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旅立ちのとき

加筆修正しました

 揺るがない自信と強い意志があったならば、俺はもっと違う人生を歩むことができていたのだろうか。

 もう少し度胸さえあれば、美人の女医さんをゲットする事ができたのだろうか。

 女医さんじゃなくても構わないが、可愛い彼女とデートの一回くらいは行ける人生だったかも知れないな。


 童貞のまま人生を卒業か……。

 なんて儚い人生だろう。

 せめて、人生を卒業する前に童貞を卒業させて欲しかったぜ。死神の野郎。


 死に直面しながらも俺は、そんな事を考えていた。


《──おい。そこの憐れなやつ》


 後悔、先に立たず。確かにその通りだ。

 振り返れば、後悔ばかりの人生だったかも知れない。


 こんなに早く死ぬとわかっていたならば、エッチな本を枕元に置きっぱなしにしたままで仕事に行くようなアホで恥さらしな行為はしなかっただろう。


 遺品整理でみんなにあんなものを見られるのかと思うと、死んでも死にきれない。恥の上塗り。


 白いのがたっぷりとついているよ? 

 何がとは言わないけれど。

 どうしてくれるんだ、死神さん。

 やってくれちゃったねぇ。


 もう夢枕に立つ勇気も気力もないよ?

 恥ずかし過ぎて最期の別れにも行けやしない。

 行けたとしてもお互いに気まずいだろうが。

 どの面下げて行けと言うんだ。


 誰か俺の部屋だけ今すぐに燃やしてくれないだろうか。

 放火魔さん、今だけ歓迎します。


《──おまえの願いを言ってみろ》


 父さん、靴下は二足揃えて洗濯に出せ。

 怒った母さんがまた父さんの頭で草むしりを始める前に。

 最近、おでこが後退しているんだから特に気をつけろ。


 母さん、夜中に爆食いするのはやめろ。

 シルエットがすでに鏡餅なんだから。

 クレーンで吊るされたヒグマを検索して見ろ。

 あれは母さんの分身に違いない。

 頼むから健康のためにも少しは痩せる努力をしてくれ。


 姉さんたち、旦那の稼ぎばかりをあてにするな。

 その金で贅沢三昧はどうかと思うぞ。

 寝姿がすでに海洋生物なんだよ。

 そのうち鏡餅になって肥えたヒグマの完成だ。

 どんまい。


 爺ちゃん、あんまり夜遅くまで出歩くな。

 『出歩こう会』の会長が近所で迷子放送なんて恥ずかしすぎるだろ。

 そのうち『出歩くな徘徊』に改名されるぞ。


《──おい。聞いているのか》


 もしも来世があるならば、ハッピーでニートなパンダライフで脱童貞を目指したい。

 この際、童貞のままでも構わないから、可愛い彼女に隣にいて欲しい。

 名前に負けないくらいの人生を謳歌してみたい。


 願わくば、来世では何者にも屈することのない強い意志で生きたい──。




 石野 救世主、享年23。

 救世主と書いて、メシアと読む。

 完全に名前負けの人生だった。

 だけど、俺の人生は悪くなかったと思う。

 何てことのない普通の人生だったけどさ──。


 父さん、母さん、爺ちゃん、姉たちよ。

 先に旅立つ俺を許してくれよな……!




 ………………



 …………



 ……




《──さっさとおまえの願いを言えと言ってるだろっ!!》


 (うっせぇなっ!)


 さっきから、願い、願い、ってうるさいんだよ!

 そんなに人様の死よりも願いが大事なのかよっ!?

 俺はすでに「強い意志で生きたい」ってカッコよく言ってただろがっ!


 人生のラストくらい完璧に締め括らせろやっ!

 死に逝く人間を黙って見送れっ!!




 俺の意識はそこで途切れた。

 完全に名前負けの白衣の天使は、本物の天使になるために、そうやって天に旅立ったのである。

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ここまで読んでくれてありがとうございます。

少しでも面白いなとか続き読みたいなとか

思ってくれたならば、

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ブックマークなどしてくれたら嬉しいです。

次話から本編スタートします

                  祇王雪那

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