務はこの男【アヴァロン・ジェーンの捕獲】だ。アーロンと名乗ってはいるが、ロレンツォ・パッツィーニを殺ったのもこのアヴァロンことアーロンだ。貴様を殺害後、行方をくらましている。なぜそんなことをしたのか、動機も目的も一切不明だ」


ロレンツォはぎょっとした。

「俺はこんな人畜無害そうなオッサンに恨みを買ったってのか?」

パネルに映ったアヴァロンことアーロンは、薬局の受付にいそうな普通のオッサンだ。


ジャッドは書類の束をデスクにくれてやった。流れた書類がロレンツォの前でピタリと止まる。

「今回、【アーロンがセリオンの北条邸に出入りしていた】ことが判明した。至急、調査に向かえ」


まるで現実味がなかった。

とっとと執務室をあとにするMIBの背を追いつつ、ロレンツォはこれが映画の収録ならどれだけいいだろうと思った。

信じがたいことだが、死んでから目覚めるまで丸1年経っていたのは事実らしい。

姉サンドラは妙な化物とくっついてるし、MIBとかいう奴らに脅され、後始末とやらをさせられる羽目になった。

その後始末が一体なんなのか、皆目見当もつかない。そして、これからどうなるのかも。


「……ああちくちょう、一体どうしてこんなことになっちまったんだ?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ