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一人の夜 4

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「何故だ。……眠れない」


 同時刻、リオンはぐっと眉間にしわを寄せてうなった。

 今日からフィリエルは王妃の部屋で眠っている。

 彼女が隣にいるとどうしても寝付けないので、顔色を戻すために誕生祭までは一人で眠る必要があったからだ。それなのに、眠れないのは何故だろうか。


「なんでだ。眠たいのに……眠れない」


 無意識のうちに隣のぬくもりを探してしまっている。

 フィリエルが人に戻って二か月半。

 その間に覚えた彼女の息づかいや表情、抱き着かれたときの柔らかさ――それらがまざまざと脳裏に蘇っては消えていく。

 だんだん、眠り方もわからなくなってきた。

 フィリエルがいなければ眠れると思ったのに、いない方が落ち着かないなんてどうかしている。


(……少し顔を見たら落ち着くだろうか)


 もう夜も遅い。今頃フィリエルは夢の中だろう。

 リオンが訪ねて行ったら起こしてしまうかもしれないと不安に思うも、我慢できずにリオンはベッドから起き上がった。

 ガウンを羽織り、扉を開けると、兵士が不思議そうな顔をする。


「陛下、どちらへ」

「散歩だ」

「それではお供いたします」

「いや、いい」


 兵士は渋ったが、強引に後をついてこようとはしなかった。

 王妃の部屋に向かうと、扉の前で夜警にあたっていた兵士が敬礼を取る。


「陛下……」

「静かに。王妃が起きる」

「はっ」


 リオンが軽く片手をあげると、兵士の一人が扉を開けてくれる。

 中に入ると、やはりフィリエルは眠っていた。

 灯りの落とされた部屋に、フィリエルの静かな息づかいが響いている。

 天蓋のカーテンを小さく開けば、ベッドの上で、枕を抱きしめて眠っているフィリエルがいた。


 リオンの顔が自然と緩む。

 ベッドの縁に腰かけてフィリエルの髪に手を伸ばした。

 さらりと指の間をすり抜けていく、艶やかな髪。

 しばらく髪に触れていたリオンは、遠慮がちにフィリエルの頬に指先を触れた。

 触れても起きる気配がないことにホッとしつつ、手の甲で頬を撫でる。


(不思議だ。落ち着く……)


 彼女が隣に眠っているときは全然落ち着かないのに、こうして寝顔を見ていると落ち着くのはどうしてだろう。

 同時に、彼女がしっかり抱きしめているのが自分ではなく枕であることに、ちり……っと、胸の奥に焦げ付くような痛みが走った。


 なんとなく面白くなくて、ふにっと指先で頬を突けば、フィリエルが「むーっ」と小さくうなる。

 びくっとして手を離せば、むにゃむにゃと何やら文句らしきものをぼやいて、また健やかな寝息を立てはじめた。


(よかった、起こしたわけじゃないようだな)


 今なら、彼女の隣にもぐりこめば眠れそうな気がした。

 だが、いくら相手が妻であっても、眠っている女性の隣に無断で潜り込むのはいかがなものだろう。


 リオンは考えて、潜り込まないならいいかもしれないという強引な結論に至った。

 潜り込まずに、ベッドの端を借りるのだ。


 リオンはソファの上に畳んでおいてあるブランケットを見つけると、それを借りて、ベッドの端っこにごろんと横になった。


「おやすみ、フィリエル」


 自分でもよくわからないが、今日はよく眠れる気がした。








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