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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第1部 第1章

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6 このままではいられない

 シャーリンは登り坂をよろよろ進んだ。地面が平らになり、やっと普通に歩けるようになる。転びかけるたびにぐいっと腕が引っ張られて、痛い思いをすることもなくなった。


 どうやら丘のてっぺんについたようだ。後ろから押されて追い立てられるように進んだところで、いきなり腕をぐいと引かれて立ち止まった。扉をあけるような音がしたあと、背中を小突かれて再び歩き出す。

 丘の上に建物。こんなところに前からあったっけ?


 さらに歩かされ、また扉を開く音がした。

 向きを変えさせられ、何歩か足を動かしたところで、肩を掴まれて下に強く押された。腰がくだけてそのまま後ろに倒れかかる。縛られた腕と背中の間に何か差し込まれた。頭を押さえ込まれてしかたなく腰を落とすと、すぐにお尻が平らな板に突き当たった。


 やっと頭の袋が外された。目をしばたいたあと、あたりをすばやく見回した。涙が出てきて一瞬霞む。

 ひじ掛けつきの大きな木の椅子に座らされている。小さな部屋。背中と腕の間に背もたれがあるらしく、肩が突っ張って痛い。


 そばに立っていた大男は、何もしゃべらずに向きを変えると、大股で部屋を出ていく。扉を閉めたあと金属のきしむような音がした。


 あらためてぐるりと見回すが、小さな窓があるだけ。明かりもついていなく薄暗い。天井は低く普通の部屋だ。




 彼らは何者だろう? わたしを拉致したということは、反体制派の連中か、それとも、無作用主義者の一派? よく考えれば、作用力を否定する人たちは作用者とは組まないわね、たぶん。


 まさか、帝国ってこともないわよね。隣国ウルブの北の国境、東のオリエノールと西の帝国に挟まれた中立地帯。ここで北方からの脅威に対抗して、日夜戦っている混成軍は三国協調の証し。

 それなのに、この大同盟を一方的に破棄するのは、インペカールにとってもいい理由がまったくない。


 彼らの交わす会話をほとんど聞いていないので、何をしに来たのかはおろか、出身すら見当もつかない。外見も服装も何ら手がかりにならなかった。


 カレンたちは無事にリセンに着いただろうか? わたしがこんなにあっさりと捕まったのを知ったら、きっとダンはかんかんに怒るわね。だから言わんこっちゃないと、長々と説教されるに違いない。




 そうだ、このまま閉じ込められているわけにはいかない。何とか脱出しないと。

 まずは、両手を左右に引っ張ってみたが、当然ビクともしなかった。この椅子の背もたれは高いけれど、椅子を倒せば、縛られた腕を引き抜けるかも。できたとして、そのあとはどうしようか。


 窓を見ると内側に鉄格子がはまっている。あれを簡単にはずすのは難しいわね。すると、出口は入ってきた扉しかない。

 首を回して問題の扉を見るが、内鍵も鍵穴も見えない。スライド錠が外側についているってことか。


 このいましめを切るにはナイフが必要。そんな都合のいい道具がここにあるはずもない。それでも、部屋の中に目を走らせる。

 ここは倉庫として使っていたみたい。隅にがらくたがたくさん散らばっている。あの中に何か使えるものがあるかも。




 つま先で椅子ごと立とうとするがどうにもならない。椅子を横に倒せないかと頑張ってみたが無理。

 仕方がない。かろうじて床に届いているつま先で床をけって、後ろに倒そうとした。しかし、椅子の前足は持ち上がるものの、揺れるだけでうまくいかない。


 汗だくになってきた上に、腕がギシギシすれて痛い。何度も頑張ったあげくに疲れて、しばらく休憩する。そのあと、これが最後と覚悟を決めて、思い切り反動をつけて体を反らせると、やっと後ろに倒れ始めた。慌てて頭を胸に引きつける。


 ドスッという鈍い音とともに、両腕にすごい衝撃を感じる。続いて、肩が外れたんじゃないかと思うほどの激痛に襲われた。

 声を出さないように歯を食いしばり、体を思い切り捻り、何とか椅子ごと横向きの姿勢になった。


 そのまま、はあはあと何度も大きく息をする。しばらく動けずにじっと耐えた。今の音は外に聞こえなかった?




 次は、腕を背もたれから抜く番だ。何度も繰り返してやっと引き抜くのに成功した。腕の自由が少し戻るが、しびれてじんじんしたまま。足にも力が入らず床にぺったりと座り込む。

 腕の感覚が戻らないまま、部屋の隅へと膝でにじり進む。何か使えるものがないかとゴミの山を足でかき回し、細い金属の棒を発見した。


「これで何とかなるかも」


 そう呟くと、長い棒を足で滑らせて部屋の中央に持っていった。

 左の袖を右手で苦労してたくし上げ、右の手のひらで服の左袖を包み込めるようにする。


 袖先についている銀糸の飾りには、自分のレンダーの素材と同じように調整したメデュラムが練り込んである。

 これを見つからなくて本当によかった。こんなことを思いついたフェリシアと、お願いしたとおりにこの服を直してくれたドニにも感謝しないと。




 しかし、これっぽっちのメデュラムでは、ほとんど使い物にならない。それでも、金属をちょっと削るくらいは可能なはず。問題は、対象物が見えないまま、狙いどおりの場所に作用を発動させられるかどうか。


 仰向けの状態から、片側を少し起こして体を斜めにした。左手の真ん中に棒の端がくるように腕を向けたあと、手をちょっと持ち上げる。目を閉じ左手に全神経を集中し、その先に置かれた棒を何とかイメージする。ゆっくりと攻撃作用を送り込んだ。


 手が突然熱くなり慌てて振り払った。近すぎたようだ。棒が冷えるのを待って後ろ手につかむと、どこが溶けたか感触で確かめる。

 棒の位置と角度を変えて、ひたすら同じ作業を繰り返した。


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