表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/13

今日の天気は晴れのちお友達?

 もしかしたら死者に転生したかも知れないという推測に至り、なかば半狂乱でパニックに陥っていたのは昨日のこと。

 気づけばまた深い眠りに堕ちてしまって一夜が過ぎていた。


 どんな状況下であろうとどんな場所であろうと、ぐっすりと眠れてしまうのが俺の長所であり、短所とも言える。

 要するに、睡魔には勝てないのだ。


 大学受験の時に試験中に居眠りしかけた時はかなり焦ったぜ。

 一度眠るとなかなか目を覚ませないのだ俺は。

 危うく人生詰みそうになったぜ。

 今は転生して詰んでるけどな。


 なんやかんやとあったが、今俺が落ち着いていられるのは、目の前でふわふわと浮かんでいるこいつのおかげである。


「きゅい?」


 不思議そうに身体をまるごと傾ける姿がとても愛らしい。


 こいつとの出逢いは、降ったように湧いた。

 文字通りに降ってきた。


 ………………



 …………



 ……



 (──転生したら死者とか意味わからんことになってるんだってばよ!)


 時間が経つにつれ、焦りと不安を通り越して怒りが込み上げていた俺は、あろう事か、神様に呪いの言葉を捧げていた。

 それは稚拙な悪口からはじまり、やがて他人には聞かせてはならないような、毒々しく禍々しい汚い言葉を連発していた。


 しばらくして毒気をほぼ吐き切って落ち着いてきた俺は、いつものように赤い天井をぼんやりと眺めていた。

 星空でも眺めたいところだが、仕方あるまい。

 動けないのだから、俺は。


 目覚めると洞窟にいたのでちょっとは期待してみれば身体は動かず、はじまりの洞窟から一歩も外に出られずに冒険にも行けない悲しき俺。


 生涯をこの洞窟に捧げなければならないのかと落ち込んでいたところ、死者に転生してしまったかも知れないという考えに至る

 散々に神様を呪ったあとに己の不運さを嘆き呪っていた。


 すると、わた雪がはらりと天井から舞い落ちてきた。


 どこかに隙間でも空いているのかと思い、見渡せる限りの周囲に視線をぐるりと動かす。

 しかし明かりが差し込んでいる気配はなかった。


 それは眼前まで落ちてくると、停滞しながらふわふわと浮かんだ。


(何だこれ?)


 雪だと思っていたものは、まるでポプラの綿毛を親指の先っちょサイズに寄せ集めたかのような丸いフォルムで、うさぎのような小さな耳が生えている。その背には、これまた偉く小さな天使の如き翼があった。


 目を凝らさければ見落としてしまいそうなほどの小さな綿毛の生命体。

 そこで俺は、自分が転生してきた場所が日本どころか地球ではないのだろうという事を悟った。




 というわけで、今に至る。

 こんなゆるふわでファンシーな生き物は初めて見た。


 とりあえず俺は、こいつに『ポプラ』という名を与えた。

 安直すぎるが可愛い名だろ?


 察するに、ここは地球ではない世界で、いわゆる異世界とか呼ばれちゃう世界線らしいようだ。

 となれば、この生き物は異世界の生き物ということになるな。


(なるほど。俺が転生したのは、異世界だったのか……)


 すーっごく複雑な心境である。

 はじまりの洞窟から探検にさえ出かけられないままなのが、ものすごーく悔やまれる。


 何度も言うが、俺は動けない。

 だから探索したくとも、動けないから洞窟探検も新たな冒険も叶わぬ夢なのだよ。


 何らかの情報を得たくとも、探索できなきゃ詰むだろ?

 現に今の俺が詰んじゃってるからな。

 

(ゲームとかならば『ステータスオープン』とか唱えれば有益な情報を与えてくれるのだが……)


 ──ピカッッッ!!!


(うわっ! 目がぁ~目がぁ~)


 突如、眩い光が放たれる。

 なんの前兆もなく光るものだから、俺の目が三途の川を渡りそうになった。


 光が落ち着いたのでおそるおそる目を開けてみると、なんということでしょう。

 先程まで禍々しい赤色の殺風景だった洞窟に、淡く美しい発光体が現れているではありませんか。


 ついに来たか!

 俺が待ち望んでいた新たな展開、冒険の日々への幕開けが!!


 俺の眼前に現れたその淡い発光体(視覚的にはルビーのような赤色)の正体は、まさかの──、


 ……………



 …………



 ……



 ──毛玉であった。 


(なんでやねん)

 

 降って湧いたはじめてのお友達、神々しい光りを放つ発光体のポプラを見て、俺は思わずツッコミを入れた──。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ