思わぬ展開
俺は白衣の天使、石野 救世主。
仕事終わりに一人で牛丼屋で飯を食って外に出て……不良に絡まれて駅まで追いかっけっこ。
具合悪そうな酔っぱらいを介抱した俺は……背後からやって来た駆け込み男に気づかなかった……。
俺はその男に吹っ飛ばされ、目が覚めたら……身体が動かなくなっていた!!
たった一つの真実見抜けぬ見た目はわからぬ、頭脳は大人、その名は、迷探偵メシア──。
ごっこ遊びを思いついたが、なんと虚しきかな。
転生したらヒマでした。
何もやる事がありません。
今度こそ本当に一人遊びネタが尽きてしまった。
あー、もうね、何かに転生したことは潔く認めるよ。
なんてたって死んだ記憶があるから。
なぜか二度も同じ死の瞬間に立ちあったから嫌でも忘れられないさ。
それに楽しい臨死体験もしちゃってるし。
なぜかこちらは一度きりだったが。
奪衣婆は今も水上バイクを颯爽と走らせているのだろうか。
でもさ、転生したとして、俺は何に転生したんだよ。
神様、あんた俺を何に転生させちゃったわけ?
動けない、手がない、喋れないの三重苦になっちまってるじゃないか。泣いちゃうぞ……。
とにかく転生したら詰んでる件について神様に問い質したい──。
………………
…………
……
俺が洞窟で目を覚ましてから一晩が経った。
実際には、朝なのか昼なのか夜なのかはわからない。
俺が深い眠りに落ちて目が覚めたので、一晩ということにした。
こんな身体──実際にはどんな身体になってしまったのかはわからないが、身動き一つ取れないこんな身体でも三大欲求である睡眠欲は今の俺にも健在だった。
~三大欲求とは、生きていく上で重要な3つの欲求の総称である。一般的には食欲、性欲、睡眠欲のことを指す。欲求の程度は人それぞれで違うが、誰もが持っている欲求だ。以上、メシア君の豆知識~
不思議と、食欲と性欲は湧いてこない。
性欲は今は無いに越したことはないがな!
ムラムラと性欲の泉が湧いてきても困る。
手も動かせないというのにナニをどう処理すればよいというのだ。
悶々としながら苦悩の日々を過ごすのは地獄の沙汰である。
それはともかくとして、食欲がまったく湧かないのは気になるところだ。
水の一滴すら口にしていないのに、喉の枯渇感さえもないのだ。
目が覚めてからだいぶ経つというのに。
それともう一つ。
暑いとか寒いとかの温熱感覚がない。
洞窟といえば夏場でも涼しい場所のイメージがあるが、そういった冷涼感を感じるものがどうやら麻痺しているようなのだ。
ということは、もしここが極寒の洞窟だとしたら、かなりやばい状況ということになる。
のんきに寝てる場合ではない。
生命の危機に瀕する。
低体温症、凍傷、凍死、これらを心配しなければならないからだ。
低体温症の判断としては、深部体温が35度以下かどうかを知りたいところだが、調べる術が今はない。
となれば、あとは激しい震え……は、今のところないな。
判断力の低下などの症状……多分ない。
筋肉の硬直……は、あ、る……。
脈拍や呼吸の減少、血圧の低下……?
(…………え?)
せんせーい、脈拍を感じられませーん。
(なん……だって!?)
脈打つ臓器はどこ行った?
俺の心臓、……止まってる?!
(ちょちょちょっと待って?)
意識するまで気づかなかったけど、もしかしなくても俺、呼吸していないんじゃね……?
……え、心肺停止? ……え、死んでる?
俺、死んでるのか?! いや、死んだけど。
いや、そうじゃなくて……え?
(え、え、え、え、え、え?)
ちょ、待てよ?
頭が混乱してきたぞ。
(どういうことだ???)
すでに死に至ってるって事か?
いや、一度? 二度? 死んだよ?
え、まさかの……?
………………
…………
……
──転生先、死者?
これから腐食して朽ち果てる感じ?
すでに白骨化しちゃってるパターン?
生まれ変わったのに、死んでるの?
いくら何でも切なすぎるぞそれは……。
判断力までもが失われそうである。
思わぬ展開に、俺の脳内は大混乱を極めていた──。