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愛人は息子の推し  作者: 御通由人
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謙介34

 彼女から連絡がなかったので、数日後、謙介はメールを送ってみた。

 しかし、真維からの返信はなかった。それどころか既読もついていない。

 再びメールしようとも思ったが、もし彼女が寝ていたり治療したりしている時にメールが届いて、親に見られたらまずいだろう。その思いから憚られた。

 

 1週間、2週間、3週間経っても、既読は付かなかった。

 乳癌の入院期間は一体何日くらいだろうかと心配になり、ネットで調べてみた。すると、大きな手術でも14日程度とあった。

 遅い。いくら何でも3週間経っても既読もつかないのは遅すぎる。

 もしかして。

 謙介は最悪の事態を想像して、心配と不安と怖れに押しつぶされそうになりながら、暗鬱な気分で日々を過ごした。


 3月に入った時、やっと真維からメールが来た。一時退院したとのことであった。治療に専念するために、スマホは病院に置かずに実家に持って帰って貰っていたとのことだった。

 喜びより安堵の思いの方が大きかった。大きく息をつき、謙介はすぐに返信した。

「よかったあー。既読もつかないから。万一のことがあったのかと心配しました」

「ごめんなさい。スマホを見る余裕がなかったのです。抗がん剤治療は辛かったです。髪の毛は抜けるし、痩せるし。体調が良い時にかろうじて歌を聞くことだけできました」

「そうなんだ。大変でしたね。一時退院ということはまた入院するのですか?」

「そうなのですよ。明後日からまた。でも、もうだいぶ回復したので、今度は短いと思います」

「3月中は年度末で忙しいけど、4月の初めには東京に行けるから、その時は会えるかな?」

「ええ、たぶん。会えるように治療頑張りますね」

「うん、頑張って。快気祝いに美味しいものでも食べましょう」

「わかりました。楽しみにしています」

「あと、マイウェイという昔の歌があるのだけど。布施明が歌っているバージョンの歌が励ましてくれると思うから、体調の良い時には聞いてみてください」

「そうなのですね。わかりました。探して聞いてみます」


……しかし、それからまた連絡が途絶えた。

 

 3月末、新型コロナウィルス感染症のパンデミックが始まった。


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