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一週間の死神  作者: スポンジ
二章 金曜日
9/27

朝と母と来訪者

 昨日の朝の反省から、携帯電話と暖房は予約通りに行動してくれたようで、時間通りに心地よい朝の目覚めを僕に提供してくれた。死神の件がなければ快適な朝だ。

 身を起こすと、すぐに顔を洗い、朝食作りに取り掛かる。


 パンとハムエッグに野菜のサラダは、意外と早朝には弱い母がなんとか食べられる食事量だ。

 母を起こしに行こうとすると、がちゃりと母の部屋の扉が音を立てる。


「おはよー」

 自室の入り口から出てきて、僕に目を向ける母。ピタリと動きを止めて、何故か僕を凝視している。


「おはよう、母さん」


 挨拶を返すと、満足げに「おう!」と応えて食事の用意された席に着く。パジャマ姿で朝食を楽しみにしている表情は、年甲斐がない。


「お母さん、ご飯の前に顔を洗ってきなさい」

「へーへーわかりましたよ、母ちゃん」


 だから母親はあなただって。


「今日は何時に帰んの?」


 朝食をぺろりと平らげた母が僕に尋ねる。放課後の部活動はせずに図書室に向かう予定だったから、午後七時過ぎだろうか。


「多分七時過ぎになると思う。少し調べたいこともあって」

「そうかい」


 そう言ってテレビをつける。暗かった画面が明るくなり、朝のニュースが流れだす。今日の天気も晴れだが、やはり冷え込むようだ。


 身支度の終えた母に玄関で鞄を渡す。アイロンをかけたシャツとスーツジャケットの上からコートを羽織る母の姿は「仕事のできる人」という雰囲気がにじみ出ている。


「ありがとう」

「いってらっしゃい」


 家を出ていく母の後ろ姿を僕はずっと支えたい。こんな思いに死神をきっかけに気付くなんて、少し皮肉な感じがした。


 ピンポーン


 母を見送って数分後、そろそろ学校へ行こうと考えていたら、家のインターフォンが鳴った。宅配便だろうか? まだ早朝といって差し支えない時間帯なのに。

インターフォンの確認画面で、誰が来たのか見ると、そこには愛すべき後輩が寒さに身を震わせながら立っていた。


「なぜ僕の家の場所を知ってるの?」


 マグカップにミルクを温めて、震える後輩に渡すと、彼女は両手で受け取って、ちびりちびりと飲み始めた。

 僕の中にあったのは困惑だ。部活動後は帰宅時間が重なれば冬野さんと一緒に帰ってはいたが、彼女の家の方が学校から近い。当然の流れとして彼女を送って、僕は帰宅するという形になっている。家の場所を知っているはずがない。


「先輩のお母さんから聞いていました!」


 震えは落ちついたようで、にっこりと笑う冬野さん。いつも通りの眩しい笑顔だ。


「なんで紹介した覚えもないのに、お互いに知り合っているのさ!」

 驚きを通り越して恐怖を感じる。


「町というのは案外狭いものですねー」

 目を逸らしながら、間延びした返事をしてくる。怪しいけど僕の疑問にちゃんと答える気はなさそうだ。


「じゃあ、なんでこんな時間にわざわざ来たの?」

 次に気になる質問をする。家の場所のことは置いておいて、来訪した目的は聞いておきたい。


「朝から可愛い後輩を見られて、先輩は喜ぶかなーって思いまして!」

 片手をハートの半分の形にして、自身の頬に当てる冬野さんを見られるのは、確かに役得かもしれないが、納得はいかない。


「すみません、嫌でしたか?」

悲しそうに目を伏せる。そんな表情をされると嫌とは言えない。


「いやまあ、うん、別に嫌ではないけど」

「そうですよね! 嬉しいですよね! 私に感謝ですよね!」


 調子の乗り方が鯉の滝登りのようだ。

 だが、都合はいい。仕事の母を見張ることはできないが、冬野さんを見張ることはできる。あの死神が接触しないようにすることができるかもしれない。


 すぐに僕自身の準備を終えて冬野さんと家を出る。わがままを言わずにとことこと僕に付いてくる彼女は、まるで生まれたてのひよこだ。


「今日の授業は体育があるんですよ~。楽しみです!」と今日の学校生活についてにこやかに

語る。両手を胸の前でこぶし大にして気合を入れているようだ。


 彼女の話に相槌は打っていたが、内容は頭に入っていなかった。現在の僕には、それ以上の気がかりがあるからだ。

――もし、昨日と同じように正門に死神がいたらどうするか。

 間違いなく逃げる選択肢を選ぶだろう。今も周りを確認しながら、死神の有無を確認している。あの恐怖は多少距離があろうとも関係なく感じることができるはずだ。


 もしアレを見つけたら、また冬野さんを連れて逃げよう。


 握った手の感触を思い出す。あの温もりを失わせてはならない。

 自分の右手に注目していると、冬野さんが静かになっていることに気付いた。彼女に視線を向けると、僕を観察するように見ている。

 僕の視線に反応して、柔和な笑みを浮かべながら彼女はこう言った。


「手でもつなぎたいんですか?」

「その慈愛に満ちた顔はやめて」


 魅力的な提案だったが、後で逃げるために嫌でもつなぐ可能性があるので断った。


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