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第80話 生きて勝ちなさい!

 神速の攻防が繰り広げられた。

 クルスが双短剣だというのに、ファルシアは一振りの剣。手数は純粋に二倍。

 だが、ファルシアはその二倍を超えようとする。


「速いねぇ。私の方が一本多いはずなのに」


「ただ一本多いだけです。その分、多く剣を振ればいいだけの話ですよ」


 言葉どおり、彼女はクルスの防御速度以上に剣を振るう。

 ひたすら効率的に、そして残酷にファルシアはクルスを狙う。

 迷いを捨てたファルシアの前に、クルスの半端な防御は意味を為さなかった。

 どんどんクルスの身体に傷がついていく。しかし、彼も負けていない。

 卓越した技術で、彼女の攻撃を捌き、仕切り直すまでに持っていった。


「ファルシア君。君はアーデンケイル教団執行官に課せられた役目をご存知かな?」


「知りませんし、興味ありませんっ」


「そうだろうね。それなら、教えてあげよう。執行官に与えられた役割は一つ」


 クルスはぬるりとファルシアの懐に潜り込み、双短剣を振るった。

 ファルシアの身体に斬撃が無数に走る。だが、致命傷ではない。魔力による肉体の活性化と、無意識の回避によって、致命傷を避けたからだ。


「抹殺だ。アーデンケイル教団に害なす存在全てを抹殺すること。それが執行官に課せられた使命だよ」


「それを知ってどうなるんですか!」


「死んでくれるかな、と。そう思ってね」


「死にません。クラリスさんにちゃんと謝るまで、私は死ねません」


「そうか。それなら、叶うことはないだろうさ」


「叶えます。貴方を倒せばいいだけの話です」


 クルスが一歩踏み出した。

 右の短剣を突き出す。ファルシアは身体を捻り、それを避ける。

 同時に左の短剣を閃かせた。クルスは蓄積された経験値から必中の確信があった。


 ファルシアは避けられない、と即座に判断した。

 しかし、彼女はブチ切れていた。少しでも早く、クルスを沈めたい。

 その考えがあったからこそ、彼女は強硬策に出る。


「これは……!」


「っ!」


 それは“虐殺剣聖”の時にも実行した、素手で刃を受け止めること。

 魔力によって身体能力と自然治癒力を底上げしているからこそ出来る、無茶苦茶な防御。


 短剣をしっかりと掴んだファルシアは、クルスの身体へ剣を振るった。

 致命傷は避けた。しかし、そのどれもが至急の手当をしなければならないポイントだ。


 ダメ押しに、ファルシアはクルスの身体へ剣を突き立てた。奇跡的な精度で、内臓を避けている。これもすぐには命に影響はない。


 甘えをある程度捨てたファルシアの攻撃は、苛烈だった。


「はははは! 秩序と平和を感じるねぇ!」


「決着はつきました。さっさと消えてください」


「出来ないし、君は勘違いしている。決着はまだついていないだろう」


 クルスの全身から闘気が吹き出す。

 この全身の力が抜けるような圧倒的な力の差。これに関して、ファルシアには心当たりがあった。


「この全てを凍らせるような闘気。貴方もまさか……!」


 ファルシアだからこそ、分かった。

 アーデンケイル教団執行官クルスは今の今まで、力を隠していた。


「私の秩序と平和を示してみせよう!」


 とうとう解禁の瞬間が来た。

 クルスは、ファルシアをどんな手を使ってでも倒すべき相手として、認識したのだ。



「『フェイズ・トランス』」



 故に、彼は行使する。

 常人の更に一歩先の領域へ足を踏み入れるッ!


 神域に入った者が放つオーラは、ありとあらゆる存在に影響を及ぼす。

 天気は狂い、雨が降る。ファルシア以外の者は体調を崩す。それほどにクルスの放つ闘気は凄まじかった。


「君はトランスしないのかい?」


「速い……!」


 クルスが背後に回っていた。

 彼は左手を振るう。それだけで強烈な風圧が生まれ、ファルシアのバランスが崩れる。

 続いて右手を振り下ろす。辛うじて防御に成功。しかし、体勢を崩した状態で攻撃を受けてしまった。


「くぅっ!」


 次の瞬間、ファルシアは地面を転がっていた。なんとか後方に飛び退き、威力を可能な限り殺してみせた。

 対処が遅れていたら、剣は折られ、身体は真っ二つになっていたことだろう。


 ファルシアは焦っていた。

 “虐殺剣聖”との戦いの後、『フェイズ・トランス』を使えていなかったのだ。

 同じ領域へ入らなければ、勝ち目はない。


 すぐにクルスが追撃にやってくる。

 防戦一方。彼女は必死に防ぐ。死なないように立ち回るのが精一杯だった。


「ファルシア……」


 神域の攻防を目の前に、クラリスには様々な感情が押し寄せる。

 だが、自分で自分がどんな感情なのかを理解できていなかった。

 喜怒哀楽、その四種類の中に答えはなかった。


 そうしている間に、ファルシアの体はどんどん血に塗れていく。

 防御にも限界がある。切り刻まれていく彼女を見て、クラリスはプツリと何かが切れた。


「ファルシア!」


「は、はい!」


「負けそうなの!?」


「はい! 悔しいですけど、かなり厳しいです!」


 クルスは二人の会話を遮ることはしなかった。

 これから何を起こしてくれるのか、興味をひかれていた。


「なら王女命令――いいや、私の個人的なお願い!」


 クラリスはクルスを指差す。



「勝ちなさい! だけど死んでも勝つな! 生きて勝ちなさい! それが出来なければ、今度こそ近衛騎士クビにしてやるんだから!」


「! あ、あはは……。嬉しい、です。そうしてください。絶対に私はクラリスさんの隣に帰りますから!!」



 ファルシアの身体から力が放出される!

 やや逆立った赤髪、そして蒼いオーラが迸っている。



「『フェイズ・トランス』。私はもうクラリスさんから離れない」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ありがとうクルス、お陰で道は決まったようだ 役目は終わったから速やかに退場願おう
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