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愛人は息子の推し  作者: 御通由人
19/75

ヒロト11

「今日も来てくれたのですね。ありがとうございます」

ライブ後の握手会の時、麻衣は満面の笑みで言った。

「ヒロトさんでしたよね?確か明政大の」

「よく覚えているね」

「もちろんですよ。私、記憶力はいいんです」

ヒロトは彼女が自分のことを覚えていてくれたことが嬉しかった。もしかしたら、全く覚えていないのではないかと心配していたので。

「今日もループしてくれますか?」

握手会の列に並んで女の子と話をし、券を買ってまた同じ女の子の列に並ぶことを、こういう業界ではループと言うらしい。

「いや、今日は麻衣さんとはこれ一度だけで、これからメンバーみんなに順に挨拶して来ようと思っています」

「そうなんですね」

一瞬、彼女の表情が曇った。しかし、すぐにまた満面の笑みを浮かべて、

「みんなも喜びます」と言った。

 

 こうしてライブを見て、タクやリキや多田さん達と交流するのは、今まで経験したことのない何か居心地の良いものがあった。

 それで、自分もバイヤーの一員になりたいと思った。しかし、麻衣を巡る争いに加わるのはまっぴらごめんだ。

 特定の推しはいなく、グループ全体を応援する、いわゆる箱推しというのになろうかと思った。

 それで、今日はメンバー全員と話をしようという気になった。


 一番右に麻衣がいて、左隣がタクの推しの茉由だったので、まずそこに行った。

 小柄で華奢で、すこしタレ目の可愛らしい子だった。なるほどアイドル好きの人にはこういうタイプが人気があるのかと納得出来た。

 次にその隣りのリキ推しのルビたんに行った。他のメンバーは名前で呼ばれていたが、なぜか彼女だけは担当のルビーからついたと思われるルビたんと愛称で呼ばれていた。

 その疑問が彼女の前に立った時に口についた。

「アハッ、初めて会ってそんなこと聞く?他のバイヤーさんに聞いてよ」

「すみません。では、高校生というのは本当ですか?」

ルビたんは金髪にばっちりメイクで、ヒロトの田舎の市では、そんな格好で通える高校はない。東京にはあるのだろうか?そんな疑問からの質問だった。

「アハッ、この人ヤバ!もしかして天然?マジで聞いてるの?キャラだと思った?マジJKだよ。学生証を見せようか?」

それから、隣に立っている鑑定士の方を向いて、

「私のバッグ取って来てよ」と言った。

「いや、いいです。信じます。そこまでしなくていいです。ありがとう」

 ヒロトは慌てて数回頭を下げて離れた。彼女を怒らせてしまっただろうか?

 自分は人と話すのが苦手である。特にルビたんのようなタイプの若い女の子は大の苦手である。だから、余計に変なことを聞いてしまう。これだから自分は駄目なのだと思った。

 

 次に多田さん推しのパール担当みな子に行き、メガネが売りのアメジスト担当の彩、イエローダイアモンド担当の長い黒髪の女子高生の梨乃を周った。今度は失礼のないように挨拶程度しかしなかった。

 最後にエメラルド担当の唯のところに行った。

 彼女は先日の見送りの際、麻衣の横にいて、「自分のところにも来て」と言って、仲良さそうにじゃれあっていた子である。

「来てくれてありがとうございます。試着会の参考に教えてあげるけど、麻衣さん、一見澄ました感じだけど、意外と屋台なんか好きなんですよ。喋りも上手いし、楽しい時間を過ごせますよ。オークションに入札してみたらいいのに」

「いや、実は今日、入札したのだけど、ジャンケンで負けてしまって」

「えー、そうなの。なんで……」

唯は口籠もって、向こう側にいる麻衣の方を見た。

麻衣もそれに気がついたのか、こちらを向いた。


 後のオフ会で聞いたところ、昨年の人気順位は1位がダントツで茉由、2位が唯、3位に麻衣、4位ルビたん、5位みな子だったそうだ。

 彩と梨乃は今年の4月にメンバーになったばかりだそうだ。

 メンバーがずいぶん辞めて、5人になったので、運営が焦って、2人増やしたとのことだった。

 だから、その2人は他の5人に比べると、容姿は劣るし、華もないし、歌もダンスも上手くはない。彩は専門学校生で若いのとメガネ、梨乃は高校生で若いのと長い黒髪が売りとのことだった。

 ルビたんは名前は良子といい、キャラと真逆なので、本人は名前で呼ばれるのを嫌がり、バイヤーの方も合っていないと思い、いつの間にかルビー担当だったので、ルビたんと呼ばれることになったそうだ。本物の現役女子高生であった。

 他のメンバーは社会人で、茉由は20歳、唯は24歳、みな子は26歳、そして麻衣は27歳である。

 テンカラットにリーダーはいないが、主にみな子が仕切っていた。

 麻衣より歳下だが、麻衣がメンバー歴3年であるのに対して、みな子は6年であるし、純朴で真面目なところが支配人に評価されているのだろうと、推しの多田さんは言っていた。

 


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