表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/83

第77話 お世話に、なりました

「私は……どうしたいんでしょう」


 ファルシアは即答できなかった。

 そのうじうじとした姿に、クラリスは何故か無性に腹が立った。


「あんた、そんなのも分かってないのね」


「む。だ、だったらクラリスさんはどうなんですか?」


「私? 私は……」


 一瞬だけ、クラリスは言葉に詰まった。

 もちろん、クラリルスは立場上、経験豊富ではない。むしろ純情の類にいる。だが、耳年増な年齢であるクラリスは、そういった知識の収集を欠かさない。

 そして、今目の前にいるファルシアに対し、優位に立ちたかった。


「秘密よ秘密。でも、私くらいになれば、引く手あまたなのは想像できるでしょ?」


「む。く、クラリスさんは随分余裕なんですね」


「そ、そりゃあね。あんたの想像を超える経験を、私はしているのよ」


 クラリスの発言に、ファルシアはむっとした。

 流石に王女だから、引く手あまたなのはファルシアも分かっていた。だが、それを彼女の口から、ましてや自信満々に聞いてしまえば面白くない。


「そそそ、そうなんですね。だったら、私のことは大して気になりませんよね!」


「はぁ~?」


 互いにピリピリし始めた。

 断じてこれは、どちらに非があったか、とかいう話ではない。

 きっかけはたしかにファルシアの告白絡みの話だった。

 しかし、互いが互いの言葉に過剰反応し、それに返していった結果――。



「あんたやっぱり生意気よ! もう知らない!」


「ク、クラリスさんこそ知りません! いつも強引に話を進めちゃうの、駄目だと思いますっ!」



 見事に喧嘩となっていた。

 クラリスは意地っ張り。ファルシアは案外負けず嫌い。互いに歩み寄れるのは一体どちらからか、誰にも分からない。


「あんた、主の私に大きな態度ね。ほんっと生意気になったわ!」


「くっクラリスさんはもう少し、人の事を考えてください!」


「はぁ~?」


「むぅー!」


 睨み合う二人。

 そこに誰かいれば、うまい具合に事態を収めてくれたことだろう。

 しかし、今回は二人きり。ヒートアップすればするほど、こじれていく。


 とうとう、クラリスは扉を力強く指さした。


「出て行きなさい! しばらく反省していなさい!」


「え……」


 ファルシアの頭の中で、彼女の言葉はこう聞こえてしまった。


 ――近衛騎士クビよ! この城から出ていきなさい!


 ファルシアの身体に電流が走った。

 騎士じゃなくなる。

 この事実に、彼女は目眩(めまい)をおこしそうになった。

 しかし、ファルシアは今、冷静ではない。自分から謝るという選択肢がなかったし、クラリスと冷静に話し合うという考えも出てこなかった。


「わ……分かりました。お世話に、なりました」


「ちょ、ちょっとファルシア」


 もともと荷物が少なかったファルシアは、リュックを一つ背負うだけで準備が終わってしまう。

 ファルシアはそれでも、クラリスに一礼するだけの恩を感じていた。


「こんな私を、少しの間でも近衛騎士にしてくれて、ありがとうございました」


「は? ファルシア、あんた何言ってんの? ねえファルシア! ファルシアってば!」


 ファルシアの耳に、クラリスの声は届いていなかった。

 失意の中、ファルシアは城の外へと出るべく、ひたすら歩を進めるのであった。


 一人取り残されたクラリスは、すぐには動けなかった。


「えっ……まさか、本当に出ていった?」


 言葉を口にして、ようやく事態を認識したクラリスは慌てて部屋を飛び出す。

 そこにはもうファルシアの姿はなかった。


「クラリス王女? どうされたのですか?」


 騎士団長ネヴィアが不思議そうな顔で近づいてきた。

 いつものクラリスならば、素っ気なくやり過ごすのだが、今はそれどころではない。


 事の一部始終を説明すると、ネヴィアは頭を抱えていた。


「クラリス王女、なんと馬鹿なことを……」


「私が悪いって言うの!?」


「はい。その通りです」


 一刀両断。

 ネヴィアは手心を加えるつもりは一切なかった。


「私が見てきた中で、ファルシアと王女の相性は最高だと思っていました。まぁ一度くらいは喧嘩する日が来るとは思っていましたが、これは……」


「ファルシアは本当に出ていったと思う?」


「城から出た報告はまだ聞いていませんが、時間の問題でしょうね」


「じゃ、じゃあネヴィア。早くファルシアを――」


「私は命令とあらば従いますが、クラリス王女は本当にそれで良いのですか?」


 痛い所を突かれてしまった。

 ネヴィアに言われなくても理解していた。

 この問題に関しては、誰でもない。自分とファルシアの問題だ。


「……下がりなさいネヴィア。私はこれから用事を足してくるわ」


「はい。では、良き結果となるように祈っています」


「不要よ。私は私の力で最良を引き寄せてみせるのだから」


 クラリスは走り出した。

 結果として、ファルシアはすでに城から出ていってしまっていた。


 だが、これで諦めるクラリスではなかった。


 彼女が奮闘している中、クラリス王女に影が忍び寄る。

 それはファルシアとクラリスにとって、最大の試練とも呼べる影だ。


 ファルシアはこの後、城を出ていったことを後悔する。

 クラリスはこの後、ファルシアを追い出したことを後悔する。


 さぁ、最後の物語が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 心に従うんだ!本当にしたいこと、本当に欲しいものはもうわかっただろう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ