謙介35
あれから真維からの連絡はない。
コロナ禍のために東京に行くことは出来ない。また、もし行けても彼女がどこにいるのかを自分で探すことは不可能に思われた。
それで、5月になると、謙介は東京の興信所に真維の現状を調べてくれるように依頼した。
彼女について知っているのは、紺野真維という名前とアルバイトをしていた弁当屋の名前だけだ。しかし、興信所が言うには、時間はかかるかもしれないが、それで十分調べられるとのことだった。
6月末になり、帰宅すると、興信所から封筒が届いていた。
慌てて手に取り、急いで封を切る。
「死亡」という二文字が目に飛び込んできた。
頭から血の気がなくなり、目の前が真っ暗になった。彼は倒れこむようにソファに沈み込んだ。
予感はしていた。しかし、心のどこかではきっと大丈夫だろう、ただ何らかの事情で連絡して来ないか出来ないのだろうという思いもあった。
しかし、もう望みは消えた。
全身から力が抜け、動くことが出来なかった。
ソロデビューという夢を叶え、幸せの絶頂であったところから、そのわずか数週間後に奈落の底に落とされて、真維の無念さはいかほどであったのか。それを思うと、胸が張り裂けそうになった。
そして、自分は愛する人を亡くしてしまった。生きる喜びと生きる活力を与えてくれる人を失ってしまった。
そのように思えた人は自分の人生で家内と真維だけだった。そんな大切な人をまたも運命に奪われてしまった。