謙介27
新曲が発売され、約束通り10万円を送金した。
ツイッターやブログで、キャンペーンのために路上ライブやレコード店回りをしているのを読み、そういえば初めて真維と会った時、レコード店に販促に行っていたと言っていたことを思い出した。
早いものであれからもう1年になるのか。
彼女と知り合うまでは眠ったような毎日であった。
会社に行き、帰りにスーパーで惣菜を買って、テレビを見ながらビールを飲んで晩飯を食べる。それも味わって食べるというのではなく、腹を満たすためにただ食べるという味気ないものだ。
毎日がその繰り返しであった。特にしたいことも行きたいところもなく、心が湧き立つことは一切なかった。
それが彼女と出会ったことで一変した。
特に、彼女がテンカラットに属していることを知ってからは、彼女やメンバーや運営やファンのツイッターやブログを読むことが日課となった。
にやけたり、感心したり、驚いたり、時には毎週彼女と会えるバイヤーを羨ましく思い嫉妬したり、逆に優越感を感じたりした。そういう様々な感情が心を満たし、生きているという実感があった。
もう彼女なしの生活は考えられなかった。
7月にはサマーフェスティバルがあるので、また水着を買おうかと連絡すると、
「この前、10万も出して貰ったので悪いです。手術跡もだいぶ薄くなって、ファンデーションで隠せるので、今年は持っている水着を着るので大丈夫です」と返信があった。
男から金を毟り取れるだけ取る、男を財布としか見ていない女の話をネットの記事でよく読む。しかし、真維はこういう遠慮するところがあり、それが謙介には嬉しくもあり、好ましく可愛らしく思えた。