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四話


「カートライト侯爵家に、ですか……?」


 ああ、と至極当然そうに頷くジェイクにセレスティナは額に手を持っていくと仕方ないか、と呟く。

 元々、カートライト侯爵家はジェイクに婚約を結ばせようとしていたのだ。

 それが、ジェイクが相手が既にいるとでも話したのだろう。そうすれば侯爵家のご両親は必然的に相手を連れてくるように、と言う事は想像にかたくない。


 だが、自分は没落寸前の伯爵家の娘だ。

 ジェイクの両親に会ったとしても、侯爵家の資金を目当てにジェイクを誑かしているとでも思われないだろうか。

 そう考えてセレスティナはジェイクに向かって唇を開いた。


「──お会いしなければいけない、と言うのは分かるんです、分かるのですが……我が伯爵家の状態はカートライト侯爵家もご存知だと思うのです、そこでその家の娘と婚約を結ぶ、等とジェイク様が紹介したらご両親は流石に心配なさるのでは?」

「まぁ……多少心配はするだろうが、セレスティナ嬢は伯爵家のご令嬢だし、現在伯爵家を継ぐ可能性もあるだろう。だからそこまで頭ごなしには反対されない……と思う」

「──もっと自信満々に言い切って頂きたい所ですわね」

「仕方ないだろう……! 俺も完全に大丈夫だ、という自信はない……!」


 自信満々に自信がない、と言う人がいるだろうか。

 セレスティナは、ある意味潔いジェイクのその態度に思わず笑ってしまう。

 ジェイク本人も流石に自分が笑われるような事を言っている自覚があるのか、不服そうにセレスティナから視線を逸らした。


「分かりました、ご両親に反対されてしまっても、何とかジェイク様を好きな婚約者役を精一杯演じきりますね」

「──ああ、宜しく頼むよ」


 ふふ、とセレスティナが笑うとバツが悪そうにジェイクが苦笑した。

 ここまで、ジェイクが必死になってフィオナと一緒になれるよう行動している。

 セレスティナは、どうか二人が無事一緒になれるように、と心の中で祈った。




 話しが済んだ二人は自習室から外へ出ると、ジェイクがセレスティナを送ってくれると言うのでその言葉に甘えてジェイクが乗ってきている馬車に二人で乗り込み、クロスフォード伯爵家まで送って貰う。

 馬車の中ではお互い世間話をして過ごしているとあっという間に時間が経ち、セレスティナは飾らない自分でジェイクと過ごす時間が心地いい事に気付かないふりをした。






「ジェイク様送って下さりありがとうございました」

「ああ、どう致しまして」


 馬車が止まると、セレスティナは自分に手を貸してくれようとしたジェイクを制して馬車から降り立つ。

 ドレスを着ている訳でもないので、手を貸してもらう事は不要だ。

 セレスティナはジェイクに視線を向ける。

 馬車の中からジェイクもセレスティナに視線を向けると唇を開いた。


「明日、昼過ぎに迎えを寄越すから宜しく頼む」

「分かりました、お任せ下さい!」


 とん、と自分の胸を叩いて自信満々に答えるセレスティナにジェイクはふは、と声を出して笑うとまた明日、とセレスティナに声をかけて馬車を走らせる。


 馬車の窓から暫くセレスティナの姿を見ていると、窓からジェイクが見ているのに気付いたのだろう。

 セレスティナが微笑んで小さく手を振っている。

 ジェイクも軽く手を振り返すと、セレスティナの姿が見えなくなるまでじっとセレスティナの姿を見つめ続けた。


 今まで出会った貴族令嬢達と比べると少し変わっているセレスティナに、ジェイクは新鮮さを感じる。



 ジェイクは自分の容姿が優れている事には自覚がある。

 そして、その容姿が貴族令嬢達に好まれ昔から熱烈なアプローチを受けていて、ジェイクはうんざりとしていた。

 誰もジェイクの人柄を見てくれず上辺だけのジェイクを見てわかった気になり、騒がれる。

 だが、セレスティナはそんな自分の容姿に興味がないのだろう。


「まあ、今は自分の伯爵領の事で頭が一杯なんだろうけどな」


 もし、セレスティナの家が困窮していなかったら。

 セレスティナも自分の上辺だけを見て、容姿だけを見て周りの令嬢達のように接してきたのだろうか。

 それを想像して、ジェイクは眉を顰めた。


「それ、は……何だか嫌だな」


 遠慮のない物言いも、自分の顔に見蕩れる事も無いセレスティナがそうなってしまったら。

何故だかとても面白くなくてジェイクは不機嫌な表情のまま窓の外を眺めた。






 翌日。

 ジェイクと約束していた通り、クロスフォード伯爵家に迎えの馬車が来た。

 家族は馬車に刻まれたカートライト侯爵家の紋章にぎょっとしていたが、セレスティナは適当に誤魔化し、馬車に乗り込んだ。


「やあ、おはようセレスティナ嬢」

「ジェイク様!?」


 まさかジェイクが馬車に乗っているとは思わず、セレスティナは素っ頓狂な声を上げると、驚きに目を見開いた。


「本当は、セレスティナ嬢を伯爵家に迎えに行こうかと思ったんだが……」

「来なくて正解です。ジェイク様が現れたら両親は卒倒してしまいますから」


 ふふ、と笑って言うセレスティナに「では行かなくて正解だったな」とジェイクも可笑しくなって笑ってしまうと、侯爵家へ向かう馬車の道中、楽しげに会話をしながら二人で笑い合い、時間を過ごした。


 学園の事や、それぞれ趣味の事等を話していると時間はあっという間に過ぎて行き、侯爵家に到着したのか馬車が止まる。


 ガタン、と音を立てて止まった事に気付いたジェイクが窓の外を眺めて「着いたな」と呟くと、セレスティナは今更になって緊張で体が強ばり始めた。

 考えてみれば、高位貴族の邸に来るのなんて滅多に無いことだ。

 ガチガチに固まってしまったセレスティナに、ジェイクは笑いかける。


「俺は次男だし、そこまで緊張することはない」

「──その言葉信じますわよ?」


 笑って自分に手を差し出してくれているジェイクに、セレスティナはじっとりとした視線を向けると気合いを入れてからジェイクの手を取った。

 自分は、ジェイクの婚約者だ。彼の望む通り、しっかりと婚約者役を全うしなければ、と息巻いて侯爵家へと足を踏み入れた。




 あれだけ息巻いていたのだが、実際はさらっと顔合わせが終わってしまい、何だか肩透かしを食らった気分だ。


「だから言っただろう? 両親は余程不味い相手ではない限り反対はしない」

「……何だか意外です」


 ジェイクが苦笑してセレスティナに話しかけ、セレスティナはぽかん、と呆気に取られたような表情でジェイクに答えた。


「だって……まさか、あんなに肯定的だとは思わなかったんです」

「まあ……俺もそれには驚いた」


 二人して余りにもあっさりと二人の仲を認められて拍子抜けしてしまった事も納得である。



 侯爵家に足を踏み入れ、応接室に案内されてセレスティナはジェイクの両親と顔を合わせた。

 挨拶した後、緊張でガチガチに固まっているセレスティナを見兼ねて、侯爵夫人が微笑みかけてくれて緊張を解すように色々と話しを振ってくれた。

 侯爵家当主であるジェイクの父親も終始笑顔で優しく話をしてくれて、あっさりと二人の仲を認めてくれた。


 婚約の後、結婚に付いて話しが始まった際は動揺してしまったが、ジェイクが上手く言葉を選びまだ恋人気分でいたいから婚約期間を長く持ちたい、とどうにか誤魔化してくれた。

 婚約後の結婚の事まで話をしてしまったら解消前提の婚約者役なのにそれがしにくくなってしまう。

 上手く話しを逸らしてくれたジェイクに、セレスティナは心の中で感謝すると早々に侯爵家を後にさせて貰った。


 「送ってくる」と言ってくれたジェイクと馬車に乗りながら、まずは第一関門を突破出来ましたねと笑い合いながら話して、翌週からの学園での過ごし方について話し合う。


「一先ず、学園には俺と一緒に向かおう。毎朝馬車で迎えに来るから邸門の前で待っててくれ」

「何だかお手数をお掛けしてしまって申し訳ないです……」

「いや、俺との噂でセレスティナ嬢が被害に遭うのは申し訳ない。せめて出来るだけ守らせてくれ」


 ジェイクからしっかりと視線を合わせて強い口調でそう言われ、セレスティナはどきり、と鼓動を弾ませてしまう。

 端正な顔でこんなに近い距離で「守る」なんて言われてときめかない女性がいるだろうか。

 いや、きっと居ないわ。これは普通の感情だ。とセレスティナは自分に言い聞かすと、ジェイクの申し出を有難く受け入れた。


「ありがとうございます……。でも、そうしたらジェイク様はいつレーバリー嬢とお会いに? あまり会う時間が取れないのでは?」

「──一時だけだから、大丈夫だ。平日は無理でも、休みの日に彼女との時間を過ごすよ」


 幸せそうにそう言って笑うジェイクに、セレスティナはちくり、と何故か自分の胸が傷んだような気がして、不思議な感覚に首を傾げた。

 そんなセレスティナの表情にジェイクは「どうした?」と不思議そうに瞳を瞬かせている。

 セレスティナは自分でもよく分からず、なんでもありません。と笑顔で伝えるとジェイクと学園での過ごし方の続きを話した。



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