走り続ける意地
『継続は力なり』といいます。小さなことでも何かをやりつづけることは、思わぬ成果をもたらすこともあります。
しかし現実的には、物事を長くやりつづけるのは大変なようで……
森の中でクコの木が赤い実をつけていた。
小さなタヌキくんと、頭に王冠のようなものを乗せた白いおサルさんがいる。
二人の間にあるお皿には、お団子が乗っている。
皿の横には湯気のあがる湯呑も置かれていた。
「んとね。白猿さん。ある公園で黒い蒸気機関車が置かれてて、運転席にも入ることができるの。あれって動かせるのかな」
「公園で雨ざらしになっているやつはもう動かねえだろうなぁ。ペンキで部品も固められてるし。でも、屋内で保存されてて、定期的に分解整備されているものなら動かせる可能性もあるぜ」
「そうなんだ。動くものも見てみたいの」
「今でもいくつかの観光列車でSLを運行しているところもあるぜ。大型のD51とかD52より、小型のC11とかが多いみたいだ。整備や維持にかなりの経費が掛かるから、採算は厳しそうだけどね」
「古い機械だから動くだけでもすごいの」
「イベントで1回動かすだけでも、かなりのお金がかかるんだ。列車として定期的にお客さんを載せる場合は、部品の点検や交換も必要だ。運転するには蒸気機関車の運転技術以外にボイラー技士っていう資格も必要だ。ある町で観光用で蒸気機関車で走らせたけど、維持できなくなってやめたところもあるしね」
「今の技術でもっと簡単に安く動かせないのかな」
「SLはボイラーでお湯を沸かして、蒸気の圧力で動かしている。蒸気の代わりに圧縮空気を使うという手はあるぜ。その場合は本来の蒸気機関車とは違うものになるけどね」
「圧縮空気?」
「電車やバスの扉が開くとき、『プシュー』って音がすればたいてい圧縮空気をつかっているぜ。電気やディーゼルエンジンを使って、空気を送り込んでSLを動かすんだ」
「へえ。空気ってすごいんだ」
「SLを石炭と蒸気で動かそうとすると整備に何億円もかかるのに対して、圧縮空気だと何百万円かですむ。他に黒煙による被害がでないとか、運転にボイラー技士の資格がいらないとか利点があるんだ。ポッポーっていう汽笛を吹かせることもできるぜ」
「んとね。いいことづくめに聞こえるけど、あまり聞かない方法なの。欠点もあるのかな」
「今の法律だと、圧縮空気のSLは営業用の線路を走らせられない。イベント会場とか鉄道公園の敷地での運行になるな。また、この方式だと本来は煙突から煙がでない。演出用でドライアイスとか霧吹きで白い煙を出すことはあるみたいだけどね」
「んとね。SLって、走り出すときに下からも煙がでるよね」
「あれは煙じゃなくて湯気だな。車体にたまったドレン水を発車時に排出してるんだ。見学者へのパフォーマンスのために、そんなに溜まってなくても出すこともあるな。圧縮空気のSLだとその湯気も出せないと思うぜ」
「んとね。それでもSLが走るのを見られるのはいいことだと思うの」
「他にも、外観だけSLに見せかけた汽車ってのもあるな。軽油を使ったディーゼル機関車で、観光用にSLの形をしたものもある。これだとお客も乗せられて、定期運航もできる」
「面白そうだけど、それはほんもののSLじゃないんだね」
「まぁ、技術とか法律が変わって、昔ながらのSLを現実的な維持費で走り続けるようになるといいな」