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愛人は息子の推し  作者: 御通由人
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ヒロト26

 タクもテンカラにはまって留年していたので、ヒロトの気持ちをよく理解してくれた。

 彼は不動産会社に内定していて、この春大学を卒業し就職する予定である。

 それで、家電量販店のバイトを先日辞めていて、その店が後釜を探していたので、ヒロトに紹介しようかと言ってくれた。

 タクは人当たりがいいし、気が利くし、説明も上手い。 

 自分は陰気だし、人見知りだし、接客業は自信がないので、ありがたい話だったが、断った。

 ヒロトはコンビニの仕事に近いだろうと考え、隣町の大手スーパーのバイト募集に申し込んだ。すぐに採用され、青果部門で働くことになった。

 しかし、コンビニとは違い、仕事は品出しだけだった。バックヤードから野菜を台車に乗せて運んでは陳列棚に補充する仕事だった。

 キャベツなどは何個も棚に積んでいると、岩のように重く感じられてきて、腕や腰が痛んだ。

 ヒロトはもともと運動が得意な方ではない。家でゲームばかりしていて、体力もない。

 青果部門の主任は「お金を貰って筋トレが出来ると思うと、ありがたい話だ」とうそぶいていたが、朝から夕方まで働き、夜中にコンビニで働くのは肉体的にかなり辛かった。


 コンビニは一月中旬に副店長が変わっていた。

 直営店なので、社員はよく変わる。ヒロトが勤め始めてからでも、もう三人目である。店長が長いのが珍しいくらいだそうだ。

 新しい副店長はこれまでの純朴な感じの二人とは違って、嫌味な感じの人であった。

 普段は権勢をかさに来て威張っているが、ドヤされると、ひーっと悲鳴を上げて逃げる時代劇に出てくる公家のような顔と話し方をしていた。

「30歳になったら半年間失業保険を貰えるので、もう少し働いて30になったら、仕事を辞める」と言っていた。

 失業保険のことなどよく知らないので、本当かどうか分からないが、こういう小狡いことを公言する大人とは初めて出会った。嫌な奴だと思った。

 しかし、もうすぐ辞めるのなら、少しの間の我慢だと思っていたが、びっくりしたことに三月からその人が店のオーナーになった。

 どういう仕組みでそうなったのか、彼がどれだけお金をコンビニ会社に払ったのか、ヒロトには伺い知れぬことであったが、つまりは直営店から彼がオーナーのフランチャイズ店になったとのことだった。

「今後は私のことをオーナーと呼んでくれ」と言われた。

 突然の話だったので、世話になった店長に挨拶することさえ出来なかった。

 そして、一週間も経った時、店にバイト募集の貼り紙が貼ってあった。

 オーナーに聞くと、昼のパートのおばちゃんをクビにしたとのことだった。以前から棚卸しで在庫と売り上げが合わないことがしばしばあったが、あれはおばちゃんが内部万引きしていたからで、それが分かったから解雇したと言った。

 まさかと思った。あの人の良さそうなおばちゃんがそんな犯罪をするなんて。人は見かけによらないのだろうか?オーナーの思い過ごしではないのだろうか?

 また、ヒロトの前の夕方から10時まで勤務していた大学生も辞めたそうだ。それで、新しいバイトを募集しているとのことだった。

 

 ヒロトもこんな奴の下で働きたくはない。しかし、スーパーの仕事よりも身体的にも金銭的にもこちらの仕事の方がずっと良かった。

 それで、朝から夜まで働かせてくれないかと言うと、オーナーも強がっていたものの内心は困っていたのだろう。即座に承諾された。

 それで、スーパーは辞め、ライブがある日曜は休みにし、大学に行かなければならない水曜だけは夕方から、他の日は朝から夜まで、そのコンビニで働くことになった。

 

 

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