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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第1部 第3章

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95 大群の向かう先

 ザナが考え込んでいると、ナタリアが急に言いだした。


「そういえば、イリマーンの手の者がオリエノールに入ったとの話を聞きました」

「イリマーン? ハルマンと同じ頃?」

「ええ」

「イリマーンといいハルマンといい、最近になってやたら動きが目立つ……」

「そうですね。イリマーンの目的が今ひとつはっきりしないのが問題ですが」


 イオナの狙いならわかっている。それでは、イリマーンは何を求めている? イオナと同じなのだろうか? それとも確保だろうか。


「だれ?」

「報告では、カイルの一派とか。でも、確実な情報かどうか」

「カイル? 聞き覚えがある。確か……」

「ええ、強制者よ。国王に非常に近い」

「そう」


 やはり、イオナと同じものを追っているのか。


「それで、そのカイルは今どこに?」

「そこまでは……。ここにいると新しい情報がすぐには届かないので」


 うなずく。ナタリアはいずれメリデマール領勤務に戻ると聞いている。そうなれば情報網を掌握できる。その頃には家族も連れているのだろうが。


「ハルマンの手の者たちは?」

「今のところ、イオナ以外の動きはないようです」


 単独での行動が許されている。彼女の力が主家にも認められている(あか)しだ。


 扉の外から声が聞こえた。


「副司令、司令がお戻りになりました」


 ナタリアはさっと立ち上がった。


「それじゃ、指令室に行きましょ。間もなくやつらと接触するから」



***



 指令室ではすでに、アレックスがキリーと話をしていた。

 防御指揮官と思われる人の声が聞こえる。


「フィールドに異常なし。あと一分で接触」


 ザナは遠くまで見渡せる、前方の窓の近くに移動する。

 間もなく遠くでかすかな光の明滅が見えた。続いて、この明るい空の下でも、前方に一瞬だけ光の爆発が見える。

 すぐに、安定した発光に変わったが、しばらくすると、光は弱まり壁の位置はわかりづらくなった。


「トランサーの一部は壁より手前で南東に向きを変えました」


 そう言う報告が聞こえ、ひとり納得する。


 やはり、全部が壁にむだに体当たりするわけではない。南東方向が開いていてそっちに進めるのだから、向きを変えるのは当然だわ。つまり周囲の状況がわかっている。


 やはり、全体を掌握する手段を持っているのかしら。

 それにしてもこれまでのところは飛行していないようでそれは助かった。川に近づいたところで空中を移動されると脅威だ。


 キリーの低い声が聞こえ耳を澄ます。


「ルリの偵察隊はどうだ?」

「間もなく目視圏内に入ると思われます」


 水を避けるなら、やはりルリ川に沿って東に向かうことになりそうだ。つまり、すでに東に向かっている本体とやがて合流する。結局、ほとんどのトランサーは東に向かうことになりそうだ。

 そろそろ行動を起こさないと間に合わない。



***



 夕暮れが近づいたころ、右側に町並みが確認できた。その奥に広がる広大な農地はすでに深い色に覆われようとしていた。


「ウルブ5が見えてきた」


 アレックスの声に反応するようにナタリアの声が聞こえた。


「トランサーはいつあそこに着くかしら?」

「やつらの速度からして明日の午後になるだろう」

「ウルブ5には?」

「すでに伝えてある」


 ナタリアは遠視装置を町に向けていたが、目から離したあとこちらを見た。


「防御施設はあるのですか?」

「いいえ。ウルブ5には防御ユニットがまったくない。それどころか、あそこには作用者がいないわ」

「じゃあ、どうやって……トランサーに対処するの?」


 そう聞かれても肩をすくめるしかなかった。


「あそこは、川の南側に町の大部分があるの。北側にも人は住んでいるけど、たった一つの橋で結ばれている。トランサーが町の北側を占拠したら、あの橋を破壊することになっているはず。かなり前のことだけど、三軍会議の席ではそう説明していた」


 ちょっとしてナタリアは確認するようにこちらを見た。


「それは、やつらが水に近づかず、空を飛ばないことが前提よね。ザナさまが遭遇したやつらは飛んだんでしょう?」

「うん、そうね。でも、ここに向かってくるやつらは、これまでのところずっと地上を進んでいる。テッサが言っていた途中の丘を除けば、だけど。それに、川からも少し離れている」

「少なくとも今はね」

「君たちを送り届けたら、明日、もう一度ここに戻ることにしよう。やつらがウルブ5に近づいたあと、どうしたかがわかると、ほかの町の防衛に役立つ」


 うなずいたザナは夕闇に溶け込んでいく町を見つめながら言った。


「ウルブ5の人たちには気の毒だけど、わたしたちはトランサーが町に近づいたあと、どう行動するのかまるでわかっていない」




 ナタリアは前方に目をやった。


「それで、ここからさらに東に向かうと……」

「次はウルブ7。あそこはウルブ第二の都市だし、少数ながら防衛組織を持っている」

「でも、足りない?」


 ザナは首を横に動かした。


「全然。ウルブ7の防衛軍の半分、と言っても一ブロックにも満たない三隊だけど、彼らは北の前線に派遣されている」

「向こうにいる遊軍を回せばほぼ二ブロックね、それ以外は?」


 同じように町を見ていたアレックスが振り返った。


「混成軍から予備隊の南下を先行させた。きっとオリエノールからも何ユニットか来ることになるだろう。全部そろえば、少なくとも三ブロック、運がよければ四ブロック近い壁を形成できる。それで、何とかしなければならない。それも、それぞれの隊が間に合うかどうかにかかってる」


 ナタリアはアレックスの顔を見てたずねた。


「ウルブ7に着くのはいつごろになります?」

「その前に、三国会議を開かなければならない。大同盟があっても今の取り決めでは、他国の軍がウルブ領に入ることはできない。新しい取り決めが合意されれば、四軍会議で引き継いで、防衛組織を編成することになるだろう」

「なるほど。その三国会議にはわが国からは誰が出るのですか?」

「オリエノールとウルブにいる領事は、当然両方とも出席するだろうな。ウルブとオリエノールはどちらも首長クラスが出てくる可能性が高い。今の調子だと明後日になりそうだ」

「そんなに遅く? それだと間に合わないのでは?」


 アレックスはため息をついた。


「まあな。しかし、そう簡単にはいかないのが現実だ。国家間の利害が絡むといつもそうなる」

「でも、もうウルブ7まですぐじゃないですか」

「そうだな。ウルブ5からウルブ7までは二日弱といったところか。もっと早いかもしれん」




 地図をしばらく睨んでいたナタリアは顔を上げた。


「あと三日もないけど、17軍が今いる場所からここまではひたすら走り続けても三日ではとても無理。少なくとも四日、いいえ、このあたりの地形を考えるとおそらく五日かかると思う」

「ああ、この川を渡れる場所は限られているからな。いったんタリの近くのここまで北上するしかないだろ」

「ええ、そうなるわ」

「ナタリアの隊が到着するまでは、とにかく持てる全軍を投入して防御に当たるしかないだろう」

「時間が重要ね。もう移動を始めてる頃合いだけどもっと()かさないと。とにかく、急いでもらえますか? アレックス司令。早く向こうに行って発破をかけないと」

「わかった。でも、合意が取れるまでは絶対にウルブ領には入るなよ」

「もちろん、わかっています」



***



 空艇02はザナとナタリアのふたりを下ろすと、すぐに飛び立ちあっという間に見えなくなった。

 ナタリアは、一台の庇車(ひしゃ)をやり過ごしたあと、次の車に合図する。すぐに車から階段がせり出てきた。ナタリアはザナを連れて中に入ると、ずんずんと後ろに移動した。誰かと話をしたあと、いくつか並んでいる部屋の一つを開いて中を確認する。


「さてと、あたしは一つ前の車にいる指揮官と話をしてくる。この部屋で待っていてもらえる?」


 ザナはうなずいた。

 ナタリアが消えると、部屋の中に固定されている椅子に座る。今日も朝早くからの出動で疲れた。このところ、いささか睡眠不足だ。椅子の背に寄りかかって車の振動に身を委ねていると睡魔が襲ってきた。


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