人智を超えた生命体
ぼっち生活再到来。
猛烈な睡魔に襲われて深い眠りに堕ち、目が覚めるとポプラの姿がどこにも見当たらなかった。
俺は酷く落胆した。
悲嘆に暮れるとはこういうことなのだろうか。
最愛の人に突然捨てられた人の気分ってのは、こんな感じなのだろうか。
何もやる気にならない。
元から何かを成し遂げられる身の上ではなかったが。
早すぎる別れだったな。
あれは夢だったのだろうか。
どうして俺たちは出逢ってしまったのだろう。
こんな想いをするぐらいならば、出逢わない方がマシだったかもしれない。
だがしかし、夢でも何でもすでに出逢ってしまったのだから仕方あるまい。
この喪失感はやがて時間が解決してくれるだろう。
そうやって乗り越えて人は強くなるのだ。
そう誰かが言っていたな。
でもあれは恋人にフラれた同期への言葉だったか?
もちろん俺は恋心を抱いていたわけではない。
あのゆるふわ生命体は俺の癒しだったのだ。
出逢って間もないが、ポプラはこの世界に彩り──赤い事に変わりはないが、彩りを与えてくれるような、何というか、あれだよあれ。なんだっけ? ペットも家族? 的なあれだ。
よく聞くだろ?
ペットショップで目と目が合った瞬間に取り憑かれ──何か違うな、 恋に堕ちる? 何やら物騒な雰囲気を醸し出してしまったような……あ! 一目惚れ! ハートがきゅんとするようなあれがあるというじゃないか。
見ていると心がきゅんきゅん、ふわふわ。
ポプラもきゅんきゅん、ふわふわ。
昨日の今頃は、そんな姿を目にすることができていたが、今はどこにもそれが見えない。
ポプラの姿がない天井を眺めていても、ただただ虚しいだけだった。
寝よう。
眠れるかはわからないが、とりあえず目を閉じよう。
何も見たくない。
今ならば、何らかの悟りが開けるかもしれない。
もう考える事をやめよう。
………………
…………
……
どのくらいの時間が経っただろうか。
フッと影がさした気がして俺は目を開く。
そして驚愕した。
(でかっ! なんじゃこりゃー)
目を開けた瞬間に飛び込んできたのは、超巨大化したポプラの姿であった。
ポプラとの出逢いは、どうやら夢ではなかったらしい。
それとも夢を見ているのだろうか?
でも今はそんな事はもうどうでもいいくらいの衝撃である。
何がどうしてそうなった。
この一晩でポプラに何が起きたというんだ。
つい昨日、手のひらサイズにアップグレードしたばかりではなかったか。
何をどうしたらそんなに巨大化できるだ。
もしや、一夜にして巨大化してしまうような生物なのだろうか。
ここが異世界ならば、十分に有り得る話ではある。
あるいは、超帯電体質でそこら辺の綿毛を根こそぎ吸着したのだろうか。
さらに巨大化されるよりは、超帯電体質の方がマシである。風船のように膨らみ続けられてしまったら、洞窟が崩壊するかもしれないからな。
転生して間もなく、はじめての洞窟で出逢ったはじめてのお友達の超巨大化によってはじめて生き埋めにされたはじめてのお友達にはなりたくはない。
ゆるふわというよりは、むしろ、これはまるふわかな?
まるふわ生命体の身体構造の謎を解き明かしてみたい。そして地球で論文発表したらかなりの話題になりそうだ。
異世界の生命体だからな。
話題沸騰、間違いなし。
「ぎゅい?」
ここで残念なお知らせがあります。
あんなに愛らしかったポプラの鳴き声が、一夜にしてアニメのデブキャラのようなくぐもった変な声になってしまいました。
どうした?
語りかけるように、ポプラはまるふわボディーを傾げる。
おまえこそ、どうした?
うさ耳と翼が小さいままじゃないか。
身体の大きさに似つかわしくないサイズである。
アップグレードに失敗したのか?
どうやってそんなちっこい翼で巨大な身体を浮かせているというんだ。
翼はただの飾りだったのか?
これが残念な生き物というやつか?
異世界の生命体とは、ある意味、人智を遥かに超えた存在のようである。