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魔獣骨肉店  作者: 九澄羊
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増えた居候

―――やれやれ、ようやくさっぱりしたな。

俺は居間の椅子に掛け水を飲み、ルカートも卓上にだらしなく伸びている。

俺達と入れ替わりでセイランは風呂を使いに行った。

そしてミアは、すっかりふてくされて部屋の隅でクッションを抱えたままむくれている。


「師匠のバカッ、朴念仁ッ、ミアというものがありながら、別の女性を家に連れ込み、ルカートさんと一緒にお風呂に入るなんて、ミアだってまだなのに、フケツッ」

「ミアちゃん、君とエリーが一緒に風呂に入る方が世間的にはまずいんだよ?」

「いいんですよッ、だってミア、師匠の内縁の妻ですからッ」

「エリー、君やっぱり未成年に手を出したのか」

「出してない」


それより、この状況でミアにどう事情を説明したものか。

いずれ夜になれば知れるだろうが、その前に伝えておくべきだろう。


「さっき、あの人、セイランさんからちょっとだけ聞きました」


ミアが抱えたクッションの影から俺を見上げる。


「ルカートさんもウチで暫く一緒に暮らすことになったんですね」

「ああ」

「どうしてですか」


そうは言うが、お前だって居候だろうという言葉は喉の辺りで呑み込んだ。

敢えて話をややこしくする必要はない。


「今から事情を説明してやる、だがその前にミア、約束しろ」

「何です?」

「この事は他言無用、誰にも言うな」

「それってどういう意味です?」


首を傾げるミアの傍へ行く。

正面にしゃがみ込むと、急にソワソワして、クッションを膝に置いて俺を上目遣いに見上げた。


「あの、師匠」

「約束できるか、できないか、それをまず答えろ」

「できますッ、ミア、師匠となら何だってお約束します!」

「よし」


ミアは言いつけを破らない。

今回も店の金を持ち逃げすることもなく、素直に俺の帰りを待っていた。

その点において一応の信用はある。

今の言葉も信じよう。


―――そうして俺は、今回のことに関してかいつまんで説明した。

話せる範囲で、アミーラ村での出来事、魔人との遭遇や、セイランの目的、そしてルカートが受けた呪いのことも。


話の途中からポカンとしていたミアが、最後まで内容を理解したか怪しい。

確認のため「ミア」と呼び掛けると、細い肩が異常なほど激しく跳ねた。


「あッ、あわッ、あわわわわッ」

「どうした?」

「し、師匠ッ、しししししッ、師匠!」

「何だ」


急に慌てだしたと思ったら、クッションを放り出して俺に縋りついてくる。


「よッよく生きてッ、生きて戻られましたねッ、魔人? 本当に魔人に襲われたんですか?」

「ああ」

「そッ、それにセイランさん、たたッ、大変じゃないですか、仇討って、旦那さんがコレクションにって、あわわッ」

「落ち着け」

「ルカートさんも呪い? マジですか? マジなんですね? 師匠がそんな冗談仰るはずないですもんねあわわわわッ」

「ミア」

「あ、頭がパンクしそうですッ、ミアも、危うくミアも未亡人になるところだったなんてッ、あわわッ」


とっくにパンクしているようだな、言動がおかしい。

ため息を吐き、ミアが落ち着くのを待つ。


「それで、どうされるんですか?」

「俺の話は理解したか」

「はッはい、一応」

「なら、これから暫く二人をウチで預かる」

「はい」

「期限はおよそ三か月、だが悠長にはしていられない、情報収集も兼ねて当分は依頼を多く受けるつもりだ」

「その魔人を探すんですね」

「ああ」

「ミアは、その、危ないと思います、あまり賛成したくありません」


ミアはバツが悪そうに俺から目を逸らす。


「師匠にもしものことがあったら嫌です、ミア、妻とかそういうの抜きで、純粋に心配です」

「だがやるしかない」

「分かってます、分かっているから嫌なんです」

「ミア」

「師匠、ミアにもお手伝いさせてください、何か出来ることはありませんか?」


仮とはいえ家主の俺までいなくなれば、ミアはここに身を寄せ続けることは出来ない。

いずれ行政機関がこの店を接収し、追い出されたミアは路頭に迷うことになる。

こいつなりに不安なんだろう。

手を貸してくれるというのなら有り難い、俺一人ではどうにもならない問題だ、協力者は多いに越したことはない。


「それなら、これまで以上に留守を任せることになる」

「はい」

「留守番を頼む、それと、出来る範囲で構わないから情報を集めてくれ」

「魔人の情報ですね?」

「直接的なものでなくてもいい、世間話ついでで構わない、何かしら変わったこと、見聞きしたもの、その程度で十分だ」

「分かりました」


頭にぺたりと伏せたままだった耳をピンと立て、ミアは「お任せください、師匠!」と目を光らせる。


「ミアは必ずお役に立ちます、ご恩をお返しいたします」

「ああ」

「それと、師匠がいない間にまたデブとハゲが来ましたよ」


「なんだと」とルカートが卓から顔を上げる。


「奴らまた来たのか、もう一回説法聞かせてやらないとダメみたいだな」

「ルカートさんの説法にたいした効果なんてないと思いますけどね」

「み、ミアちゃん!」

「それでどうした?」

「ミアしかいないって分かったら下品な言葉を吐いて帰りました、次からは変態とロリコンって呼ぶことにします」


何となく事情は察せられた。

労うつもりでミアの頭を撫でると、ミアは目を閉じてまた喉をゴロゴロ鳴らす。


「ミア、師匠のナデナデ大好きです、頑張りますからね、師匠」

「僕も撫でてあげようか、ミアちゃん」

「いりません、撫でたら引っ掻きます」


ルカートはやる気を無くしたように机に突っ伏す。

相変わらず学習しない奴だ。


「あら、楽しそう」


風呂が済んだセイランが、ヨルの部屋着を着て現れた。

―――俺が貸したものだが、一瞬空目した。

白く長い髪がヨルの白銀の髪によく似ている。


「子ネコちゃん、元気になったみたいね?」

「はい、人妻のセイランさん」

「そうよ、私は人妻、夫に操を立てているの」

「それ聞いて安心しましたよ、なら師匠と間違いは起きませんね」

「ウフフ」


セイランはさっきまで俺が座っていた椅子に腰掛け、俺が使っていたコップで水を飲む。


「それはどうかしら」

「えッ」

「独り寝に体が火照る夜もあるかもしれないわ」

「なッ、にゃんですってぇッ」

「マダム、それならエリーに変わってこの僕がお相手を」

「今の貴方じゃ夜は大きすぎて壊れちゃうわ、無理よ」

「うぐッ、そ、そうだったぁッ!」


やれやれと立ち上がり台所へ向かう。

やたら賑やかになってしまった。俺とヨルで暮らしていた頃にさえなかった喧噪だ。

まあ、悪くはない。だがうるさい。

早く魔人を見つけよう。

それからヨルも、もしかしたら彼女も見つかるかもしれないなんてことを考え始めている。


少し遅い昼食の支度にとりかかる。

具材の処理を始めると、ミアが「師匠、お手伝いします!」と笑顔で駆けてきた。

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