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愛人は息子の推し  作者: 御通由人
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ヒロト35

  麻衣が卒業してからもヒロトは毎週テンカラのライブに通っていたが、以前ほど感情が高揚することはなかった。

 オークションに参加することもなければ、グッズを買うこともなく、ライブに行かなければ1日中暇なのとオフ会でバイヤー仲間達と駄弁るのだけを楽しみで通っていた。

 

 当然あるべきだと思っていたものがある日突然無くなる。この喪失感は母親が亡くなった時もあったが、母の場合は半年以上入院していたし、覚悟も出来ていた。

 しかし、今回は突然過ぎた。心の準備も出来ていないまま大切なものがなくなってしまった。喪失感は半端なく、心にぽっかりと穴が空くという言葉があるが、その表現を実感させられた。


 ガロや虎次郎や龍一、麻衣推しのバイヤーはみんな来なくなってしまった。

 改めて多田さんはすごいと思う。

 推しがいなくなっても別の推しを見つけて、もう10年以上バイヤーを続けている。

 多田さんは東京テンカラットが大好きなのだろう。ああいう人が本物のアイドルオタクというのだと思う。

 世間からしたら、アイドルの推しなどくだらないことかもしれないが、一つのことをとことん突き詰め極めるのは、何事であっても容易なことではなく、価値のあることのように思われた。

 

 3月に入った日曜日、タクとミツルさんは仕事の都合で、リキは専門学校の再試のため、マモルは体調を崩していて、オフ会のメンバーはヒロトと多田さんだけであった。

 

 その時、多田さんはすごいと思うと言ったら、

「そんな立派なものではないよ。たぶんバイヤーをやめられないのは、繋がっているみんなと離れて、一人ぼっちになるのが怖いからだよ。以前、ドルオタ道だと偉そうに言ったけど、あれは詭弁だよ。自分に自信がないので、こうして群れていたくて、しがみついているだけだよ」

「でも、それを徹底して10年以上もしているのはすごいと思いますよ。僕なんかには到底真似出来ないことですよ」

「いや、君は真似なんかしなくていい。俺みたいな下層民でなく、君はリア充になれるし、なってほしい。君にはそれだけの能力かある」

 いつもの軽い感じではなく、真顔になり低いトーンで彼は語った。


 

 4月7日、緊急事態宣言が発令され、テンカラのイベントはすべてなくなり、大学も休講となった。

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