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おかあさんと呼んでいいですか  作者: 碧科縁
第2部 第3章

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240 予想外のできごと

 車はぐんぐん進み正面の山が目の前に迫った。

 急勾配の斜面を見て思い出す。最初はここを歩いて登ったっけ。あの時は本当に考えなしだった。思わず苦笑いしてしまい、ミアがこちらを向いた。


「どうした?」


 木々の中に見えている細い山道を指さす。


「あのですね。最初は、レタニカンに行く道を知らなくて、あそこを歩いて登ったのを思い出してしまって」


 車は分岐点を右に折れて進んだ。


「登山をしたのかい?」

「はい、三人で」

「……若いねえ」

「ミアだってわたしと一歳も違わないじゃないですか」

「今はたぶん三つ年上だぞ」

「えっ?」

「ほら、あたしらはシルで時伸を使って治療されたんだよ。つまり、この髪の長さ分の(とし)を取ったのさ」

「ああ、そういうことですか。すごく大変だったんですね……」




「しかし、あそこまで歩いて登るとは……。車を使おうとは思わなかったのかい?」

「もちろん、あのふもとまでは車で行ったんですよ。いま考えればおかしいですよね。どうして道がないと思ったのかな……」

「やれやれ。……メイも一緒だったんだよな」

「そうです」

「わざとピクニックとしゃれ込んだな……」

「……そうそう、メイが自ら作った豪華なお弁当付きでした。お茶も本格的なやつで……」

「そうだと思ったよ。あたしが言うのもあれだけど、商売人は常に自分に都合がいい方向に誘導するものなんだよ……」

「えっ、まさか、メイに限ってそんなこと。……でも、ウルブ6の町が一望できる中腹で食べたお弁当はすごくおいしかったな……」




 ミアから笑い声が漏れた。


「そりゃ、山登りをしたあとは、どんなものでもうまいさ」

「違いますよ。本当ですって」

「ああ、わかった、わかった。メイは料理にはうるさいからね」

「メイのこと、お姉さまとしてどうお考えです?」

「うん、メイはすごくいいやつだよ。彼女はあたしのことを何でもできると羨ましく思っていたらしいけど、あたしからすれば、社交的でよく気が回るメイのほうがよっぽどすごいと感心していたさ」

「ああ、わたしもそう思います。メイはとってもすてきな女性です」

「だろ? それに、身の固め方もあたしのように唐突じゃない。以前からきちんと考えている。あたしの自慢の妹だし、ロメルの次の当主を完璧にこなしていけると思う」

「それ、メイに言ってあげるといいですよ」

「そうか……うん、わかった。今度ゆっくり話してみる。この前はこっちがぐったりしていたから、ろくに話もできなかったからな……」




 突然、ディードが声を出した。


「空艇が見える」


 ここからでは彼の見ている方向は視界に入らない。


「ミア、そっちから見えます?」


 窓に顔を付けていたミアの顔色が変わるのがわかった。


「大きい。輸送艇かな。黒い船……まさかね」

「ニコラ、何かわかる?」

「遮へいが張られています。……かなり強い」

「カイルかな?」


 そうつぶやくと、ミアが首を振った。


「いや、いや、あの船はシャーリンが破壊しただろ。残骸はまだそのままあそこにあるよ」

「そうだよね。それなら、別の船か。でも、どこのだろう?」


 問題の船はすぐに視界から消えてしまった。




 坂を登り切って国境の尾根が見えてくるとニコラが振り向いた。


「レタニカンはまだ先ですか?」


 斜め前方に通信塔が姿を現した。アレックスに背負われてここまで来たのだっけ。あれも遠い昔のことのように思う。


「あの通信塔の脇を抜けるとあと少し。あそこに見えている森の向こう側」

「おかしいわ……」


 こちらを向いたニコラの顔には憂慮が浮かんでいた。

 木々の間から建物がちらっと姿を現した。もうすぐだ。


「誰も感じられない……ここにいる人たち以外に」


 ミアがさっとこちらを見た。


「それは変だ。レオン、もっと急いで。何かあったのかもしれない。ほら、飛ばして」




 ものすごい勢いで道路から脇道に曲がり建物の正面に回り込む。

 玄関があけっぱなしなのが目に入る。

 車が止まる前に扉を開き滑り出たが、先に降りたクリスが横に手を伸ばした。


「シャーリン、だめです。下がってください」


 後ろからニコラの落ち着いた声が聞こえた。


「意識のある人はいません。それに、敵らしき者も()えないわ」

「大変だ。すぐに下の人たちにも知らせないと」


 玄関に近づくと、誰かが入り口に倒れているのが見えた。急いでそばに行く。


「フィオナ!」


 呼びかけるが返事がない。

 ミアが手早く調べたあと言った。


「大丈夫。気絶しているだけだ。こいつは衝撃銃でやられたな」




 部屋の中を見ていたニコラがさっと振り向いた。


「船が来ます」

「クリス、奥を調べてきて」


 そう言い残し外に出ると、空を見上げて身構える。

 すぐに白い船を発見し緊張を解く。

 空艇は速度を落とさずに降りてくると、着地する前に扉が開いた。


 イオナとクレアがものすごい勢いで飛び出してきた。こちらを見てうなずくとすぐに建物の中に入っていった。

 船に目を戻すと、カレンと知らない女性が降りてくるところだった。カレンの顔が真っ青なのに気づくと振り返った。まさか……。


 中に入った時には、クリスがイオナと一緒に奥から戻ってきた。


「シャーリン、全員、気絶しているだけですが……」


 しゃべり始めたクリスを見つめる。


「医務室がからっぽでした」




 後ろからカレンがあえぐような声を出した。


「やっぱり。でもどうして……イオナ?」


 カレンはイオナが持っているものを見つめていた。


「それは何ですか?」

「やられた……」


 イオナはそうつぶやくと手の中身をカレンに差し出した。

 受け取った紙を開いたカレンの肩越しに(のぞ)き込む。

 短い走り書きが見えた。


『預かりものはロイスのカレンと交換で返す。トランのヴィラまでひとりで来ること』


 意味が理解できずもう一度文章を読み、イオナに目を向ける。


「どういうことですか、これ?」




 カレンの手から紙を抜き取ってさっと目を通したミアが言う。


「カレンをさらう代わりにノアを連れていったのか。なんでそんな回りくどいことを……」

「前にもカレンを拉致しようとして失敗した」


 シャーリンがそう言うと、クリスが確信したようにうなずいた。


「さっきの黒い船、あれか……」

「黒い船?」


 尋ねるクレアにディードが答えた。


「ここに来る途中で見えたんです。大型の黒っぽい輸送用らしき空艇でした」

「それはどっちに?」

「南のほうに飛んでいきました」


 いきなり怒りが湧いてくる。


「くそっ! やはり、カイルか……」

「あろうことか、また来るとは……」


 そう言うイオナにカレンが謝る。


「すみません。ここでこんなことになるなんて。わたしがもっと気をつけていれば……」

「カレンのせいじゃない。わたしがここに残るべきだった。それにしてもあれをまるごと積める輸送艇はそうない……」


 イオナは床に倒れているフィオナに目をやり考え込んだように黙った。


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