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愛人は息子の推し  作者: 御通由人
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ヒロト27

 三月半ばに、みな子の卒業ライブがあった。

 その後、みな子推しのバイヤーのうちの半数以上はライブに顔を出さなくなった。

 多田さんは相変わらず来ていたが、推しがいないのはつまらないとのことだった。新しい推しを誰にしようか思案中だったが、みんな自分の推しのところに来るのを反対したので、仕方なく箱推し状態のままであった。


 四月になり、タクはスーツにネクタイ姿でライブにやって来た。

 いつものひ弱な感じとは違って、凛々しく見えた。 

 皆が「馬子にも衣装だな」と揶揄ったが、スーツとネクタイは男ぶりを最高に上げるものだなとヒロトも思った。

 タクは「茉由ちゃんに見てもらいたいから着て来た」と言ったが、ヒロトは自分も彼と同じように早く卒業し就職して、麻衣にスーツ姿を見せたいと思った。

 タクの存在はヒロトにとって憧れであり、勇気と希望を与えてくれるものだった。

  

 前野という50過ぎの男がコンビニで働き出した。

 コンビニの業務は夜中はオーナー一人だったが、それ以外は二人1組である。ヒロトは朝から晩まで前野さんと二人の時が多かった。

 彼は独身であり、お金もあまりなさそうであった。もっともそうでなければこんなコンビニで働く訳がないのだが。

 以前のヒロトなら軽視していただろう。しかし、テンカラのライブに来る人には前野さんのような人が何人もいる。そういう人を見て、そういう人がライブや握手会を楽しんでいる姿を見て、何ら自分と変わらないと思うようになった。

 下働きをする人がいなければ社会は回らない。そういう人達がいるから、お前達はグルメを楽しみ、ブランドの服を着、高級車に乗り、豪華な家に住み、快適な生活が出来るのだと、高校の同級生のエリート達に言ってやりたかった。

 

 ある夜、前野さんと二人で賞味期限切れの弁当を棚から下げていた時、オーナーがやって来た。その日は期限切れの弁当が特に多かった。

 オーナーはそれを見て、「そんなに残ったのか。発注の量を考えなければいけないな」と嫌な顔をし、その後、「好きなのを何でも勝手に持っていったらいい。どうせ捨てるだけだし、廃棄代もかかるから」と言った。

 ヒロトと前野さんは顔を見合わせた。こんな気前の良いことを言うとは夢にも思わなかった。

 たぶんいつもはオーナーが持って帰っていたのだろうが、彼も独身なのでそんなに食べられはしない。

 それでそんなことを言ったのだろうが、賞味期限が切れても冷蔵庫に入れていれば、二日は充分食べられる。三つ持って帰れば、今晩だけでなく、明日の飯にもなる。

 直営店では本部が必ず回収しに来ていたのでこんなことはなかった。これはフランチャイズ店の役得だなと二人は喜んだ。


 それから三日経った日も賞味期限切れの弁当が多く残った。

「今日も多いなあ。高いのはオーナーに残して、安いのは二人で一個ずつ持って帰るとするか」と前野さんが言い、ヒロトも同意した。


 


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