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愛人は息子の推し  作者: 御通由人
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ヒロト7

 居酒屋の掘り炬燵のように床の空いた座敷席に4人の男が座っていた。

 先程タクミ話しかけた派手な柄のTシャツを来たおでこの広い男もいた。

 タクによると、バイヤー内にはいくつかグループがあり、ここは比較的若い人ばかりである。女性が何人もいるグループもあるが、ここは野郎ばかりである。残念な面もあるが気楽でいいとのことだった。


「こちらはヒロト。まい姐推しです」

 タクが紹介してくれた。 

「やあ、よろしく。俺は多田、こちらはマモルで、あっちはミツルさんと上野さん」

  丸顔のふくよかな顔をした人がマモル、背の高い顔の長い人がミツルさん、いかつくて強面でちょっと怖そうな人が上野さんであった。

 みな、口々に「ちわーす」とか「初めまして」とか「こんにちは」と言った。

「初めまして」

 ヒロトは頭を下げた。

「さっき、まい姐と話している時、ちょうど横にいたので聞こえたんだけど、明政大なんだって?」

 顔の長いミツルという男が言った。

「そうです」と答えると、みんな歓声を上げた。

「おー、すごいな」  

「賢いんだ」

「インテリ」

「セレブだな」

 さすがにセレブには吹き出した。

 「いやいや、とんでもないです。そんな大したことはないですよ」

 これだけ褒められると面映かったが、悪い気はしない。世間では自分の大学は賢いという位置にあるのかな、そう思うと自尊心がくすぐられた。

 多田さんとミツルさんは会社員、上野さんは消防士、マモルは大学生ということだった。

 

「多田さんは古参のバイヤーでね。テンカラのことなら何でも知ってるよ」とタクが言った。

「いやいや、そんなことは、……まあ、あるけどね」

 多田という額の広い男が笑った。

 もうだいぶアルコールが入っているのか顔が赤い。  

「もうバイヤーになってから10年近いかな?テンカラットなのに今はメンバーも7人しかいないけど、昔はきちんと10人いて、研究生、あ、見習いのことね、も数名いて、それぞれに推しのバイヤーがいるので、ライブではいつも客が100人以上来てね。会場もきちんとした立派なコンサートホールだったし。それが、今やすっかり減ってしまって。今日はまだましな方だよ。上野っちも非番で来てくれたしね。少ない時には20人ちょっとの時もあるよ」

「メンバーは辞めていったのですか?新しく入れないのですか?」

 7人なのに、なぜ10カラットなのか不思議に思っていた。

「うん、辞めていった。有名になれると思って始めたけど、いつまで経っても芽が出ないので、見切りをつけて辞めていく子が多い。また、部活の延長みたいなノリでやっている子もいるしね。そういう子は学生の間だけで辞めてしまうし」

「メンバーを補充しないのですか?」

「そりゃあ、運営もメンバーを増やしたいのだけど、なかなか良い子は申し込んでこないんだよ。性格が破綻していたり、すごくルーズだったりしたら駄目だし、容姿もそこそこ必要だし、踊って歌えなければならない。地下アイドルと言っても、結構ハードルは高いんだよ」

 推しのメンバーが辞めると辞めるファンも多いそうだ。

「俺みたいに次々と推しを変えながら、未だに居残っているバイヤーもいるけどね」

 多田さんは自嘲気味に笑った。

「だから、テンカラの支配人も多田さんには一目置いているんですよ」    

「いやいや、そんなことは、……まあ、あるけどね」 

 また言った。

 

 久しぶりに楽しい酒席だった。

 大学のクラスの飲み会に行っても関東の若い人ばかりで居心地が悪いだけだ。

 高校の同窓会は、有名企業の内定を貰ったとか、将来何科の医師になるとかの話ばかりで、つまらないだけでなく、劣等感でストレスが溜まる一方だった。それで、大学1年の正月に一度行ったきりで、それ以来行っていない。

 

 その時、小柄な優男が近づいてきた。

「よっ、お疲れ様」

「どうだった?]

「楽しかった?」

 みんな口々に声をかける。

「いやあ、駅前にオープンしたカフェで、パフェを食べたいとルビたんが言うので、行ったんだけど、フルーツパフェが2,300円だよ。鑑定さんは遠慮してコーヒーにしてくれたのだけど、それでも5,000円以上だよ。で、もう金がないから、今日は奢ってよ」

 そう言って、優男は手を合わせた。

「それ、めっちゃ高くない?」マモルが驚いたように言った。

「そうなんすよ。値段を見て、びっくりすよ」

「仕方ないなあ。それでは、みんなでリキのを持ってやるかあ」

 多田さんがそう言うと、みんな「仕方ない、仕方ない」と笑いながら、同意した。

「こちらは?」タクに聞くと、「リキちゃん」と紹介してくれた。

 彼は専門学生とのことだった。

 

 それから、リキが話し始めたのだが、内容からして、ルビたんというのはルビーの名がついたメンバーのことらしい。金髪でギャルメイクの女の子であった。その子と今までカフェに行っていたらしい。

 ヒロトは驚いた。「メンバーと付き合っているのですか?」

みんな、爆笑した。

「ない、ない」

「あり得ない!」

「コイツがそんなモテる訳ない」

「試着会というのがあるんだよ」

「試着会?」

「そういう名前のデートが出来る交流会のこと。40分10,000円もするけど、メンバー1人にバイヤー1人だけだから、人気メンバーには何人ものバイヤーからオファーがあって、そういう時はライブの前にオークションをするのね。オークションと言ってもバイヤーがジャンケンをするだけだけど、それに勝った人がデートに行けるんだよ」

 そういえば、さっき多田さんに会った時に彼がバツ印を作っていたのを思い出した。

「もしかして、多田さんも今日申し込んでダメだったのですか?」

「そうなんだよ。三人しかいなかったのに、負けてしまった。俺はジャンケンが弱いんだよね」

「そうなんですか。それで、ジャンケンに買ったら、本当にデート出来るのですか?」

「そうだよ。この周辺の場所なら好きなところに行ける。食事してもいいし、公園に行ってもいいし、映画に行ってもいいし、40分だけだけどね。あと、体には触れられないので、手を繋ぐことは出来ないし、見張りで鑑定さんがずっと追いてくるのだけど」

  そんなことも出来るんだと驚いた。

 今までそんなデートに憧れたことがあったが、夢でしかないと思っていた。それが現実に出来るのだと思うと、ヒロトは胸が高鳴った。


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