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愛人は息子の推し  作者: 御通由人
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ヒロト32 謙介29

 秋の大感謝祭が始まった。

 ライブで始まり、トーク、お決まりの寸劇、それからオークションと続く。

 麻衣の出品は、バイヤーからのリクエストのものは昨年同様水着で、彼女自らのものは歌を録音したCDであった。

 ヒロトはオークションには参加しなかった。昨年競り落とした夕焼けの絵だけで十分満足していたのもあるが、バイトで稼いで余ったお金はCDを買うのに充てた。

 順位は10月末までの各メンバーのバージョンのCDの売り上げ金額で決まる。

 1位になり、ソロデビューするのが麻衣の夢であることを分かっていたので、わずかな助けにしかならないかもしれないが、なんとかそれを実現させてあげたかった。


 オークションが終わり、メインイベントの順位の発表が始まった。

 予想された通り7位と6位は今年メンバーになった2人であった。 

 5位は梨乃と彩の争いだと思われたが、彩であった。

 そして、4位が唯と発表された時はどよめきが起こった。

 1、2、3の順位は変わっても、茉由、麻衣、唯の神3は固いと思われていた。その牙城を梨乃が破るとは予想外のことだった。梨乃の積極的な違反紛いの勧誘が思いの外効果があったのだろう。

 梨乃は3位であった。上位2人の壁は崩せなかったが、梨乃は名前を呼ばれると満面の笑みでマイクの前に進み出て、心底嬉しそうに感謝の言葉を述べた。浮かぬ顔でスピーチした唯とは対照的な姿であった。

 いよいよ2位の発表である。名前が呼ばれなかった方が1位ということになる。

 ヒロトは顔の前で両手を組み合わせ、祈る思いで、発表を待った。



 謙介は昼過ぎからずっと落ち着かなかった。

朝、真維から「いよいよです。頑張って来ます」というメールが来て、「うん、幸運を祈っています」と返信をしてから、彼女からの連絡は途絶えた。こんな大変な時にこちらからメールするわけにはいかない。

 もう感謝祭が始まっている。

 どこまで進行しているだろうかと思うと、いてもたってもいられない。

バイヤーで逐一ツイートしてくれる人がいたので、その人のツイッターを数分ごとに見た。

 これから順位発表だと知り、(頼む、1位になってくれ)と祈るような気持ちで、頻繁にスマホを見るのだが、その人のツイートは更新されないままであった。 

 彼女のはもちろん、運営や他のメンバーやバイヤーのブログ、ツイッターを次から次へと見てゆくが、いずれも更新がなく、どうなっているのか全く分からない。

 謙介は檻の中の猛獣のように、スマホを握り締めたまま部屋の中をうろうろと歩き回った。



「では、2位の発表をします。名前を呼ばれなかった人が今年の1位ということになります」

支配人はそう言うと、口を閉ざし、勿体つけたように会場を見回した。

 会場内は静まり返り、緊張が走る。みんな固唾を飲んで、次の言葉を待っている。

「第2位は……ピンクトルマリン茉由!」

麻衣の1位が決まった。ヒロトは思わず立ち上がり、両手を突き上げた。

 

 麻衣は顔を両手で覆ったまま立ち尽くしていた。茉由が近づき、声をかける。

 麻衣は手を外し、泣きながら、何かを言って、茉由と抱き合った。唯も近づき、麻衣を抱き締める。それからメンバーが次々に彼女を抱き締めた。

 リキ、多田さん、マモル、上野さん、ミツルさんがヒロトのところに来て、「おめでとう」と声をかけた。

 タクは「悔しいけど、今年はまい姐の年だったよね。おめでとう」と言い、手を差し出した。ヒロトは手を固く握った。

 しばらくして、支配人に促されて茉由が2位のスピーチのために前に歩み出た。



 午後9時を回って、ようやく真維のツイッターに1位の報告が投稿された。

 謙介は思わず拳を握り、「よっしゃー!」と声を上げた。

 彼女の夢がついに叶った、真維はどれほど喜んでいることか、そう思うと、胸が熱くなった。

「おめでとうございます。感無量なことだと思います」

早速メールを送った。

しばらくして返信があった。

「ありがとうございます。前にも言ったことあると思うけれど、リハーサルの立ち位置で1位だということは実は分かっていました」

意外と冷静な文面であった。

 なんだ。そういうものなのか。大翔を始め、彼女の推し連中がすごく興奮していると思うと、何だか彼らを不憫にも滑稽にも思われる。それと同時に、そういう内幕を知れる立場に自分はいるのだと思うと優越感も覚えた。

 が、続いて来た彼女のメールは喜びに溢れていた。

「でも、名前が呼ばれた時には本当だったんだとほっとしたし、夢が叶ったと思うとすごく嬉しかったです。親会社の宝石会社の女性社員が一位の人にはティアラをつけてくれるのですが、笑ってつけて貰おうと思っていましたが、思わず号泣してしまいました」

  読みながら、謙介は「うん、うん」と何度もうなづいた。

 今まで彼女を応援してきたことも10万を送ったことも惜しくはなかったと心底思った。

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