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愛人は息子の推し  作者: 御通由人
14/75

謙介6

 ホテルの最上階のバーに入ると、窓際のカウンター席に通された。

「わー、素敵ですねえ」

 窓外に夜景が見え、デートには格好の場所だった。謙介もこんなに雰囲気の良い場所だとは思わなかった。これなら上手く口説けるかな?そう思うと、緊張で口が乾いてきた。

 

 カクテルを頼み、乾杯する。

「本名は森田ではなく、小林なんです」

  謙介は実名を名乗った。クラブからはクラブネームを使って、擬似恋愛をするのが大人の遊び方だと言われていたが、彼はそういう架空のものではなく、実態のある付き合いをしたかった。

「で、君はなんて呼んだらいいのかな?」

「まいと呼んでください」

「じゃあ、まいさん。名字は?」

「それは今日でなく、次回また会った時に」

 謙介は鼻白んだ。今日はお話だけで、それ以上の付き合いは次回ということなのだろうか?

「芸能関係と書いていたけど、女優さんなのですか?」

「いえ、アイドルやってるんです。アイドルグループのメンバーなのです。あ、それで、今日は新曲のキャンペーンでレコード店に行っていたから、こんなに遅い時間になってしまったのです。すみません。それに前回もオファーくれたのに受けられなくって。毎週日曜はライブがあるので、夜まで無理なのです」

 年齢は確か三十二歳のはずだ。その歳でアイドルをしていることに驚いた。だから、格好も若いのだろうか?

「クラブの写真とは印象が違うね」

「そうですか?どんな格好でしたか?」

 彼はスマホの写真を見せた。

「ああ、思い出しました。このドレスはクラブのものなんです。普段はいつもこんなラフな格好をしているのだけど、クラブの人がそれは良くないと言って、写真撮影の時に着替えさせられたんです」

彼女は悪びれもせず、あっけらかんと言い、その後、遠慮がちに

「あのう、一つ質問してもいいですか?」と続けた。

「ええ、どうぞ」

「小林さんはどうして、交際クラブにエントリーしたのですか?」

「もう5年、いや6年前になるのかな、家内が死んでね」

「病気だったのですか?」

「うん、大腸癌でね」

「再婚するつもりはないのですか?」

「うん、再婚するつもりはない。連れ合いを看取るのはすごく辛いことで、二度とあんな思いはしたくないので」

「愛していたのですね」

「長年連れ添ってきたからね。それなりの歴史があり、様々な思いと気持ちを共有出来る唯一のパートナーだったから」

「それで、交際クラブに入ったのは、疑似恋愛をしたかったからですか?」

「いや、擬似ではなく、本当の恋愛をしたいのだよ。悪い男かな?」

「いえ、決して悪いとは思いません。男の人は溜まるものがあるので、その処理も必要ですしね」

「女は最初の男を選び、男は最後の女を選ぶという言葉があるのだけど、知っていますか?」

「いえ、初めて聞きました。男の人はどうして最後なのですか?」

「若い頃は性欲でムラムラしていて我慢出来ないので、出来る相手なら誰でもいいという面があるのです。しかし、人生の終わりになって、自分のこれまでを振り返るようになると、理想の女性を探したくなるのです。僕もこの歳だし独り身なので、人生の最後は何の遠慮もなく自分の好きに使おうと思い、ラストラヴァーを探すためにクリエイトクラブに入会したのです」

「それで、ラストラヴァーは見つかったのですか?」

「いや、今日が初めてのセッティングなのです」

「え、そうだったのですね。慣れてらっしゃるから、もう何人もの女性と付き合っているものだと思っていました」

 彼女は意外そうな表情になり、それから虚空に視線を向けて、何かを考えるようにしばらく押し黙った。

 

 謙介も一緒に黙っていたが、終電の時間が気になってきたので、口を開いた。

「どこに住んでいるのですか?」

「え?」

  彼女の顔に警戒の色が走った。

「いや、プライベートなことを詮索するつもりはないんです。遅くなってもタクシーで帰れる場所なのかなと思って。それなら、交通費以外にタクシー代は出すので、今日はゆっくり出来るかなと思って」

「そうなのですね。都内です。タクシーで2、3千円だと思います」

「じゃあ、部屋でゆっくり出来るね?」

「はい、大丈夫です」

 彼女はすました顔で答えた。

これは大人の付き合いもオッケーですという意味なのだろうか?

 謙介の胸は高まり、体が火照ってきた。


 

  


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